第19話A(4)熱闘!Bブロック

「そう、結婚や」


「な、なんでまた……」


「うちは陰陽師、自分の人生についての吉凶を占ってみたところ……」


「みたところ……?」


「あんた、疾風大洋と結婚するのが吉と出たんや」


「そんなピンポイントで出るものなのか⁉」


「出てもうたものはしゃあないやろ」


「しゃ、しゃあないって……」


 大洋は困惑する。


「それじゃあオンライン婚姻届を提出するで」


 浪漫が端末を取り出し、操作を始める。


「ま、待て! 俺の意志はどうなる⁉」


「この場合、アンタの意志はどうでもええやろ」


「いかなる場合においても、どうでもいいことは無い!」


 大洋が浪漫の腕を掴み、端末の操作をやめさせる。浪漫は軽く舌打ちする。


「ちっ……」


「だ、大体、君はそれで良いのか⁉」


「……最近、方向性に悩んでいてな……」


「方向性?」


「ああ、陰陽師兼ロボットパイロット兼アイドル歌手兼占い師兼気象予報士兼雀士兼その他もろもろでマルチに活動しているからな」


「そりゃあ悩むだろうな……」


「この状況を打破する為には結婚が吉と占いで出たんや!」


「そうか……」


「せやから構わへんな?」


 浪漫が端末をタップしようとする。


「構う! なんで初対面の相手と結婚せねばならん!」


「保守的やな……」


「君が革新的過ぎる!」


「はあ……分かった……それじゃあこうしようや、次の試合でうちがアンタに勝ったら結婚っていうことでええな?」


「次の試合だと⁉ そ、そういえば、さっき映像で見たあの黒い着物を纏ったような独特のフォルムの機体……」


「せや、それがうちの自慢の愛機、幽冥ゆうめいや。幽冥がアンタらの機体……電光石火やったか? それに勝ったならば……」


「か、勝手に話を進めないでくれ!」


「なんや、思い切りが悪いな……」


「いくらなんでも判断材料に乏し過ぎる!」


 浪漫はため息をついて、端末をしまう。


「まあええわ。とりあえず試合は容赦なくいくから覚悟しときなはれ……」


「そ、それについてはのぞむところだ」


「ほな、試合会場で……」


 浪漫は一礼すると、その場から去っていった。


「……はっ! ぼおっとしている場合ではない! 俺も戻らなくては!」


 大洋も小走りでその場を後にした。その数十分後……。


「さてと……試合開始だよ」


「大洋が来おへんから焦ったで」


「すまん」


 大洋がモニター越しに閃と隼子に頭を下げる。


「Bブロック、試合開始!」


 審判の声が響く。閃が尋ねる。


「最初から合体しとこうか?」


「ひとまず三機のままの方が、三方から来る相手に対応しやすいちゃうんか?」


「それも一理あるけど、各個撃破されて合体不可能になって負けるのが一番悔しい負け方だよ。力を出し惜しみしている段階じゃない」


「それもそうやな」


「よし、合体だ」


 閃の言葉に隼子が頷き、大洋がスイッチを押して、三機が合体し、電光石火となる。


「ふふふっ! ご丁寧に的を大きくしてくれてありがたいことやで!」


「⁉ 幽冥、明石屋浪漫か!」


 黒い機体が悠然と歩きながら、電光石火に近づいてくるのが見える。


「浪漫で構わんで。二人は夫婦になる運命なんやから……」


「人の運命を勝手に決めるな!」


「うちの占いはよお当たるんや」


「そんな占いなど覆してやる!」


「ちょ、ちょっと! 盛り上がっているところ悪いんやけど⁉」


「なんだ、隼子!」


「なんだはこっちの台詞や! なんや、夫婦がどうのこうのって⁉」


「……この試合にうちが勝って、アンタらが負けたら、疾風大洋とうちは結婚する……至極簡単な分かりやすい話や」 


 電光石火にモニターを繋いできた浪漫が顎をさすりながら説明する。


「い、いや、分かりやすいけれども! 一体、何がどうなってそうなんねん⁉」


「やかましいお姉ちゃんやな。占いの結果やから仕方がないやろ」


