第2話 運命の日
『響け恋心』と言うゲームを俺は遊んだことがある。このゲームは女の子同士の恋愛シュミレーションゲーム、つまりは百合ゲーだ。所沢市が舞台であり、そこにある埼玉県立中央女子高校に入学した女主人公とヒロインの四姉妹がハプニングに遭ったり、喧嘩したり、出掛けたり、言葉を交わしながら徐々に恋に落ち、そして結ばれる。
ヒロインは四姉妹と言う事もあり四人なのだが、それぞれが独自に主人公と恋に落ち恋人になり結ばれるルートと四姉妹全員が主人公を囲むハーレムルート、合計で五つのルートが存在する。面白いのが独自ルートに入った場合、結ばれなかったヒロイン同士が恋仲になると言うとんでも展開もあると言う事だ。
百合ゲーをしたのがこの『響け恋心』で初めてだったと言う事もあるがこういう結ばれなかったヒロイン同士が結ばれるのは結構百合ゲーでは当たり前だと言う事を俺は初めて知って驚嘆したのを覚えている。ずっと、普通のギャルゲーとか、シューティングゲームしかやったことなかったからである。
何故、百合ゲームをプレイしたのかと言うと友人がいきなり俺におススメをして来たのだ。
別に百合ゲーには興味なかったのだがかなりおススメをされたので何事も経験かなと軽い感じで手持ちのテレビゲームでプレイすると……キャラが一人ひとり魅力的でイベントフルボイス、細かいところまで繊細に書かれた挿絵、独自の葛藤やドラマ。
端的に言うとハマった。全ルート攻略するくらいにはハマった。俺はその中でもハーレムルートがお気に入りであった。
……まぁ、全部前世での俺の話なんだが。
どういうわけか、俺は転生をしてヒロイン四姉妹の両親の葬式で記憶を思い出した。こんなことがあるのだろうかと思ったのも束の間、俺は直ぐにでも四姉妹を引き取ろうと決めた。
理由は単純、死んだ日辻姉妹もそうだが日辻家の大人はろくな奴が居ない。四人を引き取っても育てもしないで、放逐。部屋に四人を閉じ込めて腫れものを扱うような処遇。
高校に入学するまでは親族間を転々とするのだが、彼女達は常にこういった扱いを受け続ける。ゲームではそういう背景、経歴だと割り切っていたが、彼女達は俺の推しだぞ。そんな目に遭わせるわけには行かねぇ、と言う使命感が働く。愛着もある。
だから、俺が引き取ると心に決めた。
◆◆
夕暮れ時の葬儀場。視線が俺に注ぎひそひそと話し声が聞こえてくる。同期の佐々木がどうするんだと頭を抱えている。
後ろから子供の足音が聞こえる。それがドンドン近くなり俺のすぐ後ろまで近づいた。
親族たちが俺の後ろに目を向けて口を開く。
「……話は聞いていたね?」
「はい。聞いていました」
「どうするかね?」
背中から子供の声が響く。どこか冷めていて氷のような声。俺が何度も聞いた声で知っている声。少し幼さを感じるが幼くても可愛いらしいと言う事実は変わらないようだ。
「……
「「「……」」」
そう簡単にどこの馬の骨か分からない奴の家には行きたくないよな。でも、そいつらの家よりは俺の家の方がいいぞ。と言いたいが信用なんてしてもらえないだろうし。
でも、何かしら言わないとな。色々大人の汚い事を知っている彼女達だ。にこやかに笑って、清廉潔白さをアピールして同居を提案する。これだ! だが、絵面を見ると危ない感じがするけど、まぁ、仕方ない。
俺は笑顔を浮かべて後ろを振り返る。そこには未来のヒロインの幼い姿が広がっていた。
一人は、ピンク髪を肩にかかるショートヘアーで目つきの鋭い碧眼。ちょこっとギャルのような雰囲気がある。先ほどからずっと姉妹を代表して外部との接触、そして姉妹たちを導いていた。
この子が長女にして、氷結系ヒロインと言われている。
二人目は千春の後ろに隠れている、金髪のツインテールに千春と同じく碧眼。少しの怯えを見せているが世の中全て敵だと言わんばかりの疑惑の眼をしている。
この子が次女にして、吸血鬼ヒロインと言われている。
三人目は肩にかかるほどの銀髪でオッドアイ。千春に隠れている千夏の後ろにさらに隠れている。
三女、厨二病系ヒロインと言われている。
