第17話(3)巌流島の邂逅

「自分ら久々に会うたらまたけったいな艦に乗っておるの~」


 古代ローマ人の様な服装をした虹色の坊主頭で背中に昆虫の羽のようなものが生えた屈強なマッチョの青年?がビバ!オレンジ号のラウンジを見回しながら呟く。


「けったいなのはお互い様やろ……」


 隼子が呆れ気味に呟く。


「バイクで佐世保からこっちの方に来ていたんだな、美馬」


 大洋がマッチョの隣に座る黒ずくめの服を着た男に声をかける。


「ああ……ちょっと近くの門司の街を観光していた。海沿いに来てみれば、戦闘を目撃したのでな、助太刀させてもらった」


 美馬と呼ばれた男が落ち着いて答える。閃が尋ねる。


「この艦のエンジントラブルも解決して、淡路島に向かっているんだけど……これから同行してくれる感じかな?」


「必要とあらばな……」


 大洋たちのやり取りを遠巻きに眺めていたユエがタイヤンに小声で尋ねる。


「ねえ……何者かしら?」


「美馬と言っていた……日本人だろう」


「それは分かるわよ、私が聞いているのはその隣にいる存在よ」


「分からんからこうして距離を取っている……」


「再会でお話が弾んでいるところ悪いけど……」


 アレクサンドラがセバスティアンを伴ってラウンジに入ってくる。美馬たちが驚く。


「! な、なんや⁉ 姉ちゃん」


「……ひょっとして異星人か?」


「まあ、そうなるわね。初めまして、私はアレクサンドラ。こっちは執事のセバスティアンよ。セバスティアン、準備はいい?」


「はい、出来ましてございます」


 アレクサンドラの問いにセバスティアンは答える。


「結構……このラウンジのモニターを艦内中のモニターと繋げたわ。それぞれ自己紹介をお願い出来るかしら?」


「……俺は美馬隆元みまたかもと、テネブライのパイロットをやっている」


「テネブライ……あの黒い機体ね。ざっと見た感じ、この地球圏のロボットとは随分設計思想が異なるようだけど?」


「そうだろうな、あれはエレメンタルストライカーと呼ばれる機種だ」


「エレメンタルストライカー? 初耳ね」


「こことは異なる世界のものだからな」


「異なる世界?」


「そう……パッローナと呼ばれる世界だ」


「ちょ、ちょっと待てよ! それじゃアンタら、アレか? 異世界人ってやつか⁉」


 玲央奈が首を突っ込んでくる。美馬がため息交じりに答える。


「……俺は日本人だ、調べれば分かる」


 アレクサンドラが視線を向けると、情報端末を確認したセバスティアンが答える。


「データの照合終了……十年前の第二新東名高速道路で起こった交通事故の後に行方不明になった美馬隆元氏で間違いありません」


「行方不明?」


「こいつらに召喚されたんだ……エレメンタルストライカーの操縦適性が高いのはこちらの世界の人間らしいからな」


 首を捻るアレクサンドラに美馬が隣に座るマッチョを指し示す。


「じゃあこちらのレインボー坊主さんが異世界の住人ってこと?」


「召喚って魔法ってことか⁉ すっげー! マッチョのおっちゃん、魔法使えんのか⁉ ますます異世界っぽいな!」


「どいつもこいつも異世界異世界うるさいねん! オレから言わせりゃこっちが異世界やっちゅうねん!」


 マッチョがテーブルをドンと叩き、背中の羽を大きく広げる。周囲が驚く中、玲央奈が歓声を上げる。


「おお、それってマジモンの羽なんだな!」


「当たり前じゃ! なんやと思っていたんや!」


「オシャレファッションかと思ってたぜ」


「オシャレファッションって! 生まれつき付いているもんや!」


「生まれつき? レインボー坊主さんって……」


「だからなんやねん! そのレインボー坊主って! オレの名前はナー=ランべスや!」


「それは失礼……ナーさんはもしかして人間ではないの?」


「オレはアレや……極々普通のフェアリーや!」


「ええ、フェアリー⁉」


「そんなムキムキで⁉」


「なんや! フェアリーがムキムキやったらアカンのか⁉」


 ナーがアレクサンドラと玲央奈に向かって声を荒げる。


「アカンことはないけど……」


「なんか、思ってたのと違うな……」


「勝手に想像して、勝手に落ち込むな! こっちはずっとコレでやっとんねん!」


 露骨にガッカリする玲央奈に対し、ナーが怒る。


「お嬢様……」


 セバスティアンがアレクサンドラにそっと耳打ちする。


「……あら、そうなの?」


「なんやねん?」


「貴方たち、現在は二辺工業の所属なのね?」


「……この世界に戻ってきた当初は地球圏連合に身を寄せようと思ったが、色々と面倒そうでな……ある人に根回ししてもらって、そういうことにしてもらった。ある程度の自由が利く方がなにかと都合が良い」


