31話  3Dお披露目イベント その2

6月×日

 本番前の事前枠を無事に終えた後輩2人が帰ってきた。後は15分程の小休憩を挟んで、本番を迎えるだけだ。裏方での仕事もあまりないので、生ものや中途半端に手が付いた食材が多いのでその辺をまとめて賄いを作ることにした。昼頃も冷めた仕出し弁当だけではスタッフさんが気の毒だったので、簡単に中華スープや豚汁などを振る舞ったが中々好評だったらしいのがちょっと嬉しかった。


「怜先輩、何やってるんです……?」

「何って、食材余らせるのもあれだしスタッフさんに軽食でもと思って」


 後輩が「またですか?」なんて割とドン引きしてた。何故ぇ……?


 まぁ、とは言え今は帰ってきた後輩ちゃんを労う事にしよう。あらかじめティーポットに淹れて蒸らしておいたそれを用意したティーカップに注ぎ込む。見た目は鮮やかな赤。


「ん、火傷しないようにね」

「あ、良い香り……」


 カップに鼻を近づけてくんくんと香りを確かめるブラン嬢。


「ハーブティー、ですか?」

「正解」


 日野嬢が香りですぐ判断出来る辺り普段から飲み慣れているのだろうか? ハーブティーが苦手という人は結構多い。茶葉によって結構香りや口当たりが異なるので、自分に合った茶葉を見つけるのも案外楽しかったりする。今回は少し酸味の強いものなので、彼女たちの口に合うようにハチミツを少し多めに入れてみた。


「ローズヒップティーだから美肌効果とか凄いらしいよ。ビタミンCが豊富だし」


 こう言うと彼女達は目を輝かせて「美肌!」「美味しいです!」と言って飲んでくれる。この辺は妹と全く同じ反応で少しその時の姿を思い出して思わず笑みがこぼれてしまう。若い女の子にはこういう情報1つも大事な隠し味なのだ。隠してない? あ、はい。上手い事言えなかったですね。ごめんなさい。


「また緊張してきた……」

「あーちゃんはまだいいよ。わたしなんてあんな出来のカレーを人様にぃ……」

「お昼に少し食べたけれど普通に美味しかったよ?」

「o(≧ω≦)o」


 分かりやすく表情に出る子だなぁ、彼女。別にお世辞とかではなく味は問題なかった。羽澄先輩が傍について色々教えていたのだから元から心配はしていなかったし、カレーを不味く作るなんて逆に難しいと思う。


「2人のカレー食べたけどどちらも美味しかったよ。ご馳走様でした」


 チラチラと物言いたげな視線を送っていた日野嬢に向けた言葉でもあった。うーん、若い子って色々難しいね。妹で慣れているとはいえ。


「どっちが美味しかったですか?」


 2人してそんな台詞を言うなんてほーんと仲良いね、君達。明らかにこちらをからかっている。アラサーのおじさん弄んで何がそんなに楽しいのだろうか。


「あ、ほらもう始まるよ。いやー今回は燃えないと良いなぁ~」

「はぐらかした!」

「後できちんと答えてもらいますからね、怜先輩!」


 画面の向こうから自分の声が聞こえる。どうか、誰にも気付かれませんように。後万事上手く行きますように。私ならどんなに燃えても良いので、お願いします。


 

◇◆◇◆◇◆ 


あんだーらいぶを語るスレ XXX配信目


805 名無しのライバー ID:rxrEGJ0kn

事前枠終わり


806 名無しのライバー ID:nfg5HG2e9

新人ちゃん2人共頑張ってたな


807 名無しのライバー ID:xH98l+L0c

15分程休憩挟んで本番やでー

お手洗いにはきちんと行っとくやで


808 名無しのライバー ID:1uZaj1QVJ

本番きちゃー


809 名無しのライバー ID:aWLIxFcEf

イベント諸注意に関して配信で聞くのって何か不思議な感じ


810 名無しのライバー ID:WIyeVEUoG

なんか聞き覚えがあるような気がしないでもない


811 名無しのライバー ID:MoBthread

いや、これ脱サラやろ?


812 名無しのライバー ID:WYA4XYHLf

言われてみればそんな感じもしなくもない


813 名無しのライバー ID:SisterChan

この声は脱サラで間違いない


814 名無しのライバー ID:A2Kym/GBO

最後の名乗りなかったら誰か分からんかった

外行きのボイスなんか?

てか、いつぞやのディスコ作戦会議で呼ばれてたのって関係者だったから?

