第71話 とある千秋のマフラー返し

 十二月、そろそろ年の終わりが見え始めている。今年もクリスマスと言う一大イベントが近づいている。昨年は何だかんだで上手く行ったからな。


 今年も四人にプレゼントを買ってあげたり、パーティーをしたりしたい。まぁ、今年は欲しい物を欲しいって言ってくれるだろうしスムーズにイベントをこなせるだろう。



「カイトー」

「ん?」



朝食を食べ終えてそろそろ家を出ないといけない時間。千秋は俺にニコニコ笑顔で真っ白な手編みマフラーを差し出す。


これ、この前、俺が作った奴……もしかして、ダサいからいらないとか!? 他に良い奴を見つけたとか!?


「そ、それ……」

「カイトの為に作った! だから、使って!」

「千秋が作ったのか? どうやって?」

「んー、この前作ってたカイトの姿を思い出して……何となく?」

「……そうか」



天才か? 俺の娘は。この間、マフラーを作った姿を見せとは言え、俺は全くと言っていい程やり方は教えなかった。作ることに集中していたからだ。


「よくできてるな……俺より上手く出来てるんじゃないか?」

「それは無いと思うぞ。それより、ほら使って!」

「おう」

「因みに、我とお揃いの色にしておいた!」

「おおー、ありがとうな」

「えへへ、どういたしまして。これで仕事を頑張リンゴだ!」

「ありがとな」


どこからリンゴが出てきたのか分からないがマフラーは素直に嬉しい。作られたら作り返す。マフラー返し……と言おうと思ったが最近は冷えるのでこれ以上部屋を冷たくするわけにいかないので黙っておいた。



「それじゃ! カイト、行ってくるぞ!」

「おう、行ってらっしゃい」



千秋を含めた四人は先にドアを開けて外に出て行った。俺も仕事に向かうためにスーツを着込んで、マフラーをして外に出る。


冬だと言うのに寒さを感じないくらい、体の内も外も暖かった。


◆◆



「おい、そのマフラー」

「あ、これ? 天使からちょっと早いクリスマスプレゼント的な?」

「あ、いや、そうじゃなくて、役所内じゃ付けなくていいだろって意味。暖房ついてるし」



 仕事場でも千秋が作ってくれたマフラーを巻いていたら佐々木にそれはどうなんだと言う指摘をされた。


「確かにな。だが、千秋が折角作ってくれたんだ。存分に使わないとな」

「千秋って、あの食いしん坊の子か」

「食いしん坊って言うとちょっと不機嫌になるから、本人が居る時は健康的生活をしている育ちざかりか食べ盛りって言ってくれ」

「そうか……女の子って色々複雑だな」



 互いに一言、二言言葉を交わしながら仕事をこなす。あまり話しすぎる作業スピードが落ちてしまうのでそこは気にしないといけない。


「そう言えばさ……俺、前に小野さんが気になってるって話したろ?」

「あー、そうだったな」

「最近、ちょっと電話とかするようになってさ」

「そうか、良かったな」

「ああ、うん……そうなんだが……」


何やら佐々木の歯切れが悪い。以前に小野さんが言っていた性転換の事でも気にしているのかと思ったのだがそうではなかった。


「小野さんがペットの犬が話す時があるって電話で言ってたんだが……犬って……言葉は話すか?」

「……さぁ、どうだろうな……」

「流石に冗談だよな? いくらなんでも犬は……話さないよな?」

「そうかもしれないな」



話す猫なら聞いたことがるが……。まぁ、これもゲーム知識が基準となってしまうが。


ゲームだと、千冬の友人キャラは猫。友人と言っているのに猫なのだ。しかも、言葉を話すことが出来ると言う特殊な猫。その正体は超能力を持った猫で知能があって人間に近い声帯を持つと言う能力。


もしかして、それと同じような能力を持っている犬なのか? それともただ単に冗談を言っているのか……。どちらにしても下手な子とは言えないな。ゲームの設定から推測したことは確認がしっかりとれるまで踏み込まない方が良い。



