140話 ホラーゲーム配信
12月×日
「もう降ってきそうだなぁ」
庭木の雪囲いと自家用車のタイヤ交換を降雪予報が出てから慌ててやり始める駄目人間はこちらです。平日昼間時間有り余ってるのに……
「寒ッ」
工具を片付けながら空を仰ぐ。自分の息は真っ白だ。すっかり日も傾き始めているが、僅かに輝く星を見つけて少しだけ得した気分になった。こういうの若い頃は何とも思わなかったけど、歳食ってくると良い物に見えてくるから不思議。幼い頃はこの吐き出した息を怪獣映画の熱光線か何かに例えて大はしゃぎしていたものだ。懐かしい。
ゆっくりと空を眺めるくらいには心に余裕が出来たことを喜ぶべきかな。幼い頃を思い出して思い切り息を吸って吐き出す。なんだ、案外肺活量はあるじゃないか。私。こういう日常の出来事も配信で話のタネになるんじゃないかって思ってしまうあたりはVTuberの職業病なのかも。何だかんだデビューから9か月、年を跨げばあっという間に活動一周年も見えてくる。大分馴染めてきただろうか? 何かを成果を残せただろうか? この両の腕では抱え切れないほどの恩を受けたが、少しでもそれに見合った
自分自身はすっかりVTuberというのが身に染み付いてきた。昔は職場のそういう空気や雰囲気に染まるのは余り好ましく思えなかったが、今は不思議とそういう感情はない。さて、早く配信の準備をしなくちゃな。
「一日でまとめてやるもんじゃあないな、これ」
流石に疲れた。毎日筋トレしているとは言え、慣れない作業は神経を使うらしい。お金出せばそりゃあもっと綺麗に手早くやってもらえるんだろうけれども、『自分でも出来なくはない』という微妙なラインなので自前でやってしまう。節約した分で晩御飯のおかずを豪勢にしたり、おやつに凝った物を作ったりした方がリターンは明らかに大きい。家族が喜んでくれるから。
「おつかれ」
「ん」
玄関で出待ちしていたマイシスターに迎え入れられる。かわいい。妹にこうして労って貰えるだけで私には充分すぎる。まあちょっとでも家の仕事しないと穀潰しになっちゃうというのが1番大きいのだけれども。
「お風呂沸いてるから先入って」
「あー、うん。了解了解。一緒に入る?」
「死ね!」
「痛ったぁ!?」
脛を蹴られた。幼い頃は一緒に入ってたこともあったんだけどなぁ。
◇◆◇◆◇◆
「ホラーゲームをやっていきます。今回プレイする夜鳴館なんですが、セール中で何とワンコインで買えちゃうんですよ、奥さん!」
[あらやだお買い得]
[奥さん……実質求婚された?!<アーレンス>]
[アレステイ<酢昆布>]
[ほんとようみとる]
舞台となるのはタイトルにもある『夜鳴館』と言う洋館。心霊スポットとしても知られる館にやってきた主人公とそのサークルの仲間たち。そこで次々と巻き起こる不思議な怪奇現象。遂にはサークルメンバーが次々と悲惨な姿で発見され……主人公たちは館からの脱出を目指す。と言うようなホラーゲームあるあるなやつである。
「雪が降ってる山に行くにしては軽装すぎませんか、この主人公君たち。山を舐めたら駄目ですよ、駄目。あ、皆さんは雪支度済ませましたか? 私は今日庭木の雪囲いとタイヤ交換終わらせました」
[なんならキャラは半袖]
[グラフィックは過去作の使いまわしじゃけぇ]
[おつかれ]
[業者に頼まないんか?]
