第18話A(4)泳いできた

「え~じゃあ、ここってどこさ~?」


「どこって言われても……! 大星さん! 回線!」


「海鮮? まあこの辺のも美味そうだけどね~」


「違います! 回線がオープンになっています!」


「まあ、ちょっと落ち着くさ~山田ちゃん」


「落ち着いてなどいられませんよ!」


 戦場に突如として現れた獅子の顔をした人型ロボットに誰しもが戸惑ったが、攻撃を喰らった忍鮫は、このロボットを敵とみなし、先端部分を開いて突撃する。


「おっ! なんかこっちに向かってくるさ~」


「そりゃあ、思いっ切りパンチをお見舞いしちゃいましたからね!」


「いやいや、それは海上に出てきたところにいた向こうも悪い!」


「全面的にこちらが悪いんですよ!」


 ミカンが尚も戸惑いながらも、通信を繋ぐ。


「どなたたちか知りませんが、気を付けて下さい! 海賊集団、真倭寇の艦です!」


「し、真倭寇⁉ どこかで見たことがあると思ったら……」


「因縁のある相手さ~ならばひと安心! 容赦なくぶっ飛ばせる!」


「ええっ⁉」


 ミカンが驚く。獅子のロボットもそれなりの大きさではあるが、忍鮫はそれよりも一回り大きい。それで衝突攻撃のようなものを繰り出されたら、吹き飛ばされるのはどうみても獅子のロボットの方だ。そのことは獅子のロボットに同乗している女性もよく理解しているようで、悲鳴に近い声を上げる。


「む、無理です! 大星さん、回避して下さい!」


「何も慌てることはないさ~」


 大星と呼ばれた男性がのんびりした声で応える。


「慌てますよ! って、ぶ、ぶつかるー‼」


「『シーサーナックル』‼」


「⁉」


 獅子のロボットは迫りくる忍鮫の顎の辺りに右の拳でパンチをかました。忍鮫の大きな艦体が空高く跳ね上がる。


「『……アッパーカット』! どうよ? この狙いすましたパンチは?」


「狙ってないですよね⁉ 完全に跳ね上ったのを見てから、後付けで『アッパーカット』って言いましたよね⁉」


「細かいことは良いじゃないの、山田ちゃん」


「いや、結果オーライでは困るんですよ!」


 山田と呼ばれた女性が叫ぶと同時に、空に舞っていた忍鮫が突如としてエンジンを吹かし、その場から離れようとした。ミカンが叫ぶ。


「わずかな時間ですが、飛行機能も備えています! ここから離脱するつもりです!」


「おっと~逃がしはしないさ~」


 大星は獅子のロボットの左の掌を広げ、右拳をポンポンと叩く。


「無理ですよ!」


「え、なんでさ~?」


「この機体はそれなりに高い跳躍力を備えていますが、飛べるわけではありません!」


「海の上には立てるのに?」


「むしろなんで海の上に立てているんですか⁉」


「なんだろうね~『立てたらいいな~』って思ったからかな~」


「搭乗者の思考がダイレクトに反映されている? ……って、性能テストの場でもなんでもないのに、ポテンシャルを引き出さないで下さい!」


「獅子ロボットのパイロット! よくやってくれた! 後は任せろ!」


 大洋がモニターを繋ぐ。


「ほ、ほら、軍人さんかな? 後はお任せしましょう……って、きゃあああ⁉」


「どうした⁉」


「こっちのセリフです! なんで半裸なんですか⁉」


「これが俺の勝負服だ!」


「な、なんか、訳のわからないことが立て続けに……頭痛くなってきた……」


「? とにかく行くぞ! 外原!」


「おっしゃ! 任せとけ!」


 光を乗せた彼方が急上昇し、忍鮫に追い付く。大洋は刀をあえて納刀する。


(あの人がやっていた、抜刀術を真似てみるか……)


 大洋は先の巌流島でのスレイヤー・テッラが繰り出した技を思い浮かべる。


「大洋! 接近したぜよ!」


「よし! えっと……『慈しみ!』」


 大洋が光に刀を振るわせ、忍鮫の大きな艦体はエンジン部分を切り離され、ゆっくりと海上に落ちていく。外原が感心したような声を上げる。


「爆発はさせんかったか……成程、あの様子ならば、死者は出んじゃろう。悪い相手に対しても、慈愛の心は失わない……大した武士道ぜよ」


「……そういうことだ!」


 大洋は技名をうろ覚えだったことは黙っておくことにした。伊織が各機に呼びかける。


「敵部隊、沈黙を確認……ご苦労様でした。全機帰投して下さい……そちらの獅子のロボットさんも良かったら来てもらえる? こちらは高島津製作所所属の航空戦艦桜島です」


「真倭寇……黄海、東シナ海、南シナ海、または東南アジアでの海賊行為はいくつか確認していましたが、まさか瀬戸内海にまで進出しているとは……構成員には日本人も多数含まれているようなので、そこまで不思議なことではないと言えばそうなのですが」


 桜島のブリッジにて、ミカンが淡々と説明する。


「あいつら、沖縄の海でも悪さしているさ~」


 かりゆしウェアにハーフパンツというリゾート感丸出しの服装をした短髪の男が伸びをしながら呟く。年ころは少年と青年の間というところであろうか。さほど大柄ではないが、筋肉質の身体をしているのが見て取れる。伊織が問いかける。


「因縁がどうとか言っていましたね?」


「先月、ちょっとね~五色の変なロボットが助けてくれたけど」


「変なロボットとか言わないで下さい! 大恩人でしょう!」


 ミディアムロングの髪をやや茶色に染め、眼鏡を掛けた白衣姿の女性が嗜める。


「……貴方たちの所属とお名前を教えて下さいますか?」


「は、はい! 琉球海洋大学工学部学生の山田いつきです! こちらが……」


「オレは大星修羅おおほししゅらさ~」


「琉球海洋大学……確か、ロボチャン沖縄大会を勝ち上がっていましたね」


「ええ、そうです!」


「あの獅子のロボットではなかったと思いますが……?」


「そ、それは……」


「シーサーウシュはついこないだ太古の深い眠りから目覚めたんさ、たまたま通りがかったオレが搭乗者に選ばれたってわけさ~」


「お、大星さん、全部正直に言わないで下さい!」


「ウシュ……沖縄語で御主や王を意味する言葉、さながら獅子王と言ったところですか」


「ほう、博識だね~お姉さん」


「指を差さない!」


「……何故に瀬戸内海に?」


「沖縄から泳いできたからさ~」


「お、泳いできた⁉」


「そう、ロボチャン全国大会に出場する為さ~良いトレーニングになると思って」


「せっかく淡路島への輸送費をクラウドファンディングで集めたのに……」


「お前もロボチャンに出るのか、よろしくな」


「お、フンドシのアンちゃんも出場者かい? なるほど、強そうだね。オレは子供の頃から琉球空手をやっているから、強いやつと戦うのは何よりの楽しみさ~」


「ふっ、それは同感だ」 


 修羅と大洋が笑いながら見つめ合う。伊織が言い辛そうに口を開く。


「あの……ロボチャン全国大会は行われないですよ」


「「ええっ⁉」」


 大洋たちが揃って驚く。

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