第18話A(2)新たな出会い

「「「よろしくお願いします!」」」


「げ、元気だな……君たちも乗員なのかい?」


「はい! 私たちは呉の港で採用して頂きました!」


 蜜柑色の髪を右側サイドテールにまとめた女の子が元気よく答える。


「し、しかし、その揃いのフリフリとした服装……」


「わたしたち地元愛媛を拠点に活動しているローカルアイドルなんです!」


 蜜柑色の髪をポニーテールにした女の子がはきはきと答える。


「そ、そのローカルアイドルの娘たちがなんでまた戦艦に?」


「ワタシたちでもお役に立てることがあるかと思いまして! 思い切って乗艦採用試験を受けさせて頂きました!」


 蜜柑色の髪をツインテールにした女の子が明るく答える。


「そ、そうか……そ、それはだいぶ思い切ったな……つまり艦内のムードメーカーみたいなものなのかな?」


「そうですね、私たち毎日艦内のどこかしらでライブイベントをやっていますので、良かったら見にきて下さい! お願いします!」


 サイドテールの娘がまた元気よく答える。どうやらこの娘がリーダー格のようだ。


「そ、そうか……まあ皆を元気づけるのも重要なことだな……」


 大洋が尚も戸惑い気味に答える。それを察してポニーテールの娘が口を開く。


「もちろんですが、わたしたちはクルーとしての仕事もしっかりとこなしていますよ」


「そうなのか?」


「当然ですよ!」


 ツインテールの娘が頷く。


「私、ミカンはブリッジでサブオペレーターをしています」


「わたし、イヨカンは格納庫で整備士をしています」


「ワタシ、ポンカンは医療スタッフアシスタントをしています」


「え? あ、ああ、お手伝いをしているというわけだな」


「お手伝いではなく、正規のお仕事ですよ!」


「ちゃんとした資格持ちです」


「ほら、これがライセンスです」


 三人がそれぞれライセンスを大洋に見せてくる。


「おおっ……」


「私は他にも食堂で働いています。これが調理士免許です」


「わたしは洗濯部署でも働いています。クリーニング師のライセンスです」


「ワタシも清掃部署でも働いています。艦船環境衛生管理技術者の資格です」


「こ、国家資格じゃないか!」


「他にもまだ色々ありますよ! 三人合わせて、全部で百個ほど資格を取っています」


 ミカンが胸を張る。


「す、すごいな……なんでまたそんなに?」


「今世紀の初めころから続くアイドル戦国時代……ここ最近、終息するどころか、ますます厳しさを増してきています」


 イヨカンが淡々と説明する。


「ほ、ほう?」


「他のアイドルとの違いを明確に示さないといけませんから!」


 ポンカンが声を上げる。


「た、大変だな……」


「前線で戦う疾風さんに比べればなんてことはありません! そうだ。元気をつけるために一曲どうですか? ちょうど新曲が出来たんです!」


「あ、ああ、折角だけど、またの機会にお願いしよう……」


「そうですか、それでは失礼します! せーの……」


「「「お疲れ様です!」」」


「お、お疲れ様……」


 三人娘はスタスタとその場を後にした。


「わざわざ戦艦勤務を希望するとは、アイドルというのも楽じゃないんだな……」


 大洋がラウンジの椅子に腰を下ろす。飲み物でも飲もうかと思っていると、目の前にブラックコーヒーがどんと置かれる。


「え……?」


 テーブルを挟んだ目の前の席に、日焼けした体格の良い男性が座る。


「奢っちゃる! グイッと飲むぜよ!」


「あ、ああ、ありがとうございます……」


 大洋が困惑する。男性が首を傾げる。


「なんじゃ? ブラックは嫌いか?」


「い、いいえ、別にそういうわけではありませんが、今はなんとなくオレンジジュースの気分だったもので……」


「出撃前にブラックコーヒーをごくごくと飲み干してこそ男! 良い仕事は出来んぞ!」


「は、はあ……出撃前ということは貴方もパイロットですか?」


「おう。挨拶が遅れたのう! わしは外原慎次郎とのはらしんじろう! この艦所属のパイロットじゃ!」


「疾風大洋です。よろしくお願いします」


「噂は聞いている! フンドシ姿でロボチャン九州大会で暴れ回っていたそうじゃな!」


「お、お恥ずかしい限りです……」


「何を恥ずかしがることがある!」


「⁉」


 大洋は俯いた顔を上げる。外原は続ける。


「フンドシ一丁は不退転の覚悟の表れ! どうしてなかなか出来ることじゃないぜよ! もっと自信を持つがよ!」


「は、はい……ありがとうございます! 外原さん!」


 覚悟の表れとかそんな大層なものではなく、単に性癖だと思われる。何故ならその方が妙に落ち着くからだということは大洋は黙っておくことにした。


「さん付けなんて他人行儀じゃな! 外原で構わんぜよ!」


「で、では、俺のことは大洋と呼んで下さい!」


「大洋……大きい洋、良い名前じゃ! これからよろしく頼む!」


「はい!」


 二人がガシッと握手を交わしたところで、ラウンジルームに警報が響く。


「!」


 ブリッジから連絡が入る。


「正体不明の敵から攻撃を受けています! 各自出撃して下さい!」


「正体不明……?」


「行くぞ! 大洋!」


 外原に大洋も続き、光に乗り込んで出撃しようとして、艦の外に出るが、珍しく逡巡する。


(くっ、瀬戸内海上だな、光には飛行機能が無い! ど、どうすれば……?)


「大洋、乗れ!」


「⁉」


 発射カタパルトに朱色を基調としたカラーリングの大きめの戦闘機が現れる。


「外原⁉」


「早くせえ!」


「あ、ああ!」


 大洋は光をその戦闘機の上に飛び乗らせる。


「よし、行くぜよ!」


 戦闘機は勢いよくカタパルトから発進した。戦闘機は速いスピードを維持したまま、高度を下げ、瀬戸内海上に点在する島々の間をすり抜けて飛んでいき、ミサイルを発射する。ミサイルは小島に隠れていたロボットたちに的確に命中する。


「す、凄い!」


「これくらい朝飯前じゃ! ワシは空援隊くうえんたい隊長、じゃからな!」


「く、空援隊⁉」


「はははっ! 驚いたか! あの空援隊ぜよ!」


「すまん! 初耳だ!」


「初耳かい!」

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