第十五話 転換点(起)その三
「オニノテ」
「撃鉄」
鬼人のパワーを一点に集約して放つオニノテに真っ向から衝突する。
拳と拳のぶつかりあい。
衝撃波は空気を震わせ周りに立つ観客と化した集団をいとも簡単に吹き飛ばしていく。
最初は一撃だけ。でも次は違う。
何度も拳は交錯し、時には相手の頬、腹、身体の一部を傷つけつつも戦闘は続く。
まるでこの場所だけ戦場とは違う闘技場での試合を繰り広げているように錯覚させてしまうほどで、既に包囲されていることに勘付いたのはS級対鬼人に幕引きされる時点となる。
「終わりね」
「そうらしい……」
「よもや貴公が鬼人とはな」
「久しいなホーエンハイム」
幕引きを告げるS級の言葉は、片腕をもぎ取られ膝を地面に落としこれ以上の戦闘継続は困難な一人の男に終わりを齎し、その様子を包囲網の側で見ていた国王軍の総大将が言葉をかける。
戦場を共に駆けたこともある両者の邂逅は、何を招くでもなく沈黙。視線を交わすだけで一言も喋らずにいると騒音を引き連れガントレットが三人の前に登場する。
「お連れしました」
騒音の主は貴族連合の将今回の騒動を引き起こした張本人だった。
「うわっ、誰だソイツ。薄汚い奴め」
無能に代わりこの戦線を率い、戦に臨んだ副将の変化した姿を見るなり罵る男に心底ホーエンハイムは溜め息をつくしかない。
どうしてこんな奴に手を貸したシャオロン。
「こんな坊主を祭り上げても負けるのは目に見えてただろ答えろシャオロンお前何したかった?」
ヒュージ=グスダリウスは剣客としての才能乏しく父親には遠く及ばない。そして頭の方も悪いときた。つまりは無能のなのだ。
コイツが将として成り立つ訳など到底不可能、それでも二万の軍勢が付いたのはシャオロンの手腕あってこそ。
「よもやカルミラをどう王都から引き離すか思案するもまさかこう簡単に叶うとは」
「シャオロン殿何を言ってるのですか?」
不敵に笑い見詰める視線にガントレットはシャオロンを睨むが……。
「ホーエンハイム、カルミラ、今王都を守る強者はいない。しかも冒険者も出払っているだろう?」
確かにその通り。カルミラが発した依頼により王都冒険者ギルドに詰めるほぼ全ての冒険者が不在。
「あぁその通りだよ。いやぁ~参った参ったこんな大規模になるとは金が足りん」
「今更、金の心配か。まぁお前には関わりがないだろう。王の命なんて」
「この国の生まれですらない私には、関係はないことだね。しかしこりゃ~ヤバいか?」
シャオロンの言葉は戦場で優位に立つ国王軍に衝撃を与える。なにしろ主君である王を殺す紛いの言葉。
「うん。成る程合点がいった」
「何を嗤うカルミラ=バッハレイ?」
「いや王の命を狙うとは何を企んでいるか分からないけど、一つ肝心なピースが抜けてるよ」
「肝心なピース???」
「そうだな。シャオロンあの方を勘定に入れているか?」
「あの方って誰のことだ。まさか国王か、ヤツなら賢王だろうが武は微塵も感じさせない人間だろ」
「やっぱりな。最強の矛があの都には待機してるぞ」
「アストライア魔法師団長のことか。ヤツは国境に向かったはず、嘘はよくないぞホーエンハイム」
「嘘ではないし、アストライアでもない」
「てかアストライアって誰?私知らないんだけど」
「S級に戦鎚の鬼が褒める最強の矛って一体?」
能天気に王都の空を眺めるS級と主君の一大事が起こり得るかも知れぬと承知しても慌てる様子皆無の国王軍総大将。
そんな姿にボソッと誰かが呟いた。
「その顔ホントなんだな」
「知りたそうな顔してるなお前。そんな表情初めて見た気がするぞ」
「そこまでお前が信頼するとは相当だからな」
「なんなら教えてやろうか?」
「そこまでにしとけホーエンハイム」
「どうしてだ」
「嫌な予感がしたんでた。それにあの方は謂わば
「残念、惜しいところだったのに」
風が靡く。開戦から三時間近い短期間で終結した事実が王都に報されることになるとは当初誰も予期していないことだった。
二万対五千の戦い。
貴族連合の進行を阻止するため王国軍は遅延させるために策を弄すこととなる。
というのも隣国との国境付近、隣国の動きが慌ただしくなり、ストリチィア国二大看板の一人、アストライア魔法師団長は王の命により二千の兵を引き連れ王都を不在。
国王軍は三千しかいない劣勢に陥りかけるもホーエンハイムが密かに用意していた二千の私兵を投入。
戦力差四分の一であれば、他領貴族の援軍もしくは国境に駆り出た兵の帰還出ないと“戦槌の鬼”といえど勝ちの目はないとばかり思っていたのに。
僅か三時間で終わった。
その功績の一翼を担ったのは言うまでもなく冒険者達。
何故彼らが参戦したのか、それは王女に起因するらしいが正確のところは不明。だが戦が終わった今一部のシャオロンの言葉を聞いた者を除けばこの戦争は完結したと各々立場は違えど胸を下ろした者は多いことだろう。
そして物語この戦いの裏で巻き起こったもう一つの戦闘は、後世に語り継がれるグスタリウスの反乱以上に深く王家の歴史に刻まれることになる。
何故ならば、王の間が半壊壁はなく日の光が直接情景を作り出すことは未来永劫この一度きりとなるのだから。
ただそんな戦闘が起こるとはこの時思う者はいなかったことだろう。
いや違うかも知れない。
戦闘を起こした張本人。彼女だけは知っていたのかもと考察は立てられる。
何故ならば彼女は………。
「さぁ始めましょうか」
「小娘と油断していたが、まさかここまでの強さとは」
王の間、そこでのたった二人の会話。
「お父様は私が守る」
「やれるものならやってみろレテシア王女」
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