第29話 三学期
充実した冬休みが終わり学校へ再び行く日がやってきた。案の定と言うべきか、冬休み中に体内時間が少しずれていたせいで千秋と千夏の目覚めが悪い。なるべく休みに入る前と同じような生活を心がけてはいたのだがやはり長期の休みになってしまうと僅かに狂ってしまうし、こちらも甘やかしてしまう。
ついつい朝の十時くらいまで寝かしてしまったのだ。
だが、千冬は直ぐに起きて布団をたたみ二人の起こすのを手伝ってくれる。やはりしっかり者である。
うちも姉として鼻が高いなぁ。
「ほら、秋姉」
「んんっ……学校行きたくない」
「そんなこと言わずにほら、起きるっスよ」
「ううぅ、寒い……」
無理やり掛布団を剥がして千秋を起こす。千冬も心を鬼にして千秋を起こしているんだろう。うちも寝顔が可愛くてずっと見ていたいけど、鬼になり千夏を起こさないといけない。
「千夏、起きるんだよ……朝なんだよ。今日から学校だよ」
「……んー」
「……ごめんね、日光……」
「ぎゃあぁあああ!!」
日光が苦手の千夏をの当たる元へ。千夏の叫びが響き渡る。いつものように千夏をうちは起こした。
◆◆
久しぶりにバスに揺られながら学校の最寄りの駅に向って行く。千秋と千夏は欠伸をして目をこする。
いつもより足取りが遅く瞼も重い二人。冬休みの宿題や絵の具セット色々持っているから肉体的にも負担が大きい。それが余計に気分を重くしている。
だが、そんな中でも体に鞭打って最寄りから学校に歩いてく。うち達と同じように他の生徒達も沢山の荷物を持っている。途中で千夏と千冬と別れて教室に入る。
以前のように席につき、荷物を置く。千秋も同じように席について荷物を纏めていた。
「おっす、千春」
「桜さん。久しぶり」
「ひさしー、どうだった? 休み」
「凄い充実してたよ。狭山不動尊に初詣も行ったし、新年になって妹もますます可愛さが増すし。桜さんは?」
「俺も充実したぜー。旅行行ったし、映画見たし」
「へぇー、それは良かったね」
桜さんと久しぶりに話して何となく学校の調子を取り戻することが出来た。二学期でも思ったけど桜さんとは同じ穴の狢なような気がするから仲良くできる。
「ふぁ」
前では千秋が欠伸をしてコクコクト頭が眠そうに揺れている。
「千春の妹って、二学期の時もそうだけどよく眠そうにしてるよな」
「そうだね、ちゃんと睡眠は確保するようにしてるんだけどやっぱり休みで少し体内時間がずれちゃったし、若い時はいくらでも眠れるからね」
「言う事が子供っぽくないな……」
うちと桜さんが会話していると千秋に例のあの男が絡んでくる。年が明けて、新学期になっても奴には関係ないようだ。
「おい、久方ぶりだな」
「ん? あー、短パン小僧か。何か用か?」
「別に? どんな貧相な冬休みを過ごしたか聞いてやろうと思っただけだ」
「そうか……凄い充実な冬休みだったぞ。初詣も行ったし、クリスマスも楽しかったし、トランプもしたし」
「へっ、その程度か。俺なんかハワイ行ったんだぜ」
「おおー、凄いなぁ」
「ふん、俺の父ちゃんが凄いんだ。お前の父ちゃんと違ってな」
「……そうか」
「お前の父ちゃんってどんな奴なんだよ」
「特に言う事もない。ただ、我の保護者はカイトだ。カイトが全部面倒を見てくれている」
「ふーん、まぁ、そいつより俺の父ちゃんの方が凄いけどな」
千秋になんてことを言うんだ。短パン小僧、何故いつもそうやって千秋に絡む。千秋がそう言ったら何だとと言って追いかけまわしてくれるとでも思っているならそれは大きな間違いだ。
そんな子供のような事は千秋はしない。
よそはよそうちはうち。それくらい普通だ、比べることじゃない。そもそも、千秋にあまり両親の事を思い出せないで欲しい。
怒りに肩を震わしていると桜さんがうちの肩を叩く。
「落ち着け、眼が凄いことになってる」
「落ち着いてるよ」
「握り込んだ手が震えてるぞ。まぁ、気持ちも分かるけど。正って千秋に本当に絡むよな……掃除の時とか絶対千秋の机は運ぶし」
「千秋が可愛くて話したいなら素直に会話すればいい……」
「それが出来ないんだろ……正ってそう言う感じだし」
千秋は西野に話しかけられても特に何か特別な反応をする事は無かったのだが、お兄さんの事が話の主軸になった瞬間に目つきが変わった。
「カイトの方が凄いぞ!」
「な、なんだと?」
「カイト料理上手いし、運転免許ゴールドだし、左右確認鬼のようにするし、綺麗好きだし、マンガも持ってるし!」
「俺の父ちゃんもそれくらい出来るっての。それに俺の父ちゃん、運動何でも出来るし」
「ふん、カイトだって出来るもん」
「じゃあ、今度の授業参観、二分の一成人式が終わった後にある大人バレー球技大会でどっちの親が凄いか勝負しようぜ」
「い、いいだろう……や、やってやろう」
「あとで、吠えずら……ッ!?」
西野がうちの視線に気づく。ゾクリと背筋を振るわせて千秋から離れて行った。三学期初日からこんな目つきになってしまうとは。
元々だけど。
そう言えば、お兄さんって運動できるんだろうか?
