第4話 公園の決闘

 俺たちは近くの公園に連行される。

 何台ものスクーターが公園の中に止めてあった。

 予想どおり公園では俺たちの処刑ショーを見ようと何人もの観客が待っていた。

 金髪やら紫やら青やらに髪を染めた男たちが、バッグから道具を出す。

 バット、角材に鉄パイプ。刃物はない。なめてんのか。

 ギャラリーの中に金髪のかわいい娘がいたので手を振ってみる。

「アホかこいつ」という顔をされた。

 その金髪のヤンキー娘が機嫌悪そうな声を出した。


「やっぱやめようよ。見ろよこいつら。殴ったら死んじゃうよ」


 この文化レベル底辺の中、まともな発言だわ。

 俺たちの命を奪ってはいけない。

 もちろんウルトラバカの菊池だって同郷の人間だ。

 ミッドガルドのクソ貴族とは違う。

 殺してはいけない。

 ところが菊池はそれに逆上。怒鳴り散らす。


「サラ、うっせーぞ! 俺はこいつぶっ殺すんだ! てめえガタガタ言ってると犯すぞ!」


「シュウたんわぁ、キクピーには無理だと思うの♪」


 女子への態度にムカついたので野次を飛ばしてやった。

 するとサラと呼ばれた女の子が「ブッ」とふき出した。

 俺は手を振る。

 すると菊ピーぶちキレ。


「神宮司ぃッ! てめえ殺してやる! ぜってーぶっ殺してやる! そこの眼鏡! お前もだ! ボコボコにして川に沈めてやる!」


「あ゛ッ? いまなんつった?」


 今まで大人しかったハヤトがブチキレた。

 一番怖い人怒らせちゃった。ぼく知ーらない。


「あひゃひゃひゃひゃ! オラァッ! 死ねや!」


 頭の悪そうな声がした。

 準備が整った金髪モブAが木刀で殴りかかってきたのだ。

 両手で持てばいいのに格好つけて片手で叩きつけてくる。

 俺は懐に入り木刀を持った手をつかむ。

 同時にあご目がけて拳を叩き込む。

 ごつんという音がして動きが止まる。

 そのままサイドに回って、木刀を持っている手を両手でつかんで手首を捻りながら投げる。

 いわゆる小手返しである。

 怪我をさせない工夫ができる優しい技。異世界で習った。

 本当だったら肘へし折ってから、奪った木刀で頭がへこむまで殴りつけるのがセオリーだ。

 だけど打ち合わせで「怪我をさせない」ってハヤトと約束したんだ! 俺偉い!

 俺は木刀を奪うとハヤトに投げる。

 ハヤトは木刀をキャッチするとブンブンと素振りした。

 あれ……? なんか音がやべえんですけど。


「死ねやああああああああああッ! クソ眼鏡ぇッ!」


 バットを持った紫色髪のモブBがハヤトにつっこんでいく。

 ハヤトは木刀を構えるとモブBの頭を思いっきり振り抜いた。


 バキッ!


 ああ、なんということだろう。

 こんな陳腐な擬音ではなく、もっとふさわしいものがあったに違いない。

 顔面に当たった木刀が折れた。いや四散した。爆散した。

 男は顔面を中心にぐるっと回って宙に浮いた。

 そのまま頭から地面に落ちる。

 からんとかつて木刀だったものの先っぽも地面に落ちた。

 悲鳴も上げられずモブBはKO。

 ピクリとも動かない。


「シュウ、このメイスすぐ壊れるぞ」


 ハヤトはかつて木刀だったものの柄の方をぽいっと投げ捨てた。

 そのままハヤトはモブたちに指をさす。


「おまえらよく聞け。俺はおまえら下等生物に舐められるのと、そこの蛮族の付属品扱いされるのだけは我慢できねえ。全員死ぬ寸前まで殴ってやるからとっととかかって来い」


 ひどい扱いである。ぼく蛮族じゃないもん!

 俺が心の中で抗議していると、モブどもが武器を持って俺の方に突っ込んでくる。

 ハヤトと喧嘩するの嫌だったんだね。わかる。


「てめえ死ねや!」


 バットを持ったモブCが、がに股になって俺の頭を真っ直ぐに狙ってくる。

 俺はさっと下から肘を押さえて止めるのと同時に、やさしく股間を蹴っ飛ばす。

 水鳥が羽ばたくように、優しく、蹴り上げて重力から解放する。


「ま゛ッ!」


 豚の首を絞めたような声を出してモブCは突っ伏した。

 俺は後ろからモブDがやって来るのがわかっていた。

 サイドキックを角材を持ったモブDの腹にぶちかますと、ハヤトにモブCのバットを放り投げる。

 角材は取ろうとすると刺さって痛いので奪わない。

 その代わりに飛び回し蹴り。角材ごとローリングソバットの餌食に!

 角材がボキリと折れてモブDもノックアウト。

 やだ、俺かっこいい!

 と思った瞬間、ハヤトがバットでカッキーンっとモブEをホームラン。

 俺の活躍が一気に霞む。

 モブFが逃げようとするので襟をつかんで止めてからぶん殴る。

 GとHが俺、IとJが泣きながらハヤトに向かう。

 俺はGの顔面に跳びヒザ蹴り。

 Hがボクシングみたいに構えたので、俺も構える。

 フックフックフック、三発殴ってくるが全て当たらない。遅すぎる。

 拳をかいくぐってモブHの体勢が崩れたところにボディへ一発。

 爆弾みたいなボディブロウが脇腹にめり込む。


「うげえええええええええッ!」


 吐瀉物はモザイクと七色のエフェクトでお送りしています。

 ハヤトの方を見ると一人の顔面をぶん殴ってノックアウト。

 もう一人をテイクダウンしてマウントポジションで容赦なくぶん殴っていた。

 最後はキクピー。

 俺はニヤニヤしながら近寄る。


「うわああああああああああ! 来るな! 来なあああああああああああッ!」


 菊池はぺたんとその場に腰を落とす。

 あー、腰が抜けたのね。わかるー。

 でも菊池も名のある蛮族。

 腰が抜けながらもスクーターまで撤退。

 そして力を振り絞ってスクーターに乗ると震える手でエンジンをふかす。

 え、ちょっと、喧嘩なのにマジで殺す気かよ!


「ぜってえ殺してやる! お前だけはぶっ殺してやる!」


 バカがバカの証明をした。

 さすがの俺もポカーンとした。

 殺人は最後のカードだよ。


「オラ、シュウ受け取れ!」


 ハヤトがバットを投げた。

 俺はそれをキャッチするとブンブン振り回す。


「うわああああああああああ! 死ねえええええええッ!」


 スクーターが俺に突っ込んでくる。

 俺の後ろにはギャラリーの女の子たち。

 失敗は許されない。


「成仏しろよ!」


 カッキーンっといい音がした。

 バットはへし折れたけど、スクーターと菊池は空を飛んでいた。

 菊池がベンチに着陸。

 スクーターは砂場のフェンスに胴体着陸した。

 次の瞬間、火花が見え「ボンッ!」と火花が大きくなった。

 燃料が爆発しさらに火が大きくなる。


「ハヤトちゃん。わたしまたなにかやっちゃいましたーッ!?」


「うるせえバカ! 逃げるぞ!」


 襟をつかまれ強制連行。

 その場にいたギャラリーたちも散り散りになって逃げる。

 遠くでサイレンの音がする。

 国家権力がやって来たに違いない。

 俺たちは夜の闇に消えるのであった。


【クエスト:公開処刑クリア。レベルアップ】

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