第41話お母さんに質問攻めされ自覚する~松浦麗奈視点~

 水戸君を見送った私は……お母さんに質問攻めされてます。


「それで……付き合ってるの?」


「ふえっ!?つ、付き合ってないよぉ〜!」


「相変わらず耐性がないのね……」


「うぅー……だってぇ……」


「でも、ほんとなの?私達に気を使って、告白されたけど断ったんじゃないのね?」


「それはないよ。そもそも、水戸君は私のことそんな感じに見てないし……」


「……そうかしら?そんな感じには……やっぱり、貴方を女子校に入れたのは間違いだったかしら……?入学する前は、お父さんも働いていてお金もあったし……貴方が特待生になってくれたし……貴方には私みたいな目にあって欲しくなかったし……」


「お母さん……ううん、そんなことないよ。私は元々苦手だったと思う。男の子と話すの、あまり得意じゃなかったもん」


 お母さんは美人で苦労してきたらしい。

 男子には毎日告白されるし、女子からはいじめられて……。

 だから、そっくりな私を中高一貫学校の女子校に入れたと。

 お陰で、貧乏だったけど楽しい生活が送れたんだもん。


「そうね……私もそうだったわ。中身を見てくれるお父さんに会わなかったら、今頃結婚してたかどうか……で、あの方のことが好きなの?」


「……好きだと思う……」


 最初は気になって飲みに誘ったりしたけど……。

 話してるとドキドキするし……楽しいし……。


「それはどうして?」


「し、視線が嫌じゃないと言いますか……ドキドキするの……」


「なるほど……大事なことね。他には?」


「ふえっ?ま、まだ聞くの……?」


「当たり前じゃない。経験が少ないんだから、しっかりと判断しないと」


「う、うん……えっと……真面目に仕事するところとか、滅多に人の悪口を言わないところとか、落ち着いた喋り方をするところとか……かな?」


「なるほどね……怒鳴ったりしないって意味かしら?」


「うん、そうだと思う……きちんと話を聞いて、それに答える感じ?」


「へぇ……出来た人ね」


「プライバシーに関わるから、詳しくは言えないし、あまり知らないんだけど……お父さんが厳しい方だったみたいで……」


「あぁ……なんとなくわかったわ。昭和の男って感じなのね……その反動でってことね」


「多分……でも、私は……元々優しい人なんだと思う……」


「どうして、そう思うの?」


「なんとなく……それだけじゃああはならないと思うし……新人さんにも優しく教えるし、私にも優しくしてくれるし……そのほかの人にも……むぅ……」


「ふふ……嫉妬ね」


「ち、違うもん!」


「ふふ……それで——付き合いたいの?」


「へ?………えぇぇ——!?」


「麗奈、ご近所迷惑よ」


「だ、だってぇ……」


「でも、好きなんでしょ?」


「う、うん……多分」


「多分って……まあ、初めてだものね……」


「そ、そうなのっ!」


「でも、よく考えるのよ?」


「え?」


「ご長男って言ってらしたから、親の介護とかもあるでしょうし……お姉さんは結婚してるの?」


「ううん、してないって……」


「そしたら、お姉さんがするのかしら……それとも結婚して……そうね」


「え、えっと……?」


「長男の嫁っていうのはね、大変なのよ。義理の両親との関係、後継の関係、遺産関係、冠婚葬祭などもあるし……」


「け、け、け——はぅ……」


「あっ——オーバーヒートしたわね」


 けっ、結婚……!

 夢みてたけど……一生出来ないと思っていた……。

 このまま寂しく1人で過ごしていくものだと……。

 お父さんやお母さん、弟のこともあるし……。


「あっ——だから……水戸君に長男って聞いたの……?」


「それもあるけど……いざそうなった時に、貴方は私達のことを気にしてしまうでしょ?」


 ……それはそうかも。

 お父さんの介護や、お母さんだって、いつまでも若いわけじゃない……。

 弟だって、入学したばかりだし……。


「それは……でも、家族は大事で……水戸君とはダメなのかな……?」


「ふふ……優しい子ね。いい、よく聞きなさい」


「は、はい……」


「もし、そうなったら私達のことは気にしないこと。お母さんだって、娘の幸せを願ってるわ。もちろん、お父さんや和樹だって……もう、すでになっているけど……これ以上、貴方に負担をかけるわけにはいかないわ」


「お母さん……」


「だから、その時は来たら……自分が思うようにしなさい」


「で、でも……」


「多分、あの方は……奥手に見えるわ。少し自信がなさげというか……料理を褒めた時、微妙な顔してたし……」


「うん、そうみたいなの……仕事も出来るんだけど、自信がないみたいで……」


「なら、どんどん攻めないと」


「え?」


「あの手のタイプは……これからモテるわ」


「ど、どういうこと!?」


「歳をとるとね……外見とかは二の次になっていくのよ、悪い意味ではなくてね。若い頃は、見た目だったり、面白かったり、少し調子の良い男がモテるけど……。25歳辺りから変わってくるわ。優しくて、穏やかで、誠実で、落ち着ける人……もちろん、いい意味で。それプラス、貴方はドキドキまでするんだから、とってもいいじゃない」


「うっ!?」


 た、確かに……水戸君のこと良いって言う人……。

 そのくらいの年齢の人達だ……森島さんだって、最近になって……。


「心当たりがあるみたいね?」


「あぅぅ……」


「なら、負けないように頑張りなさい。いざとなれば、お母さんも働くし、父の遺産を使ったり、定期を解約したりするわ」


 「でも、それは……老後の生活や、和樹の資格とるために……」


「和樹も言っていたわ……俺のせいで姉貴が不幸になることは耐えられないって……自力で資格を取るって……」


「和樹……そっかぁ……」


「ありがとね、麗奈。そして、ごめんなさい……お母さん達が、貴女の優しさに甘えすぎてたわ……」


「泣かないでよ……」


「本当なら、もっと早くこう言ってあげられれば……」


「……前も言ったけどね……後悔してないよ、私。もちろん、一方的に頼りにされたらあれだけど……そうじゃないもん。みんな、私のことを考えくれてるもん」


「麗奈……貴女という娘がいて、私は幸せよ。だから、今度は自分の幸せを優先してね」


「……少し、考えてみるね」


「そうね……色々急だったわね……じゃあ、帰るとするわ」





 そう言い、お母さんは帰っていった……。


「でも……そっかぁ……」


 水戸君が好き……間違いなく。


「色々と考えなきゃいけないけど……」


 好きということしか頭になかった……。


「私は……水戸君とお付き合いがしたい……」


 そんなことを、今更自覚するのでした……。


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