エピローグ

エピローグ ルークとソフィア ~師弟の破棄?~

 ―――あれから、1年。


 僕とソフィアは色々あったけれど、今では新婚生活を満喫中だ。

 しかし、僕には一つ悩みがある。


「ソっ、ソフィアぁ?タオル・・・置いておくよぉ?」

「なんだ、ルークか。すまない。ありがとう」

 僕の裏返った声なんて気にも留めず、師匠は汗を拭きながら剣舞の感想戦を心の中でしていた。


(これは・・・いけたのか・・・?)

 そう、僕の悩みとは、師匠を「ソフィア」と呼び捨てすることだ。

 結婚したら、別に呼び捨てでも構わないと思うだろう。

 

 しかし、師匠は僕が呼び捨てでよぼうとすると、睨んで言わせないオーラをプンプン匂わせていた。別に僕も12年もソフィアのことを師匠と呼んでいたので、慣れてしまっているから、それでいいとも思っていた。 

 

 けれど、悔しいじゃないか!!


 師匠に会う男、会う男、みんなソフィア、ソフィアと呼び捨てで呼んでいた。

 中には「ディア(親愛なる)ソフィア」なんて、出会ったばかりで呼ぶような不届きものの奴までいて、愛しの師匠を汚された気分だ。

 みんながよくて、師匠の一番である僕だけ呼び捨てがダメなはずがない。


(よし、他の男どもになんか負けないぞ。ソフィア作戦、強行だ!!)

 

 ―――昼食

「ソっ、ソフィア、ご飯できたよ~」

「あっ、うん。ありがとう」



 ―――夕方

「ソフィア、お湯が湧けたよ?お湯浴びするならどうぞ」

「おっ、おう」


 ―――夜

「ソフィア、そろそろ寝なさい」

「・・・」


 ―――朝

「ソフィア、もう朝だよ」

「おい!!!ルークッ!!!」

 ソフィア・・・もとい師匠が切れた。


「おい、お前。師匠を呼び捨てで呼ぶとは何事か!!」

「うっ、えーっと、付き合いも長いし、さっ」

「だめでーすっ」

「王族だよ、僕」

「・・・はぁ」

 ソフィアは溜め息をつく。


「私をがっかりさせるな、ルーク」

 怒られるよりもその言い方の方が僕は辛かった。

 そんな僕をじーっと見て、師匠はもう一度ため息をつく。


「師匠と呼ばせているのは・・・お前だけだぞ、ルーク」

「そっち!?」

 師匠は顔を赤らめているが、師匠のその特別扱いはよくわからない。


「おねぇちゃんって呼んでも・・・いいんだぞ?」

「じゃあ・・・ソフィアお姉ちゃん・・・」


 ずきゅーーーーんっ


 僕は目をこする。

 今、師匠の胸にピンク色の矢じりの弓矢が刺さったように見えた。


「ルークぅううううううっ」

「ちょっ、急に抱きしめないでくださいよっ?」

「それで行こう!!!」

 

 僕は後悔した。

 それから、師匠はしばらくの間、人前でも『ソフィアお姉ちゃん』と呼ばないと返事をしてくれなかった・・・。

 まぁ・・・『ソフィアお姉ちゃん』と呼べば、大きな胸でメチャクチャ甘えさせて貰えたから・・・いいんだけどね。


 そんな風に甘えたことが理由かはわからないけれど、ソフィアと呼ばせてもらえるようになったのは、10ヶ月後に元気な双子が生まれてからだったというのはまだ先の話。

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