師匠!結婚はあと1年待ってくださいよ!!
西東友一
プロローグ
プロローグ
春。
それは恋する気持ちが騒ぎ出す季節―――
「はあああっ」
この名前がわからなかった気持ちがそれだとわかってからおよそ1年。
師匠に伝授されて極めし剣技が再び輝きを取り戻しつつある。
一度習得した剣技も10歳を過ぎて、日々わずかながらでも身体が成長し、身長、体重が変わり、完璧な動きが次の日には同じように動いてもずれてくる。
成長期に剣技を極めるとはなかなか難しい。
ただ、そんな身体の変化なんてのも師匠の指導があれば、些細なことなのだ。
一番の問題は・・・心。
師匠を異性としてしか見れなくなったんだ。
師匠にどう思われているのだろうか、師匠の瞳には僕はどう映っているのだろうかと、師匠はこの声変わりになった声を気に入ってくれるのか・・・毎日毎日毎日・・・。剣技そっちのけで、師匠と自分のことばかり気になってしまった日々。それも幸か不幸か、師匠との二人暮らし。
溜まらないだろ?
いろいろと・・・。
「はあああああっ、せいっ!!」
簡単に振り切れるほど、僕の想いは軽くはない。
どんなに目に見えぬ太刀でも、だ。
しかし、いずれはその気持ちにも整理を付けなければならない。じゃないと、苦しくて、どうにかなってしまいそうになる。
そして、僕はようやくある決心をしたことで、気持ちを静めた。
すると、どうだろうか。
一度は曇ってしまった剣技が再び輝きを取り戻してきた。
(うん、順調だ。これなら・・・っ)
「せいやっ!!!」
空気を切り裂く澄んだ綺麗な音が春の庭に響く。
「ふーっ」
僕もだいぶ成長し、師匠との関係性も良好。
(男としての自信も大分ついてきたし、まだ8ヶ月早いけれど・・・どうしようかな)
僕は桶に張ってあった水で、反射する自分の顔を見る。前髪が少し気になったので、かっこよく見えるように整える。
15歳になれば一人前。
成人の儀を済ませれば、僕も結婚できるようになる。
2、3年前くらいに師匠の身長を越して、大きくなるからだ以上に、日を追うごとに大きくなっていく想いは、どんなことがあろうと止まる気がしない。
―――僕は師匠にプロポーズする
「おっ、順調だな。ルーク」
その声だけで、僕の心の中は恋の花が咲き誇る。
僕は振り向くと、憧れであり、恩人。そして――――愛しい想い人。
師匠であるソフィアが金色の髪を春の朝日で輝かせながら、いつものように微笑んでくれている。
(あっ、やばい。今日は一段と・・・)
どんな花にも負けない素敵な美女。
今日はどことなく、いつも以上に女性としての魅力を感じてしまう。
頬は赤みがほんのりとさしている気がする。
「あれっ、師匠・・・なんか今日、一段と・・・その綺麗ですねっ」
僕は勇気を出して言う。僕も、もう14歳。
恥ずかしがって、レディーに素直な褒め言葉を伝えられないのは13歳で卒業だ。
「おぅっ、うん。ありがと・・・。その、今日はちょっと化粧をだなっ、してみたんだ・・・似合うか?」
「も、もちろんですっ!!」
(んーーーーっ)
僕は悶絶する。
(言ってよかったっ!!)
師匠は白い肌にさらに赤みがさし、目をパチパチしながら、髪をくるくる指でいじっている。いつものガサツな師匠の乙女な部分が見れて、僕もドキドキしてくる。
「ほらっ、これっ」
「あっ、ありがとうございます」
僕は師匠から革袋の水筒をもらい、ゆっくりと飲む。
「ごくっごくっ、ぷはーーー。うまいっ」
乾いた体に染み渡る。山の雪解けで生まれたのであろう水は格段に美味い。
「あの、師匠。大事な話があるんですが・・・」
僕は自分の気持ちが抑えきれなくなる。
(あっ、一応作戦を立ててからの方がいい・・・かも)
「おっ、それは奇遇だな。私も大事な話があるんだ。にししっ」
僕が見切り発車に後悔して、しどろもどろしていると、嬉しそうにしながら、師匠が話しかけてくる。
なんなんだろう、今日は本当に師匠はおかしいぞ?
「あっ、じゃあ先にどうぞ」
「えーっとね、ふふふっ・・・っ」
こんなに嬉しそうな師匠は久しぶりに見る。いや、もしかしたら初めてかも。その上、女の子らしさを感じる。
(こっ、これは・・・っ。もしかしてっ!)
春のせいだろうか、師匠のせいだろうか、僕も浮ついた気持ちになってきた。
抱きしめたい。
9歳くらいまでは、何かと僕を抱きしめてくれた師匠。好きな優しい匂い包まれて、幸せな気持ちで満たされた日々。
けれど、体が、気持ちが師匠の女性としての魅力を感じてしまい、僕は拒絶してしまった。冬場に師匠が一緒に寝ようと言ってベットに誘われても寝れなくなるし、一緒にお風呂に入るのも何度か嫌がっていたら、誘われなくなってしまった。
もしかしたら、別の意味でそういう関係になれるかもしれない。
大人と子どもではなく。
男と女として。
「笑ってないで・・・早く・・・言ってくださいよっ」
僕は前髪を整えながら、心も整理する。
「うーんとね~、うふふっ実は・・・」
「はいっ」
「お見合いをすることになったんだ」
素敵な女性な顔だった。
でも、その顔は僕じゃない男を思い浮かべていた素敵な笑顔だった。
「ええええええええええええっ」
サクラが散るにはまだ早い季節。
爽やかな春の森に僕の間抜けな声が響き渡った。
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