「仕方がないって! ええんか⁉ こんなフンドシ男が旦那で⁉」


 隼子は例の如く、コックピットでフンドシ姿になっている大洋を指し示す。


「ちょっと変わってる方がええわ。エキセントリック夫婦タレントで売り出せるからな」


「どんな夫婦やねん!」


「大洋のフンドシ姿に動揺しないとは……なかなかの実力者のようだね」


「ああ、これは侮れんな」


「何を基準に実力を測っとんねん、アンタらも!」


 隼子が頷き合う閃と大洋に突っ込みを入れる。浪漫が口を開く。


「そろそろええか? さっさと終わらせるで!」


 幽冥の周りに木目色の大きな板状のものが八枚浮かぶ。


「あ、あれは⁉」


「『光矢こうし』!」


「⁉」


 板状のものから光が次々と放たれる。電光石火にことごとく命中する。


「どわっ! な、なんだ⁉」


「あの板からレーザー光を発射したんだ! 地区予選では見せていない戦い方だ!」


「ふふっ、いわゆるひとつの隠し玉ってやつや……」


 閃の言葉に浪漫が余裕たっぷりでに答える。


「こちらもやり返すぞ! 閃!」


「オッケー!」


 電光石火が射撃モードにチェンジし、即座にガトリングガンを発射させる。


「ふん……!」


「な、なんだと⁉」


 板状のものが幽冥をとり囲み、バリアを発生させ、銃撃を跳ね返す。閃が呟く。


「バリアを発生させた……? なんだあの板は?」


「ただの板とちゃうで、これは電磁護符っていうもんや」


「電磁護符……」


「優れた陰陽師でもあるうちにしか使えん兵器や。ほな、次で決めるで!」


「くっ⁉」


「ちょっと待った!」


「⁉」


「なんや⁉ ぐうっ!」


 突然現れたやや茶色ががった白色の機体が幽冥を蹴り飛ばす。不意打ちを食らった形の幽冥は後方に吹き飛んだ。大洋が叫ぶ。


「お、お前は⁉」


「ウ・ドーンだ!」


「香川県代表、大讃岐製麺所の機体か……」


「なんで製麺所がロボットを作ってんねん!」


 閃の冷静な呟きに隼子が突っ込む。それにウ・ドーンのパイロットが反応する。


「そこのお嬢さん、麺もロボットも基本は一緒さ! コシが大事なんだ!」


「何を言うてんねん!」


「とにかく丹精を込めて作れば、ロボットだって出来るってことさ!」


「出来へんやろ!」


「丹精を込める……良い言葉だ!」


「大洋、変なところに感銘を受けんなや!」


「電光石火! 九州大会の戦いぶりは見せてもらった! 君らが一番厄介な相手だと判断した! ここでご退場願おう!」


 ウ・ドーンが構えを取る。閃が冷静な分析を続ける。


「近距離戦が得意な機体だよ! 距離を取って戦おう!」


「そうはさせない! 我が香川県に伝わる伝説のヒーローを模したこの機体の技をとくと味わいたまえ! うどんだけにね!」


「は、速い!」


 ウ・ドーンが一瞬で電光石火との距離を詰める。


「くっ、モードチェンジだ!」


「なっ⁉」


 近接戦闘モードに変形した電光石火の振るった刀が、ウ・ドーンの両脚部を切断した。バランスを失ったウ・ドーンは落下する。審判の声が響く。


「ウ・ドーン、戦闘継続不可能と判断!」


「よ、よしっ! やったな、大洋!」


「今のは居合い術……? 着実に腕を上げているね」


「いいや、咄嗟に飛び出たようなものだ、もっと練度を高めないといけない……」


 大洋は隼子らからの称賛の言葉を謙虚に受け止める。審判の声が聞こえる。


「幽冥、戦闘継続不可能と判断! Bブロック、勝者は二辺工業と越前ガラス工房!」


「な、なんだと⁉」


 驚いた大洋がモニターを確認すると、煙を上げて倒れ込んだ幽冥を挟みこむように二体の茶色いカラーリングの機体が立っていた。


「はわわっ、か、勝ってしまいましたよ……」


「そ、そうですね、まぐれというものがあるのですね……」


 二体から戸惑い気味の男女の声が聞こえてくる。大洋たちは言葉を失った。

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