騒動前から前説決まってた or 騒動後決定


815 名無しのライバー ID:MoBthread

ワイの名推理によると「事務所に行く」「用事がある」と言って配信休んだ事が今月2回あったんや

騒動前後それぞれ1回ずつや

つまり……察しのいいスレ民はもう分かったろ


816 名無しのライバー ID:dEXkbPcGI

マジで名推理じゃねぇかよ

ソースないけど


817 名無しのライバー ID:Kzm7HJm8t

真偽は不明だが本当だったら

再収録までさせられてんなら気の毒やん


818 名無しのライバー ID:lqJosCY8t

と言うか、駄馬って脱サラ速報したりとかやたら詳しいのが草なんだが


819 名無しのライバー ID:MoBthread

いや、まあ最初ボロが出たら叩いたろとか思ってたけどさ……

ただの伸びない、虚無以外の叩く要素がないド健常だったんや

後はまあ甲子園弱小校応援したくなるあの感情や


820 名無しのライバー ID:sr6wqkw++

あー、なるほど

でも、その2つは配信者としては致命的なんだよなぁ……


821 名無しのライバー ID:f91XO89hp

お、はじまた


822 名無しのライバー ID:vchy4GJ9t

唐突にテーブルに着いた状態からスタートなんやな

そら足怪我してるから、そうなるわ


823 名無しのライバー ID:6B2IDsfJ2

畳「このモデリング凄いクビ曲がるんすよ」


人間の可動域を超えた姿を披露する


824 名無しのライバー ID:xfSBD/zbH

>>823


825 名無しのライバー ID:li4J/6XwP

>>823

初手でモデリングにケチ付けんなww


826 名無しのライバー ID:hwUjyyE+d

>>823

あらぬ方向に曲がってんの草


827 名無しのライバー ID:nvB+T3IzC

>>823

やwwめwwろww


828 名無しのライバー ID:UpDRJeaEF

畳「今スタッフから『やめろ』とカンペが出ました。でも獅堂先輩がサムズアップしてるので多分平気です」

女帝「(´∀`)b」

ハッス「あの『何とか止めてくれ』ってこっちに無茶振り来てるのでやめてもらっていいですかね?」

畳、女帝「(´・ω・`)」


829 名無しのライバー ID:HumroKzBI

思ったより表情豊か


830 名無しのライバー ID:9jE6/ldX0

動けない分、慌てて表情差分用意しまくったんやろうか


831 名無しのライバー ID:47KzN7ldA

スタッフ……生きろ


832 名無しのライバー ID:pVJCP7i8d

Q:灯ちゃんカレー or ルナちゃんカレー


ハッス「あー、これは燃えるわ。絶対燃える。可愛い後輩の女の子2人の手料理食べるとかアカンでしょ」

女帝「元々柊さんが怪我するからこうなるんですよ、自業自得。ざまぁww」

畳「いや、でも……ほら。神坂君も裏で食べてたから」

ハッス「後輩楯にするとか恥ずかしくないんですか……?(ドン引き」

女帝「ないわー」

畳「俺は燃えてええんかよ?!」

女帝、ハッス「え? ダメなの??」


833 名無しのライバー ID:LuH+MV3OC

>>832

これは燃やされる(脱サラが


834 名無しのライバー ID:UWqyLqxX2

>>832

あっこりゃ


835 名無しのライバー ID:AY8GdvoHm

>>832

さらっとヘイトを脱サラに向けんなww


836 名無しのライバー ID:bNUlpt+R+

>>832

畳が言わなくても当人達が嬉々として配信でポロリしそうなんだよなぁ……


837 名無しのライバー ID:6LJSriyFK

畳:不正解 同じ市販ルーなので違いが正直分からない

女帝:正解 野菜の切り方とかいうメタ読み


838 名無しのライバー ID:uti7n1gXt

メタ読みやめぇw


839 名無しのライバー ID:w7sTZfTzF

Q 畳ボイス時系列順に並べよ


ハッス「金払った上にこんなの聞かせるとかアホなのでは……?」

女帝「オイ! 格付け要素何処いった?!」


840 名無しのライバー ID:orIOyMPwP

>>839

ただの罰ゲームじゃねぇか!


841 名無しのライバー ID:LPC6OgT7m

>>839

全部同じに聞こえるんですけど……?


842 名無しのライバー ID:GxQU/bNOz

>>839

2人とも外してて草

 

843 名無しのライバー ID:u3gC9ibnr

女帝は分かるけどなんで畳これ外すんですかねぇ……


844 名無しのライバー ID:VdSvJEfve

Q 社長が借金のカタとして押し付けられた自称100万の茶碗 or 脱サラが陶芸教室で作った茶碗


女帝「前者もホンモノか怪しいんですけど……」

畳「字面が既に面白い」

ハッス「どういう経緯で陶芸教室行ったのか知りたい」

畳「寧ろ両方経緯が知りたい」

 

畳:不正解 「社長絶対騙されてる」

女帝:不正解「社長絶対騙されてる」


845 名無しのライバー ID:jCFa3fLAZ

>>844


846 名無しのライバー ID:I4aL6y9up

>>844

借金のカタww


847 名無しのライバー ID:ss3PdV3TX

>>844

ちょっと闇深いのやめてww


848 名無しのライバー ID:cUs62iQfw

>>844

社長(´;ω;`)


