ぼくの姉は世界最強の師匠!-お姉ちゃんが立派な男にしてあげる!!-

さいとう みさき

プロローグ ~ 始まり ~


 「ソウマ君、大きく成ったらあたしがお嫁さんにもらってあげるね!」


 「いや、ミーニャそれは違うんじゃ無いの? 僕がミーニャをお嫁さんにもらうんじゃ‥‥‥」


 「だめだめっ! ソウマ君は弱虫だからあたしが旦那様でソウマ君がお嫁さん!」


 「え~、いくらミーニャが一つ年上だからってそうれはずるいぃ~」


 「いいのっ! ソウマ君があたしのお嫁さん!」




 ―― はぅっ!? ――



 目が覚めた。

 なんであんな昔の夢が?



 「ソウマ起きなさい、朝ごはんが出来ているわよ?」



 僕が目覚めると同時にフェンリル姉さんが部屋に入って来る。

 何故いつも僕が目覚める頃に入ってくるのだろう? 

 

 フェンリル姉さんは部屋に入って来るなり僕の布団に手をかけ引っぺがす。


 「ほら、早く起きなさい。じゃないとお姉ちゃん我慢できなくなっちゃうから‥‥‥」


 何が我慢できないんだよ?

 僕は渋々起き上がると姉さんはいきなり僕の頬にキスしてきた。


 「ちゃんと顔洗って来るのよ」


 そう言ってパタパタと部屋を出て行った。

 両親を早くに亡くした僕たちだったけど姉さんはすごく面倒見が良い。

 真っ赤な髪の姉さんの後姿を見送る。

 今年で十七歳かぁ。

 美人で胸が大きい姉さんの事だ、きっと良い相手がいたらすぐにお嫁さんに行っちゃうんだろうなぁ‥‥‥

 

 自分の事は自分で出来るようにならなきゃなぁ。

 僕も十二歳になるし後三年で成人だもんなぁ。


 僕はあくびをしながら起き上がった。



 * * *



 「そう言う事で、あたし今日から魔王をしなきゃいけないの。ソウマ君、きっと君をお嫁さんに迎えに来るからそれまで待っていてね」


 朝から幼馴染のミーニャが家に来ている。

 そしてとんでもない事を言っている。

 もう十三歳になるし最近めっきり可愛くなってきているのになんか残念。

 僕は茶色い短い髪の毛が猫毛の様になっている奇麗なミーニャの顔を覗き込みながら聞く。



 「ミーニャ、魔王って何? それにまだぼくがお嫁さんなの?」


 「当り前じゃない! ソウマ君はあたしのお嫁さん、だってソウマ君村で一番弱いじゃない!!」



 「うっ」



 確かに僕はこの村で一番弱い。


 去年の収穫祭の力比べでは最下位だった。

 岩運び競争でもたかが五百キロの岩を持ち上げられないのは僕だけだし、木刀試合でもガレント流剣技、一の型しか使えない僕はいつもみんなにふっ飛ばされている。

 


 「だからね、あたしが世界征服してソウマ君をお嫁さんにもらってあげればもう誰にもいじめられずに済むのよ! ね、いい考えでしょ!? だからしばらく村を出るけどソウマ君、必ず迎えに来るから待っていてね!!」


 ミーニャはそう言って元気に手を振って家を出て行った。

 僕は玄関でミーニャを見送りながら手を振る。

 どうせこの後先生の所でまた会うのだろうから。


 その時はそう思っていた。



 ミーニャは少し離れた広場まで行くと地面に手をついて魔法陣を発生させる。



 って、ミーニャいつの間にそんな魔法覚えたの!?


 

 僕が驚いていると赤黒く光る魔法陣からぬっと巨大な悪魔が立ち上がった!!


 「はぇっ!?」


 「ソウマ! 何この気配!? まるで魔人でも出たかのような感じは!!」

 

 家の中からエプロン姿のフェンリル姉さんがお玉を持ったまま駆けだしてきた。

 そして魔法陣から出てきた悪魔を見るや否やキッと睨んでお玉を構える。


 「ソウマ、危ないからさがっていなさい。こんな所に魔人が湧いて出るなんて! 滅します!!」


 そう言ってエプロンを翻しながらその悪魔にとびかかる。



 「はぁっ! ガレント流剣技九の型! 九頭閃光ぉっ!!」



 カッ!


 ぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこ、どがぁぁあああぁぁぁっ!!




 『グロロォオオオオォォォォッ!!』


 悲鳴を上げた悪魔はその場に倒れて光の粒子になって消えてしまった。

 そしてどうやら悪魔の肩に乗っていたミーニャは足場をなくしてふわりと地面に降り立つ。 


 

 「くっ! フェンリルさん!? 流石ですね、村一番の剣の使い手は伊達じゃない! ソウマ君と違って魔人を一撃でぼこぼこにするなんて!!」


 「ミーニャちゃん? これはどう言う事?」


 「フェンリルさん、私は魔王に成ります。魔王の刻印が出たので全てを思い出しました。なのでこれから世界征服します。そして征服が終わったらソウマ君をあたしのお嫁さんにもらいに来ます!」


 頬に手を当てミーニャはくねくねといやんいやんしながらそう言い姉さんを指さす。



 「だからそれまでソウマ君に手を出しちゃだめですよ! ソウマ君の初めては私のモノですからね!!」



 びしぃっ!!



 「くっ! ソウマの初めて‥‥‥」


 たじたじ‥‥‥



 いやいやいや、姉さんそこじゃないだろ!

 それに僕の初めてってなにっ!?

 ねえさんは少し赤い顔をしながらよだれを拭き取っている。




 村は先ほどの騒ぎで人が集まり始めている。

 悪魔を見た者もいる様で手にはすでに武器を持っている人もいる。


 


 「何事じゃ!?」 



 長老が事態を確認する為に出てきた。

 するとミーニャは長老に向かってぺこりと頭を下げて挨拶する。


 「あ、長老おはようございます。あたし昨日の夜に魔王の刻印が出ちゃって全てを思い出したんですよ。それで世界征服しに行きますので先生には当分授業には出られないって伝えておいてください。それじゃ、行ってきます!」


 そう言ってミーニャは今度は地面の魔法陣からグリフォンを呼び出しそれに跨ってすぐさまその場を飛び立って行ってしまった。



 えーと‥‥‥




 「魔王じゃとぉ~っ!? 何と言う事じゃ!! ミーニャの魔王が覚醒してしまったか!! こりゃえらいこっちゃ!! フェンリル、フェンリルは何処じゃ!?」



 「長老、ここに」


 「フェンリル、すぐにミーニャを連れ戻すのじゃ! こんな事がばれたらあのお方がお怒りになる!! それにご近所迷惑じゃ! ご近所の他国にうちの村の者が『魔王やってます』などと知られたらえらいこっちゃ! すぐに連れ戻すのじゃ!!」


 「でも、私はソウマの面倒を見なければならないのですよ?」


 「ちょうど好い、ソウマはミーニャと仲が良かったはず、一緒に行って連れ戻して来るのじゃ! ついでにソウマも鍛えてやってくれ、この村ではソウマのレベルでは危なっかしくて見ておられんからな」



 フェンリル姉さんはしばし考えこんでいる。

 僕をちらちら見ながら。



 「ちょ、長老。つまりソウマと二人っきりで村の外に出ても良いと言う事ですね?」


 「そうじゃが何か問題でもあるのか?」


 「いえいえ、願っても無い! じゃ、無くて、分かりました! 村の外に出て良いという許可もいただけるしミーニャを連れ戻しに行ってきます!」


 姉さんはそう言ってぐっとこぶしを握り締め僕を見てからまたよだれを拭く。



 何故よだれが出るの?

 なんとなく僕を見る目が血走っているような気がするけど‥‥‥ 

 

 

 「そうと決まればソウマ、出発の準備よ! とうとう村の外に出られる! しかも村の外なら私たちが姉弟と言う事は誰も知らない! これでソウマの初めては‥‥‥ うふっ、うふふふふふっ」



 何故だろう?

 ものすごく身の危険を感じるのは?


 でもミーニャを連れ戻す事はしなきゃいけない。

 だってミーニャは僕が貸してあげた宿題のノート返してくれていないのだもの。

 このままじゃ先生に怒られる。




 こうして僕とフェンリル姉さんはミーニャを村に連れ戻すために初めて村の外の世界に出ていくのだった。   

 

  

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