閑話(特典没ネタ) クラスメイトの推しが先輩だった件


×月×日


「でね、私のコメント読んでくれたの」

「う、うん……よかったね、いいんちょー……」


 最近悩み、と言ったら良いのか妙な状況に陥っている。どうもみなさんこんにちは。わたしはどこにでもいる普通の高校生。少し違う事があるとすれば、みんなに内緒でVTuber――ルナ・ブランという名前で活動していると言うところ。幸い、今のところ身バレしたりはしていない。もしかしたら気付いている人がいるのかもしれないが、あえて指摘していないだけかもしれないけれど。


 だけど少し前くらいからその真相に辿り着きかねない問題が発生している。それが今目の前にいるクラスの委員長である子。眼鏡に三つ編み、スカート丈も校則通り、化粧っ気もあまりないと言う絵にかいたような優等生、まさに委員長タイプだった。過去系なのは現在は眼鏡からコンタクトにして、最近少し髪もポニーテールにしたり、最近は唇が艶やかに見えるリップに変えたりとかしている。勿論彼女らしく校則の範囲内ではあるが、以前よりもずっとずっと可愛らしくなった。多分気になる女の子への意地悪のつもりで言ったのかもしれないけれど、彼女の容姿をからかっていたクラスの男子君は本当に反省してほしいよ。


 そんな彼女を変えたのは推しだ。その推しと言うのが、わたしの先輩――神坂怜さんなのだ。いや、どうしてそうなるの……あの人いっつもどこかで女の子引っ掛けてるなぁ。ん……? よく考えたら男の人も引っ掛けている気がして来た。年上だけど後輩のミカさんとか、何故かわたしと同期のあーちゃんに「今日先輩の手料理食べたんすよ」とか謎にマウントを取ってくる。本当に生意気な後輩君だ。わたしだって手作りのお菓子とか食べた事あるんだもん。かなり前だけど。


 いいんちょーのこうなるに至った経緯は多分3巻の特典――いや、なんだ今の情報は。ざっくり有態に言うといつものあれ・・・・・・だ。人の弱みに付け込んで誑し込むなんて酷いひとだなぁ。怜さんのお悩み相談コーナーで救われている人は思ったよりも多いのかもしれない。たまぁに、それVTuberに相談する内容か? ってくらいに滅茶苦茶重い内容が寄せられる。それを茶化したりすることなく、嘘だと言う可能性すら考慮せずに、真っ直ぐ受け止めて自分なりの考えを懇切丁寧に言葉にする。確かに撮れ高もない、数字が取れるようなものではないのかもしれないけれども、ああ言うのは本当に熱心なファンを獲得しやすい言動であると思う。あの人のファンって基本的にライト層みたいなのが少ない。ほとんどが熱心なファン、ガチ恋勢にクラスチェンジしているイメージがある。刺さる人にはクリティカルヒットしちゃう感じの人だ。立ち回り方によってはもっと評価されるのかもしんないけれど、そう言う方向に舵取りしないところ含めて怜さんなんだと思う。あの人自分のスペックに反して自己評価があまりにも低いんだよね……


「あ、ごめんね。私ばっかり一方的に喋っちゃって……」

「わたしとしてはサブカル系のお話できるお友達増えてうれしいよ。ホラ、他の子ってリアルのアイドルとか俳優さんのお話する人は沢山いるけれど、こう言うのはあんまり話題にされないから」

「そう言ってもらえると気が楽になるよ、ありがとう」

「この前課題手伝って貰っちゃったし。あーちゃん共々お世話になったよぉ。いつもすまないねぇ」

「なんで急におばあさん口調? 課題写させてって言うなら絶対ダメだけど。教えるくらいなら付き合う。私の取り柄なんてこんなことくらいだし」

「もっと自分を誇るべきだと思うよ。努力したんだから」

「同じような事あの人・・・にも言われちゃったな……努力して勝ち得たものは誇るべきだって」


 箱内だけでなく一般人にまで分け隔てなくヒーラーの仕事っぷりを披露している。ちなみにあーちゃんのリアルの方のママも人生相談コーナーを楽しみにしている視聴者の1人らしい。ああ言うのって一定数需要があるのかな? 昔テレビ番組で相談受けるようなのがあったとかなかったとか。