「ち、千春」
「どうしたの?」
「カイトって運動できるのか?」
「さぁ……うちにも分からないなぁ」
「ど、どうしよう。勝手に勝負することにしちゃった……」
「う、うん……ま、まぁお兄さんって何でも出来る感じだし」
「そ、そうだよな。カイトなら運動できるよな!」
「た、多分……」
千秋もその部分は気にしているようだ。僅かに心配そうに顔をあわあわと慌ただしく変化させている。
「まぁ、大丈夫じゃない?」
「むっ、お前はブロッサム」
「ぶ、ブロッサム?」
先ほどまでのやり取り、そして千秋とうちの会話を全て見ていた桜さんが声をかける。
「良く分からないあだ名付けられてのが気になってしょうがないけど。バレー大会って住んでる地域事にチーム組んで緩くやる奴らしいし、勝負って雰囲気にもならないでしょ」
「おおー、ブロッサム!」
「ブロッサムね……別にいいけどさ」
桜さんの鶴の一声で心配が事が強い風の日の新聞紙のように吹き飛んだ。それなら安心だと千秋はほっと一息。安心すると再び眠気が襲ってきたようでうとうとし始める。
その雰囲気で千秋は始業式でもうとうと、学期初の授業でもうとうと……うちもちょくちょく、肩をポンポン叩いたり、小さい紙に質問を書いたりして眠気を削ごうとしたのだが……
ついに先生にバレてしまう。
「千秋さん、起きなさい」
「はぅ!?」
「今寝ていましたね?」
「い、いえ!? 寝てません!」
「ですが、今目を閉じてたようですが?」
「そ、それは……あ! 世界一長い瞬きをしてました!」
「なるほど、面白いから許します。次から気を付けるように」
「よっしゃ!」
流石千秋。機転が利くとはまさにこのことなんだろう。だが、再びうとうとし始める。勉強が詰まらないと言うのも理由にあるんだろう。冬休みお兄さんと一緒に遊んでるときは一切眠くならなかった。
千秋は集中力がない訳じゃない。寧ろ、一度ハマったらかなり入れ込むタイプだ。クリスマスカードも一番集中して長い時間をかけていた。
多分、勉強もその気になればかなり出来ると思うんだけど……人には向き不向きがあるのは当たり前だけど……
出来れば、千秋にも、勿論千夏にも勉強を出来るようになって欲しい。かと言って無理やりは出来ないし。
新学期になった事だし、心機一転勉学にも励んで欲しい。でも、嫌な事はさせたくない。
難しい、妹達とどのように接すればいいのか分からない……三学期はイベントも多い。授業参観は特に大きいと言っていいだろう。
そう言えば、授業参観の前に縄跳び大会もある。
何だか、色々波乱万丈な三学期が始まったような気がした。
◆◆
冬休みが終わり四姉妹は学校へと再び通い始めた。休み中に出来た癖は中々抜けないようで起きて準備するのに四苦八苦するのはこちらも思わずにっこりだ。
「なぁ、冬休みどんな感じだったんだ?」
「特にこれと言って変わった事はしていない、よくある家族サービスだ」
「へぇ……あの四姉妹の子達にどんな感じで接してるんだ?」
「どんな感じとは?」
仕事場で佐々木は偶に四姉妹の事を聞いてくる。恐らくだが暇つぶし程度に聞いてやろうと言う魂胆しかないのは分かってはいるが俺が冬休みの事をはして、己自身で生活を振り返った時になんらかのパパとしての改善点が分かるかもしれない、よし、話そう。
「えっと、抱っことかお風呂とかしてんのかなって」
「頭を撫でるのがギリだな」
「へぇ。もっとベタベタするのかと思ってた。子供だし」
「……お前、何か変な事を考えてるな。一つ言っておく。あの子達は小学四年生だ。最近知った事を例に挙げる一般的に父と娘がお風呂に入るのを止めるのは個人差はあれど大体7歳から10歳ごろ。あの子達は丁度その年齢と合致する。小学四年生にも成れば徐々に精神も成熟して色々考えることもある。よく、父親が接してくるのを嫌がると言う娘がいるが同時に嫌がらない娘もいる。だが、嫌がらない子にも父親が接するのが楽しそう等と言うのに気を遣って嫌ではないふりをするケースもあるんだそうだ。だとすると、下手に接触を重ねるのはダメだな。ぎりぎりのぎりで頭撫でるくらいがちょうどいいと言う結論だ。まぁ、これも嫌そうだったらすぐにやめるが」
「お前何歳だっけ?」
「21だ」
「うっそー」
「普通だな」
「いやいや、ちょっとお前怖いわー」
父親についてエゴサして知っているだけなんだがな……
俺は大したことはない。ただ、エゴサをしただけなのだから。まぁ、周りがどう言おうと関係はない。
俺は俺なりに頑張るしかないのだ。
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