第17話 信頼を得るには

 大昔から世界には様々な未知が存在する。幽霊や妖怪、世界破滅の予言、etc。そして、人々は未知を恐れる。自身の常識を外れた存在を恐れる。



 例えそれが自身の血縁者だとしても、親族だとしても、子供だとしても関係ない。恐れて恐怖して排除しようとする。非道で残虐な者達が世界には居るのだと知った。望んで異端になったのではないのにどうしてこんな目に遭う必要があるのだろうか。



 ただ、只管に世界は残酷だと思った。でも、そんな中でも僅かな希望はあった。光があった。


 姉と二人の妹だ。一緒に居てくれる、信じあえる唯一の家族であり存在。世界も周りの人たちも信用なんて出来ない。背中なんて見せることはできない。私が背中を見せて気を許すのは姉妹だけだ。



 どんな時でも4人で居れば、寒くても怖くても平気なはずだ。お腹が空いても、他の家の子がお母さんやお父さんと手を繋いでいる光景を見ても平気だ。


 ……本当は少しだけ寂しさや嫉妬、妬みなどもある。でも、それでも虚勢を張れるくらいには耐えることが出来た。


 環境は最悪でも自分には姉妹が居るからそれだけで幸せ者だと自分に言い聞かせてきた。


 両親は最悪だけど、環境も世界も最悪だけどそれでも自分には信頼できる姉妹が居るから幸福。



 そんな考えがずっと頭の中にあった。そんな中で生活をしていたある日、全てが変わった。


 両親が死んだ。交通事故らしい。普通の子なら何かをを感じるのかもしれない。悲しみや喪失感、悲壮。でも、私は不思議と何も思わなかった。そうなんだ、くらいしか思わなかった。


 私だけじゃない。きっと姉妹も何も思わなかっただろう。それより誰が自分たちを引き取るのかと言う事の方が気になっていた。両親が自分たちの事を親族に言いふらしていると分かったのはお葬式の時だ。視線が物語っていた。


 世界が全部、敵に見えた。この中の誰かに引き取られることになるなんて最悪にもほどがある。視線と聞こえるように言っているのではと思うような話声。


 イライラが止まらなかった。だが、それ以上にその視線に恐怖を感じて姉や千冬の背に隠れてしまった。


 ずっと、不躾な視線を送られ続けていたその時にある男に出会ったのだ。そいつは今まで出会った事のない不思議な奴で私達を引き取りたいと言う。


 意味が分からない。ただ只管にそう思った。あの男の部下? 何故、春はそんな男の元に行くと言った? 疑問が尽きないまま生活がスタートした。


 環境は恵まれたものであった。でも、そいつを信頼は出来ない。私だけじゃなくて姉妹もそうであると思っていたがそれは違った。自分以外はどんどん信頼を向けていく。


 自分だけが信頼が出来ない。それに困惑して怖くもなった。


 『疎外感』


 自分が周りからずれた異端な存在なのではないかと言う恐怖が襲って来た。


親が死んでも何も感じない。満月の光を浴びると……明らかに自分の見た目は人知を超えてしまう。人を信用できない。


 化け物は人の心が分からない。異形な姿をしていると聞いたことがある。それが自分なのではないかと思ってしまう。その内姉妹すらも信用が出来ないのではないかと思ってしまう。


 それが怖くて怖くて仕方ない。どんどん自分がその存在に近づいているのではないかと考えてしまう。自分ではどうしようもないこの感情。



 

 ただ、私にはそんな日が来ないで欲しいと願う事しかできなかった。














◆◆


 

 最近、千冬が俺に話しかけてくれる機会が多くなった。千秋も以前より懐いてくれる。千春は相変わらずシスコンで何かと目を光らせているが会話は以前より出来ている気がする。


 日辻四姉妹が俺の家に来てもうすぐ4ヶ月が経とうとしている。日に日に会話が全体的に増えて家の中が賑やかになっている気がする。それは非常に嬉しいのだが千夏だけは中々コミュニケーションをとるのが難しい。毎日話しかけてはいるのだが良い返事があまりない。


