第21話初めての電話

 仕事を終えた俺は、買い物を済ませて帰宅した。


 さて……何が良いだろうか?


 ……電話してみるか。


 スマホを取り出したが……。


「……ど、どうすれば良い?なんて言うんだ?そもそも、こんな時間に電話して良いのか?というか、女性に電話って……何年振りだ……?」


 言ってて悲しくなってきた……。

 だが、事実だ……大学生以来かもしれない……。

 男友達しか、今は残ってないし……。

 マメじゃないと、女性からは敬遠されるからなぁ……。


「……よし、勇気を出せ……さあ!」


 震えながら、スマホのボタンを押した……。

 すると……。


『……も、もしもし……水戸君ですか……?』


 うわー、まずいわー、色気ありすぎだわー。

 ……俺は馬鹿か!メールという文明の利器があるじゃないか!

 なぜ、電話にしようと思ったんだ……!


『あ、あれ?み、水戸君だよね……?』


「す、すみません。ええ、水戸ですよ。こんばんは、麗奈さん」


『こ、こんばんは……』


 震えている?何故だ?

 男からの電話なんか、されてきてるだろうに。

 もしや……あまり経験がないとか……まさかな。

 あんな美人なのに、そんなことあるわけない。


「今は、大丈夫ですか?」


『う、うん……お風呂から出たところだから……』


 ……脳内再生するなっ!

 き・え・ろ!!

 フゥ……危険が危ない。


「では、手短に済ませましょう。風邪をひいてはいけないですからね」


『や、優しい……べ、別に、平気よ?』


「いえ、そういうわけにはまいりません。では……好きなおかずとかってありますか?弁当の」


『あっ——ほんとに作ってくれるんだ……悪いなぁ……』


「麗奈さん、そういう時は違います。一言、言ってくれれば良いのですよ」


『……あ、ありがとぅ……?』


「ええ、そうです。申し訳なさそうにされると、ありがた迷惑かと思ってしまうので……」


『そんなことない!嬉しいもん!』


「そ、そうですか……なら、良かったです」


『え、えっと……唐揚げさんとか……』


 唐揚げ……さん?

 可愛いかっ!

 個人的にツボだ……。


「……他には?」


『ウインナーさんとか、玉子焼きとか……』


 なんか……子供みたいなメニューになりそうだ。


「意外と、子供っぽいものが好きなんですね?」


『そ、そうかしら?そんなことないわよ』


「そうですかね?でも、俺も好きなので良かったです」


『……………』


 あれ?反応がない……。


「れ、麗奈さん?」


『はっ——ご、ごめんなさい!脳内再生が……』


「はい?」


『ううん!そうよね!美味しいものね!』


「ええ、そうですね。それらなら、冷めても美味しいですし」


『わ、私も頑張ります!』


「へ?」


『お礼いらないって言われたけど、気が済まないもの……私に出来ること……考えておきます!』


「いや、別に……」


『いいえ!ここは譲れません!』


「……わかりました。では、楽しみにしてます」


『う、うん!』


「では、電話切りますね。きちんと髪を乾かして、風邪をひかないようにしてくださいね」


『むぅ……子供扱い……わかりました……で、電話嬉しかったです……』


 通話が切れる……。


「フゥ……緊張した……平静を装うことができたか?」


 やれやれ……嬉しい?楽しい?


「……これは、いよいよまずいかもな……」




 —————————————————



 ~松浦麗奈視点~


 えへへ〜、水戸君にお弁当作ってもらっちゃうなんて……。


 お風呂から出た私は、上機嫌で飲み物を飲みます。


「待って……喜んでいいの?それって………女性としてどうなの……?」


 考えてみたら……男性に作ってもらうなんて、色々アウトじゃない?


「料理も出来ない女なんかと付き合いたいと思うのかな……?」


 こ、これはまずいわっ!

 対策が必要ね!

 この間のことも含めて……。


「水戸君が飲み会に参加するっていうから、慌てて参加したけど……」


 横山君がいたからつかまえて、案内してもらったのよね。

 そしたら、森島さんが水戸君に迫ってて……。


「ま、負けられないって思って……で、でも、どうしていいかわからなくて……」


 そんな経験ないもの……お、男の人に迫るなんて……。

 ましてや、ほかの女性とだなんて……。


「で、でも——水戸君はそんなナンパな男性じゃないわ!」


 わ、私のことだって、しっかり送ってくれたし……。

 大胆だったかな……?引かれなかったかな……?


「も、もしかして……眼中にないだけ……?」


 やっぱり、森島さんみたいな可愛いタイプの方がいいのかな……。

 水戸君も、なんかタジタジしてたし……。


「私とは普通に話すのに……むぅ……」


 もっと大胆に攻めなきゃダメかしら……?

 ……出来ないわよぉ〜!


「で、電話してみようかな?」


 迷惑かな?でも、消さなくて良いって……。

 社交辞令?気を使った?なんで?


「うぅー……誰か教えてください……わっ!」


 なんだ、お母さんか。


「もしもし?」


『ごめんね、麗奈。今月もありがとね』


「ううん、仕方ないよ。お父さん、入院してるし。和樹はどう?」


『本当にごめんね……和樹も勉強頑張ってるわよ。学費が安い国立大学に入ったけど、今のうちに資格とかもとっておくんだって……』


「そっかぁ……お金は足りてる?」


『ええ、あなたのおかげよ。ごめんなさい……私達が不甲斐ないばかりに……』


「お母さん、それは言わない約束でしょ?家族だもん」


『そうね……麗奈みたいな娘がいて、私達は幸せね……でも、無理はしないでね?お母さんも、いざとなれば働くから……』


「それはダメよ。お父さんの介護で大変なんだから。私がバリバリ稼くから安心して!」


『で、でも……年頃の娘なんだから、良い人くらいいるでしょ?』


「うっ——き、気になる人はいるけど……」


『あなたは内弁慶で、きつい口調になっちゃうことがあるから……』


「わかってるわよ……もう、いいかな?風呂上がりだから」


『はいはい……私がいうのもなんだけど、身体に気をつけてね?』


「うん、わかった」


 そして、通話が終わった。


「もう……ハァ——仕方ないよね。誰が悪いわけでもないもの」


 少し沈んでいると……また、スマホが鳴った。


「なに?またお母さん?和樹かしら?……えぇ——!」


 びっくりした……えぇ!?

 驚きつつも、私はすぐにボタンを押しました!


 な、何故なら……水戸君からのお電話だからです!




 そっからの記憶は、あんまりありません……。


 ドキドキしすぎて……死んじゃうかと思った……。


「み、水戸君って……電話だと声がさらに低いのね……」


 耳元で囁かれた時も、ドキドキしたけど……。


「あ、あんなので、あ、愛を囁かれたら……はぅ……」


 ど、どうなっちゃうんだろう……?

 腰抜けちゃうかも……。


「とりあえず覚えているのは……おかずを伝えたこと……お礼をしたいということ」


 ……何がいいかな?


 お菓子?無理!


 仕事を手伝う?なんか違う!


「水戸君が喜んでくれること……あっ——」


 確か……最高でしたって言ってくれたよね……?


 は、恥ずかしいけど……水戸君になら……。


 よ、よーし!うん!決めたわ!


 松浦麗奈、28歳——頑張ります!!


 ただ……どういうタイミングでしたらいいの……?

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