生きる意味がなかったので異世界を救うことにした。

眞虱七火(ましらみななび)

第1話『導きの鴉』

 

 神木が、青田風あおたかぜくすぐられ微笑んでいる。


「……」


「お主はそれでいいのか?」


「此れは約束じゃ、此方こなたに最早生きる意味などないのじゃから」


「……」


「実り子は必ず俗世を裏切り、破滅を導くじゃろう」



 雨上がりの泥濘ぬかるんだ土の様に水分を持った泥の上を抱擁ほうようする静寂に、断続的なノックをする機械音が響き渡る。誰かが何も無き丘を歩いている音だ。


「(そろそろ18区を抜ける頃か…)」


 光の入らない、人形の瞳を持つ青年の様な姿をしたそれは立ち止まり、天使の梯子が掛かる空を見上げた。


 まるで天をあざける黒い鳥が19区の方へと飛んでいく、滲んだ景色の奥には崩落した古代の冷たい建造物と乾いた風が覗く。


「(カラスという生き物が好きだ。16区で発見した古代の遺産には、黒く空を駆ける生命はカラスであると記されていた)」


「(カラスが降り立つということは、生命を維持する資源である『命力』がどこかにあるということだ)」


 何も無き湿った丘を下る足音が再び静寂をノックし始めた。

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