「だが、冗談だとしても折角話してくれたんだ。そこから会話でも弾ませれば良いんじゃないか?」

「そうだな……」



佐々木が小野さんがどういう結果になるかは分からないが……俺はあまり恋とか知らないし、分からないから外野から偶に声援位が丁度良いだろう。


それに俺は千春達が第一だから。あまり出来る事もないし。程ほどの距離で見守らせてもらおう。



◆◆




 夜は一人でテレビを見ることが以前の定番だったのだが最近は、千秋と一緒にテレビを見ることが多くなっている。一度、千春や千夏、千秋、千冬が二階に上がるのだが少しすると千秋が降りてきて膝の上に座る。


 そして、一緒に話したり、テレビを見たりするのだが……。


「カイト! マフラー、結構頑張って作ったんだ!」

「ありがとうな。暖かったよ」

「カイトのもぽかぽかして最高だった!」



 千秋は今日も一度寝る為に上に上がったのだが、一人だけ降りてきて俺の膝の上に陣取る。日に日に多くなっている気がするが気のせいだろうか。千秋は腰を下ろして俺の胸板に背中を預ける。


 そして、上目遣いで目を輝かせながら話すのでこちらとしては可愛くて仕方ない。



「カイト、今度一緒にロールケーキ作ろう!」

「いいな、そうしよう」


「今日はね、メアリがね。ふぇいとー? セロ? とメイド、いん、あびしゅ? って言う超ほのぼのアニメがあるって教えてくれたの!」

「そうか……我が家もアベマ入れるか……」


「もうすぐ、クリスマスだから欲しいものがあるの」

「買おう」



千秋のマシンガントークを聞きに徹する。子育ての本で子供の話はよく聞いてあげた方が良いって言ってたからな。こういう時に実行しないといけない。



「あ、そう言えば。あの超人気女優と、若手女優が結婚したんだって。名前は知らないけど」

「あー、そんなニュースもあったな」

「同性婚ってやつなのか?」

「そうだな」

「ふーん、同性婚とか、違う性別同士で結婚するって何か違うのか?」

「……特に変わりはないと思うな。一番好きな人同士で結ばれるのが結婚だから。それぞれ愛の形があるんだろう」



 良い感じで教育的なことを言えたなと心の中でガッツポーズ。千秋はそうなのかーと腕を組みながら頭を回して考え込んでいる。


「カイトは結婚しないの?」

「今は良いかな」

「好きな人はいないの?」

「好きな人か……大事と言う意味と重なるけど、千秋を合わせて四人は大事で好きだな」

「え!? じゃあ、カイトは我等の中の誰かと結婚するのか!?」

「そう言うわけじゃないぞ……。何というか……好きのベクトルが違うと言うか」

「……そう……。カイトは我たちの中だったら誰が一番好きなの?」

「……何でそんなこと聞くんだ?」

「なんとなく」


 千秋はジッと俺の目を見た。赤と青のオッドアイが俺の目を射貫く。下手に誤魔化してもまた聞かれそうだし、正直に答えよう。


「皆一番だな。優越はないな」

「そっか……」

「ど、どうしたんだ?」


千秋はちょっと悲しそうだった。俺も慌てて千秋の言葉をかける。


「……てっきり、我って言ってくれると思ってた」

「そ、そうか。ごめんな」

「……我が一番カイトを見てるし。カイトと一番話してるし、頭も撫でて貰ってるし、ハグとか、一番最初に仲良くなったのも、私、だし……」

「……いや、その、何だ。千秋の事は大好きだぞ? ただ、皆も大好きって言うだけだ……。皆家族で大事だから、優越はつけられないんだ。ごめんな」

「……うん。分かってる。我も誰かが一番とか、言えないし……」



千秋は膝の上から降りた。



「今日は寝るね。おやすみ、カイト」

「おやすみ、千秋」



少しだけ、満足をしていないような、悲しそうな千秋の顔がその日は頭から離れなかった。









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