「では、私の部下のようなものと考えても差支えないわね?」


「は?」


「……どういうことだ?」


 ナーと美馬が不思議そうな顔をする。


「つい先日、二辺工業を買収させてもらったわ。私が新しいオーナーよ」


「⁉」


「な、なんやて⁉」


「……大洋、本当か?」


「ああ、本当だ」


 美馬の問いに大洋が頷く。アレクサンドラがグイッと大洋の腕を引き寄せる。


「そして、こちらが私のご主人様ね♡」


「なっ⁉」


「ええっ⁉ 自分ら結婚したんか⁉」


「ち、違う! だから誤解を招く発言は止せ!」


 大洋が腕を絡ませてきたアレクサンドラを突き放す。


「ああん……」


「いいか、サーニャ! 何度も言うが、君と俺とはあくまでオーナーと社員という関係だ! それ以上でもそれ以外でもない!」


「いや、サーニャって、なんか愛称みたいなん親しみ込めて呼んでもうてるやん! もうそれはそういうことやん!」


「わずかひと月くらいで怒涛の変化だな……」


 ナーが騒ぎ、美馬は困惑気味に呟く。そこに警報が響く。


「セバスティアン!」


「……マクシミリアン艦長に確認しました。巌流島付近に巨大怪獣が出現した模様です」


「近いわね……行きがけのなんとやらってやつよ、怪獣撃退に出動!」


 アレクサンドラの号令で全員がラウンジを飛び出し、格納庫へと向かう。


「……どないする?」


 取り残されたナーが美馬に問う。美馬はゆっくりと立ち上がる。


「答えは決まっている……」


 巌流島の南東部の海岸にビバ!オレンジが泊まり、艦載されていたロボットが続々と出撃し、島に上陸する。アレクサンドラが各機に告げる。


「巨大怪獣、間もなく、島の北東部に上陸するわ! 各機迎撃して!」


「隼子、閃、電光石火に合体しておくぞ」


「分かったで!」


「まず上陸する所を射撃モードで先制攻撃する。頼むぞ、閃」


「出鼻を挫くってわけだね、了解」


 玲央奈の駆るストロングライオンの真横にテネブライが着地する。


「あら? 出撃すんのか? 新オーナーさんに不服そうだったのに」


 通信を繋いできた玲央奈に美馬は淡々と答える。


「今はつまらない感情に左右されるべきときではない……」


「へ? じゃあどんなときよ?」


「危険を省みず、人々の平穏を守るとき……それが救世主としての在り方だ!」


「! か、かっけえ~♪」


 急加速して飛び立ったテネブライを見送りながら、玲央奈は口笛を鳴らす。


「来るわよ!」


 アレクサンドラの声と同時に、島の北東部に巨大怪獣が現れる。大洋が驚く。


「こ、こいつはカバ型怪獣か⁉」


「美馬くん! ありったけの砲撃を加えるから、怯んだところをよろしく!」


「承知した!」


 閃が電光石火の両膝のビームキャノンと、両肩のマシンガンを放つ。だが、カバのような怪獣は機敏な動きを見せ、前方に飛んでその攻撃を躱す。


「躱した⁉」


 カバが島に上陸し、テネブライに急接近する。


「くっ⁉」


 カバが右前脚を振り上げる。テネブライはすんでのところで躱す。ナーが声を上げる。


「危なっ⁉」


「巨体に似合わずの俊敏さ……少し厄介だな」


「ここは任せて……」


「なに⁉」


 三機のやや大型の戦闘機が空中に現れる。それぞれ紅色、橙色、水色のカラーリングをしている。その内の紅色の戦闘機から女性の声がする。


「時間通りにカムヒア! ドキドキドッキング!」


「なっ⁉」


 次の瞬間、三機の戦闘機が合体し、一体の巨大ロボットとなる。


「トライスレイヤー、参上‼」


 紅色主体の巨大ロボットが空中でポーズを決める。

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