849 名無しのライバー ID:zTJG8OZK3

>>844

陶芸教室に行く脱サラ草


850 名無しのライバー ID:GDZ5+KnyT

>>844

いや、お前はお前で何で陶芸教室とか行ってんだよ脱サラww


851 名無しのライバー ID:0U9IG7F4C

>>844

やっぱ社長になるとそういうの湧いてくるんやなぁ……


 

 


◇◆◇◆◇◆


 

905 名無しのライバー ID:izhp4cCbL

畳乙

 

906 名無しのライバー ID:cQ9Askpex

はじまる前は不安だったが、終わってみれば成功で良かったな


907 名無しのライバー ID:MoBthread

気分いいし、晩酌でもするか


908 名無しのライバー ID:6nUfwzooN

畳「みんなありがとう……獅堂先輩はこんな変な企画に付き合ってくれた」

客「女帝ありがとー」


909 名無しのライバー ID:JGHLP4r6c

エモいじゃん……


910 名無しのライバー ID:Xbd8DM7qB

畳「羽澄ちゃんは何かこう……ありがとう!」

客「サンキュー、ハッス!」


ハッス「きちんと理由言えや!」


911 名無しのライバー ID:Tzha4ndoA

早くもボロ出てんぞw


912 名無しのライバー ID:Nblzf0yFv

良い話だったのに……


913 名無しのライバー ID:Lh+t+3T5z

畳「後輩ちゃん2人は入ったばっかりなのにry」

客「ルナちゃん、灯ちゃんありがとー」

畳「いや、最後まで言わせろよ!」


914 名無しのライバー ID:kkYcsUxzG

流石に現地まで来る層は色々分かってんなぁ


915 名無しのライバー ID:roKvCMWNA

畳ちょっと泣いてんじゃん


916 名無しのライバー ID:fONYoV21K

畳「後裏で色々助けてくれた神坂ァ! ありがとー」

客「神坂ァ!! ありがとぉおおおお!」(糞野太い声援

客「妹ちゃーん愛してるぞぉおおお」

畳「みんなもありがと」(畳ガチ泣き


閉幕


エモエモのエモやん……

ワイもちょっと泣いた


917 名無しのライバー ID:RtDQHjIk5

脱サラはまぁ、うん……裏方で色々働きすぎだしな


918 名無しのライバー ID:9yRuKiJAF

今回の騒動1番の被害者だしな

登録者結局減ったまんまやろ?


919 名無しのライバー ID:uUlzhoA/a

後変なのに最近張り付かれてコメ欄荒らされてるし


920 名無しのライバー ID:g8SGQJtJm

それマ?

運営君さぁ……


921 名無しのライバー ID:CSszOAwei

運営ちゃんはイベントにリソース割いてて対応出来てなかっただけだから……


922 名無しのライバー ID:gJICycTXb

今回の面子誰が欠けても上手く行かなかっただろ


923 名無しのライバー ID:SisterChan

上手く行ってホントよかった





 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


◇◆◇◆◇◆


 無事に終わってよかった。SNSやWeb配信枠を覗いてみても概ね好評らしく、ようやく一息つけそうだ。私は前説とイベント中に使った茶碗の提供。ちなみに、茶碗は私が陶芸教室で作った物である。何故陶芸教室? という疑問はあるだろう。簡潔に説明すると昔取引先の社長の奥さんが陶芸教室をやっていたので、そのご機嫌取りである。休日も職場で過ごすか、それとも営業と言い訳付けてご機嫌取りに行くか。それを天秤にかけた結果後者を選んだというのが背景である。



「はは、ここまでお客さんの歓声が聞こえてくるな」


 柊先輩マイク越しの声とそれに応える会場の声。


 ――本当に良かった。


「後裏で色々助けてくれた神坂ァ! ありがとー」

「神坂ァ!! ありがとぉおおおお!」


 どうして? 私はそんな言葉を貰える立場にないはずだ。散々この『あんだーらいぶ』という箱に迷惑かけ続けて来た。にも関わらずこんな言葉をかけてくれるなんて……

 

 ――嗚呼、本当にVtuberをはじめてよかった。 


 このVtuber仕事も、先輩も、後輩も、スタッフも、絵師さんも、それ以外の沢山の支えてくれる人、


 そして応援してくれる全てのファンの人達がこんなにも自分にとって大きな存在になるなんて思いもよらなかった。ただの気まぐれ、妹がキッカケのただ一時の感情ではじめただけの自分にこんな声をかけてもらう資格なんてないはずなのだ。


 ――いつか俺はこの人たちからかけられた声に見合うだけの存在になり得るだろうか? 恩に報いることが出来るだろうか? 



  


「妹ちゃーん愛してるぞぉおおお」 



 ごめん、やっぱさっきの言葉取り消すわ。




7月×日

 事務所からイベントに使った茶碗の返却と菓子折りが届く。有名洋菓子店の焼き菓子なので妹も喜ぶだろう。


 ――あれ……?


 見覚えのない器。色合いも形も何もかも違う。


 


「これ借金のカタやんけぇ!」


 


 


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