「タイヤ交換って業者に依頼するとトルク無視でガンガンに締めてませんか? ああいうのがあって自前で換えたいんですよね」
[あー、なる]
[電動工具でガンガンに締めるからなぁ]
[場所によってはきちんとトルクレンチで締めてくれるとこもあるけど]
[【悲報】ワイ、社用車のタイヤ交換を命じられるもボルトを捻じ切ってしまう]
[えぇ……]
[なにやってんだよ、おめぇ]
[トルクレンチを使え、トルクレンチを]
[めちゃくちゃ怒られたンゴ。1年目、早くも会社辞めたい……]
「社用車のタイヤ交換が業務に含まれていることがそもそもおかしいような気がしないでもない。昔勤めてたところなんて、ウン千万する機械を新人君がぶっ壊してたしへーきへーき」
[これっぽっちも平気じゃねぇよ!]
[平気の概念が壊れる]
[発注ミスで『きのこの都』だけ大量入荷しちゃったことはあるわ]
[『たけのこの都』ならまだ許されたかもしれんが、きのこはアカンて]
[は? きのこうめぇだろうがよぉ?!<アーレンス>]
[うっわぁ、きのこ派かよ。ファン止めます]
[まぁたたけのこ民がきのこ民を弾圧してらぁ。そういうところやぞ]
[カルト教信者共が、アルファード一択だろうが]
どの時代においても、『きのこ』『たけのこ』論争は続くのだ。ちなみに内容量的には前者の方が僅かに多いので、同じ値段で売られている場合私は『きのこ』を手に取ると思う。お菓子を買うときは値段と内容量を見て選んでしまう。スーパーの見切り品コーナーとか滅茶苦茶だいすき。その割におやつに使う材料はガンガン買ってるので、行動が矛盾してるけど。
[美少女が「きのこ大好き」言ってるんだから喜べよ!!<アーレンス>]
[きのこ派を今日ほど止めたくなった日はないです]
[残念だったな、流石に同情するよ……<酢昆布>]
[当たり前みたいな顔で毎回いるの草]
「論争するのやめなー。ちなみに私はルマンズがすき。会社の新人君にお茶菓子頼んだのにルマンズ買ってきても普通に喜んで許すレベル」
[あれくっそうまいよな]
[わかる]
[コンビニでアイス売ってたけどそれも美味かったわ]
[食べるとぽろぽろこぼれる以外は完璧]
雑談しながら淡々とゲームを進める。これまたお約束通りに玄関の扉は固く閉ざされ閉じ込められてしまう主人公ご一行。
「不法侵入だし割と同情はできないんだよね、こういうのって。自動で閉まるドアとか霊界のセコ○みたいなもんなのかな、これ。電磁ロック式ならぬ霊磁ロック式。あ、磁化させる励磁と被っててちょっと上手いこと言えてない?」
[寧ろ招き入れてない?]
[正直微妙では?]
[電磁ロック、霊磁ロック、励磁。正直分かりにくい]
[面白い事言おうとして言えてない感]
[やっぱそう言うのダメダメやな]
「(´・ω・`)」
正直結構上手いこと言えたじゃんって自分で思っていたのに。悲しい。私に面白トークのセンスないのだろうか。今度ギャグの本とか買ってこようかなぁ……
「こういうのって特定のアイテムや謎解きするのが、まあお約束じゃないですか」
[せやな]
[このゲームも例に漏れずそうだな]
[うんうん]
「メタ的な考え方になっちゃうんですけれど、こういうのって幽霊さんが準備してるのか、元々の家主が用意してるのか、どっちなんでしょうね」
[後者じゃね?]
[どっちも混じってそう]
[前者だったら結構お茶目だよな、幽霊ちゃん]
「後者だとしたら家主さん、めっちゃ生活し辛そう」
[メメタァ……]
[細かい突っ込みは入れるだけ野暮ってもんよ]
[心霊体験したことある?]
「仕事終わって気が付いたら家で寝てたとか?」
[節子それ心霊現象やない、過労や]
[ヒェ……]
[社会の闇デッキやめろぉ!]