四人目は茶髪に碧眼。カチューシャで髪を纏めておりデコが出ている。彼女は誰に隠れる事もなく長女の千春と並んでいる。
四女、しっかり者系ヒロイン
すげぇとしか言いようがない。画面の中でしか見たことがないからいざ、現実で彼女達を見ると不思議と緊張してしまう。
だが、こんな挙動不審ではいけない。堂々としてやましい事など何もないと言う雰囲気を醸し出さないと……膝を地面につけて彼女達と視線を合わせようとする。するのだが四人の内三人はそっぽを向いてしまった。
……ま、まぁ仕方ないよな。俺怪しさ全開だし。だが、一人だけ視線を合わせてくれた長女の千春と話してみることにする。
「え、えっと、俺は悪い大人じゃないぞ。どう、どうですかね? 俺と一緒に住まないか? あ、住んでみませんか?」
「……」
自分で言うのもあれだが怪しさしかないな。ああ、これで断られたらなんて説得しようかな……。そんな事を考えながら彼女と視線を逸らさず瞳をまっすぐ見ていると……
「……うちは、それでもいいと思っています」
「「「え?」」」
長女の告白に残りの姉妹たちが思わず驚きの声を上げる。彼女達だけでなく、近くに居る親族や同期の佐々木、勿論俺も声こそ上げないが表情には驚きを浮かべている。
「三人はどうしたい?」
「……わ、我は千春がそれでいいと言うなら、そうしてやらんでもない……」
「千冬も、それでいいっス……」
千春の問いに三女の千秋と四女の千冬は彼女が言うならと肯定の意を示す。
「千夏は?」
「……ノーコメント」
次女の千夏はノーコメントだがその返答には好きにすればいい、私は三人が行くところに行くと言う意味があるのかもしれない。
「そっか……じゃあ、そうします。貴方の家に住ませていただきたいです」
「お、おう……俺はいつでも歓迎だ」
「でも、今日はホテルで過ごしたいと思いますのでこれで失礼します」
「は、はい」
彼女がそう言うと親族たちもそれに便乗して色々言ってくる。
「では、荷物は後々送りますから連絡先を」
「はい……」
連絡先を交換すると、再び千春と目が合う。彼女はぺこりとお辞儀をして妹たちを連れて去って行った。何故か分からないがあっさりと決まってしまい少々拍子抜けしてしまう。
遺族も去り佐々木と二人きりになると彼は俺の肩を叩く。
「おい、お前何考えてるんだ!?」
「色々考えてる」
「マジか? 何考えてるんだ?」
「ああ、それはまた今度話す」
佐々木と別れて。日は暮れて辺りが暗くなっている帰路を俺は歩いた。
◆◆
場所は変わってとあるホテルの一室。長女の千春に鋭い眼を向ける次女の千夏の姿があった。長女である彼女が色々自分たちの事を気にして動いてくれたのは分かるが、流石に今回の行動には思う所があるのだ。
「千春、アンタ何考えてるのよ?」
「……」
「あんな良く分からない、馬の骨の家に住むなんて……どういうつもり? 千春が言ったから流れでそうなったけど、いくらなんでも……」
千秋と千冬の目線は二人を行ったり来たりして、この事態をどうするべきか考えていた。
千夏の言葉に千春は僅かに考えると口を開いた。
「眼が、違ったから」
「眼?」
「他の人たちが侮蔑の眼を向ける中であの人だけが、何というか、愛情のある眼をしている感じがしたから……そうした」
「……そんな事で……」
「でも、親族の家に行くより良いでしょ?」
「そうだけど……アイツは私達を知らないから。もし、正体が分かったら……」
「うん……でも、うち達にとってあの人に縋るのが最善だったと思う。だから、バレない様にすればいいんじゃないかな……と思う」
「……そう。分かった。でも、もし、バレたら?」
「……大人しく、親族たちの家に行くしかない」
「……それが一番最悪ね」
その言葉を最後に互いに会話を止めた。彼女達にとって親族の家に行くことは最悪なのだ。
化け物と言われ、後ろ指を指されることが確定しているから。
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