「それで相談乗ってもらったお礼にボイス買って見事に更なる沼に落ちた、と」

「人聞きが悪い……確かに自覚はあるけれど」

「ボイスの感想をSNSに投稿すると反応もらえるかもね」

「彼みんなの感想よくチェックしているみたいだから、私も書こうと思ったんだけどね」

「流石いいんちょー」

「恥ずかしくなっちゃって」


 照れ臭そうに「あはは」と誤魔化すように笑って見せる。可愛いなぁ、恋する乙女はなんとやら。これを機にちょっと気になっていたことを聞いてみる。「作文みたいに長くなっちゃった」と彼女は言うけれど、一体どんな長文になったのか逆に気になっちゃう。


「そう言えば、いいんちょー的に推しと異性が絡むのはどうなの?」

「ん? 楽しそうにしていれば良いんじゃないかな?」

「カップリングとかそう言うのは有りなタイプか」

「仲良しなのは良い事だよ」


 いいんちょーに恨みでも買っていたらどうしようかと思ったけれど、それなら一安心。中には異性との交流を極端に嫌うような人々もいる。それを理由に批判されているのを傍で見ているし、こっちにもその手のメッセージは募集もしていないのに寄せられる。コラボ配信だけではなく、怜さんに雑に絡みに行っただけでも同様。それを承知の上でやっているわたしも随分性格が悪いのは自覚している。それでも……昔に比べると数は減っている。いつか気兼ねなくできるようになればいいな、と思う。


「あ、そうだ。同じ事務所で後輩の女の子2人組いるよね」

「う、うん。そう言えばいたね」

「あの子たちって絶対彼の事好きだよね?」

「ごっほごっほごほ!」

「だいじょうぶ?」

「だ、だいじょーぶ」


 もしかしてわたしだって気付いてる……? バレてる?


「た、ただの親戚のお兄さん感覚だと思うよ……きっと」

「そうかなぁ……だってSNSで知り合った箱推しのお姉さんも『メス出してる』って言ってたのに」

「誰よ、それぇ!?」

「女の人なのにゆにこーん? とかいうやつなんだって。よくわからないけどすごそう」

「これっぽっちもすごくないよ、それ……SNSでも付き合う人は考えよう、いいんちょー」

「普通に良い人なんだけどな。その人から同じ推しのファンの人ともお友達になれたんだ」

「お願いだから界隈の変なのに毒されないままでいてね……」

「?」


 しかし本当にバレてないのか不思議だ。配信だとリアルと違って多少声作ってはいるけれど、多分冷静に聞いてるとバレちゃいそうなものだけれど……これが世に言う『恋は盲目』ってやつなのかな? 推しの前ではそれ以外は所詮有象無象でしかないのかもしれない。何にせよバレなくて良かった。いいんちょーならバレても言いふらしたりはしない子だって分かってはいるけれど。


「そう言えば……後輩の子と貴女、声がちょっと似ているような……?」


 大丈夫? 本当にわたしバレてない?! 






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アラサーがVTuberになった話。

『このライトノベルがすごい! 2024』にて単行本・ノベルズ部門9位となりました。

ひとえに皆様の日頃からの応援、ご支援の賜物です。

今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。

ありがとうございます、と言うお気持ち表明でした。


お返しになっているか分からないですが、没ネタ供養と読者の皆様への感謝を込めて短めですが番外編の投稿に至った次第です。

没ネタをお礼にするのっておかしい気がしてきた。

3巻の有償特典読んでいると背景がよく分かる仕様なのでかなり不親切設計ですし。

まとめ本みたいなのはいつかは出したいところさん。


また、1点お知らせがございます。

本作のコミカライズ化が決定致しました。

漫画を担当して下さるのは犬威赤彦先生(@inuisekihiko)です。

実績も豊富な先生なので安心してお任せできると思っております。


ちなみに4巻発売は来年2月予定。

10万字書下ろし、4万字加筆。今回も気合入れてます。

ひとまず現段階で公表できるのはここまで。



関係あるようなないような話

KADOKAWA謝恩会の出入り口のパネルでエグい面子に囲まれる脱サラ見て

https://twitter.com/hameln_tokumei/status/1728023551998124198

なんでそんなところにいるんだよ……

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