隻浄眼の乙女
第41話 はた迷惑な少女
「うちはクラリーナ・フィア・マギステア! たまたまうちがいてよかったな、あんたら全滅するとこやったで!」
ファースト・フロントの駐機場に、朗々たる声が響き渡る。
全身を纏う疲労を押して、ティナ・バレンスタインはのろのろと顔を上げた。
ティナ達、探索者チーム『ブルーローズ』の面々の前で胸を張っているのは、幼い少女だった。
歳の頃は十を少し数えた頃に見える。
しかし本人曰く、小人族とのハーフであり、本当の年齢は二十歳らしい。
あどけなさの残る顔は愛らしく、桃色のボブヘアは彼女によく似合っているが、今は砂と煤だらけでぼさぼさだった。
大きな瞳はそれぞれが違う色を帯びている。
左目は翡翠色、そして右目は金色だった。
金色の瞳の正体は——『浄眼』。
エーテルの流れを見通すことができる異能の証とされている。
白の生地に紫色の大きなフリルが袖や裾についた、愛らしいワンピース。
ところどころに小さなリボンのついた白いタイツに、ラウンドトゥの靴。
そのどれもが薄汚れていた。
少女の背後に控える機兵もまた、細かな傷がついていた。
彼女曰く、機体名は『アンティ・キティラ』——長いから『アンティ』と呼んでいるらしい。
そしてぼろぼろなのは『ブルーローズ』の面々も一緒だった。
ティナはもちろんのこと、仲間のレッド・クリフにグレイン・グランキオもそれぞれの機兵の前に座り込んでいる。
背後にそびえる機兵は惨憺たる有様だった。
大小細かな傷が装甲のあちらこちらについている。
特にひどいのはグレインの機体だ。
一ヶ月前、レッドとの決闘ならびに巨大アビスカンケル“奈落の鋏”との戦闘で大破した愛機・デクリオンの後継機となる、新機体『レギオン・ラクエウス』。
デクリオンを彷彿とさせる頑丈かつ無骨なシルエットだが、装甲は塗装がボロボロ、特徴的なショルダーガードがとれかかっていることで、その姿は無惨なものに変わり果てていた。
「ぐすっ……俺の新しい機体……」
グレインはマスクの中からくぐもった声で呟いた。
さすがに同情を禁じ得ない。
——確かに、ティナ達は強敵を前に撤退を余儀なくされた。
しかし、言っては悪いが、三人の前で腰に手を当てて得意満面の笑みを浮かべている少女がいなければ、少なくともこんなに被害を出さずに済んだだろう。
「ったく、どうしてこんなことになったんだか……」
後頭部をかきながら、レッドがぼやく。
ティナはその言葉をきっかけに、ぼんやりとファースト・フロントの暗い壁面を眺め、ついさきほどの出来事を思い出し始めた——
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