 ずっと、緊張するのはきっと疲れる。ストレスもたまる。体にも悪いだろう。



 もうすぐ、クリスマスだ。盛大に行きたい。今までにない素晴らしい経験をしてほしいと思っているがどうするのが正解なのだろうか。



 無理に千夏に関わってしまうのもどうかと思う。彼女は彼女自身の両親によって包丁で刺されそうになったトラウマがある。姉妹以外の人を信じるのが彼女にとっては何よりも難しいものになっている。最初はある程度ゆっくりで良いと思っていた。だが最近自分以外が俺と関わる姿を見て何かしら思う事はあるだろう。


 千夏が最近、悲しそうな顔をしているのを何度もしているのがその証拠だ……どうにかしたいと思ってはいるが……


 それに自分の超能力の事でも悩んでいる。彼女は満月の光を浴びると身体が成人並みに成長する。そして、眼が青から赤になり歯が少し鋭くなる。それで自分は人間なのかと悩むのがゲームでイベントとしてあった。


 



 それは分かっているんだ。だが、俺に何ができると言うのだろう。ゲームだったら主人公がイベントなどを得て順調に好感度を上げて、不正解なく、彼女からの信頼を得た。それで貴方の事が人にしか見えない。自分と同じと一緒にしか見えないと言う事で彼女は一歩進むことが出来る。最初はかなり嫌な顔や拒絶をされたがそれも好感度が上がるほどに緩和されていく。


 そんなの分かっている。


 だが、それが出来るのは主人公だからだ。


 俺は主人公じゃない。



 知っているからと言って何が出来ると言うのだろう。俺はお前を信頼しているからお前も俺を信頼してくれと言うのが正解か。それは違うだろう。お前は人だと言う事が正解か。そんなことに意味はない、そんなことで信頼が獲得できると言うなら、彼女が立ち直るなら千夏はこんな苦労はしない。



 知っているのに何もできないとはこんなにもモドカシイ。



「おい、大丈夫か? 仕事中だぞ」

「……ああ、そうだな」

「何かあったのか」

「……信頼を得るにはどうしたらいいと思う?」

「プレゼントとか?」

「……ゲームだったらな……」

「いや、どうした?」



仕事場にまで私情を持ち込んで良いのだろうかと言う理性的判断は俺には出来なかった。そんな俺の肩を誰かが叩く。振り返ると宮本さんだ。



「何かあったの? 悩みあるなら聞くけど?」

「ああー、その……色々、悩みがあるんですけど。取りあえず、千夏って子が居るんですけど。その子の信頼ってどうやったら得れますか?」

「……うーん。色々方法はあると思うけど……何かとんでもない事を起こすと言うのが一つかしら? その特定の子に対して劇的なアプローチと言うか、そんな感じ」

「……なるほど」



千夏に劇的な事って何すればいいんだ? 



「あとは、普通に時間が経つのを待つ」

「……今すぐにってのは無理ですかね?」

「難しいわね。時間ってそれほど凄い物だから。時間で人は育ち、信頼も時間をかけてゆっくりと得るもの。人が誰かを信頼するときそれは劇的じゃない方が普通。一緒に居たり、話したり、遊んだり、積み重ねた時にふと信頼って出来るのものだからね」

「……そうですよね。それが普通」



千秋と千冬は何か劇的な事が偶々起こっただけ。でも、それが特別なんだ。信頼を得るのは普通じゃない。想像以上に難しい。


「うちの娘も反抗期とか色々あってね……でも、真摯に真っすぐ向き合い続ければいつか必ず信頼は得られる。その人に響く言葉もかけてあげられる。それを私は親をしながら学んだわ」

「……」



真摯に真っすぐ向かい合うか……時間をかけて。そう言えばゲームでも高校一年から始まってエンディングを迎えるのは高校三年の卒業式だったな……



いや、今更ゲームを基準に考えるのは馬鹿か。千冬の時に分かった。本来ならあり得ない事が起こるのはゲームじゃないから。


あの子達は俺と関わって変化していった。それが普通だ。



きっと、知っていたとしても千夏の悩みを解決することなんて俺には出来ないし、信頼も得ることは難しいのだろう。それがゲームではなく現実だから。



でも、千夏と向き合う事を放棄する理由にはならない。クリスマスまで時間がない。少しでも良いから千夏と……いや、四人全員と向き合う事を大切にしていこう。



ふと時間を見るともう、定時だ。帰らないと



「宮本さん、ありがとうございました。何か、変わった気がすると言うか、頑張ろうって思えました」

「そう、よかったわ」

「あれ? 俺は?」



俺は定時で帰宅した。



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