「え……? 何なんです、これ?」
[問題のシーン]
[さて……]
[口に牛乳を含んでご覧下さい]
突如操作不可となり、何やら画面内では血に塗れた謎の黒い影が暖炉から1人、扉から1人、換気口から1人、クローゼットから1人、天井から1人、キャリーバックから1人、壁が崩れ落ち壁飾りだった鹿の頭を装備した黒い影の総勢7名。いや、多すぎだろ。画面占有率がおかしいし、その鹿頭はもはやただのギャグ要素なんじゃ……?
そして鹿頭を先頭に縦に一列に並ぶ。そして身体をぐるぐると回し、後列の影が少しタイミングをずらして同様の動きをする。ローリング・ダンスだか、ぐるぐるダンスだか分かんないけど、昔流行ったやつだ。その動きのまま前進してくる一団。そしてそれに巻き込まれていく操作キャラクター。そして、『game over』の文字が表示される。エンディングタイトル:新しい仲間。一瞬暗転して8人の影でキッレキレのダンスを披露していた。
「なぁにこれぇ」
[エ○ザイル化エンド]
[別の場所で謎の影とのラップバトルに勝たないと]
[これってホラーゲームではなくね……?]
12月×日
――――――――――――――――――――――――――――――
御影 和也
いつぞやご協力いただいた例のあれ
明日公開することになりました
改めてありがとうございました
――――――――――――――――――――――――――――――
あー、そう言えばそんなことあったなぁ……歳食うと昔の事忘れがち。
◇◆◇◆◇◆
あんだーらいぶを語るスレ XXX配信目
274 名無しのライバー ID:LsW/DyO1/
都心ちょっと雪降った?
275 名無しのライバー ID:uUCuqxPZY
一瞬降ってたけど雨になった
276 名無しのライバー ID:tECOVBP8d
通勤面倒になるから雪は勘弁な
277 名無しのライバー ID:o4reJ+iSg
なーんかずっと天気悪いみたい
278 名無しのライバー ID:FqWu4f/1n
ホワイトクリスマスだけはやめろ
ホワイトクリスマスだけはやめろ
ホワイトクリスマスだけはやめろ
279 名無しのライバー ID:YhwhvKhnN
いや、寧ろ大雪で交通網麻痺した方がリア充にはダメージ多くね?
280 名無しのライバー ID:u7hCBRJbw
そ れ だ
281 名無しのライバー ID:MoBthread
おお、なんと醜いことか
そういうのがあるからモテないんじゃ?
282 名無しのライバー ID:/cU79UfPP
>>281
お前にだけは言われたくねぇよ!
283 名無しのライバー ID:LPlxu/Erj
>>281
は?
284 名無しのライバー ID:fVOTZRwep
>>281
朝から晩までスレに入り浸ってる駄馬
お前にだけは言われたくない
285 名無しのライバー ID:NWRORB+SA
>>281
貴様だって同じ穴の狢だろうに
286 名無しのライバー ID:XssKB7wO7
最近皆配信頻度落ちてるな
いやーきっとプライベートで色々あるんやろうなぁ
287 名無しのライバー ID:r2zsIa7+h
毎日配信やってるのが脱サラくらいだしな
288 名無しのライバー ID:MH1wV/lF3
ゴールデンタイムなのにあいつしかやってないとはな……
289 名無しのライバー ID:geoRJ6RH9
この時間帯にこれかぁ
他所の箱に人気取られるぞ?
290 名無しのライバー ID:oqPzm1f9c
他面子やってないのに同接はそんな伸びてないし
291 名無しのライバー ID:gckineki/
同接でしかVを語れなくなったら、それはファンでもなんでもないんだよ
お前が見てるのはVじゃなくて数字なんだから
292 名無しのライバー ID:13ADLHGMb
火の玉ストレートやめてさしあげろw
293 名無しのライバー ID:OsHSC8rpC
夜鳴館ってホラーゲーか?
294 名無しのライバー ID:mrNlb1aJw
ホラーゲームの皮を被ったギャグゲーや
295 名無しのライバー ID:TtMZutlai
セール中でめっちゃ安くなってるからな
296 名無しのライバー ID:kpTMgpZBd
急に霊がダンスを踊りだすのなんなんだよww
297 名無しのライバー ID:C5vP2f67W
ゲームオーバーでプレイヤーが8人目の
ダンスメンバーとして影の一員に加入エンド
298 名無しのライバー ID:iY/8d/pYM
悲報 脱サラコメントに困る
299 名無しのライバー ID:gqIGUE6ig
ときめきを運んじゃうウイルスなんやろなぁ
300 名無しのライバー ID:pX/oMxoP+
ファンファンウィー(以下略
301 名無しのライバー ID:dXIy0wYWE
真エンドは初見じゃまず無理だろうしな
302 名無しのライバー ID:8dKkBj7op
RTA1位の記録は約3分
303 名無しのライバー ID:TTKQWy56f
まじで?
304 名無しのライバー ID:nWbnvrrMP
脱サラ「あれ? 扉調べたら微妙に音とメッセージ変化してないですか?」
305 名無しのライバー ID:KBjjYYcH4
気付いたか
306 名無しのライバー ID:qUfGnzEWi
書庫で過去に扉から逃げ出した奴がおる、みたいな文章あったからな
勘の良いやつは気付くかも
307 名無しのライバー ID:A7SDVu9qE
カチカチ動画
308 名無しのライバー ID:3MErSFLx8
閉じ込められた入口の扉を666回調べると
扉ぶっ壊して脱出できる隠しエンド
309 名無しのライバー ID:PPhXGJydA
扉壊せるんかーいw
310 名無しのライバー ID:AEl8EzGhb
開くんだw
311 名無しのライバー ID:5rwIxd/My
脱サラ「待って、明らかに操作キャラの体格めちゃくちゃパンプアップしてないですか?
後なんで上着脱げてるんですか? YourTube的に平気? BANされない?」
312 名無しのライバー ID:S7H8ZigLy
草
313 名無しのライバー ID:U/+rR/qeo
テレッテーみたいな世紀末を彷彿とさせるパロディBGMで草
314 名無しのライバー ID:q8ScaAYvU
なにか不穏な影が……?
315 名無しのライバー ID:4+hoYt8E2
なにこれw
316 名無しのライバー ID:VZyjlnNgC
なんやこのエンディングは……
317 名無しのライバー ID:G+BdmrFM7
なお逃亡エンドだと、その扉から影が飛び出して行って
全人類ダンス黒子化する人類滅亡ENDや!
318 名無しのライバー ID:uut7wh0/Q
これはひどい
319 名無しのライバー ID:TT1dIkxHb
脱サラ「もういいや、暖炉の炎で屋敷を焼き払ってやる。えっ、あ、マジで出来るんですか?!」
隠しルート見つけるの上手やな
炎上エンド
320 名無しのライバー ID:LxojZXzUu
草
321 名無しのライバー ID:LK2KBlzut
こいついっつも燃えてんな
322 名無しのライバー ID:3nvWx5QNB
ゲームの中でまで燃えなくてもよくなぁい?
323 名無しのライバー ID:8AHrE4msq
速報 脱サラ炎上! 脱サラ炎上!
324 名無しのライバー ID:zClhrDMni
なにこれ?
――――――――――――――――――――――――――――――
御影 和也@kazuya_underlive
明日動画をプレミア公開します。
観てね
――――――――――――――――――――――――――――――
325 名無しのライバー ID:ILNJaDvuV
あー、なんかいつぞやミカァ!が言ってたやつかな?
――――――――――――――――――――――――――――――――――
■『アラサーがVTuberになった話。』第2巻発売中です!
続刊決定しました!3巻は夏頃発売予定です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます