第16話(1)全員、変人

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「ロボチャン出場の為淡路島に急ぐのかと思ったら、博多に寄り道とはな……」


「オーナー様のご意向には逆らえないからねえ~」


 大洋の言葉に閃が反応する。隼子が呟く。


「しかし、博多の島にこないな軍港があったとは知らんかったわ……」


「ここは普段はそんなに使われていないからね」


 隼子が閃に尋ねる。


「で? その軍港をほぼほぼ借り切って一体何をしてんねん? あのお嬢様は? ウチらまでこうやって軍港外に締め出して」


「『それは見てからのお楽しみですわ!』って言ってたよ」


「お楽しみって……」


「……なんとなく確認出来ることは数日前から忙しなく出入りしている業者がどうやら軍事関係の業者ではないってことかな~」


「軍事関係ではない? じゃあ、なんなんだ?」


「さあ?」


 大洋の問いに閃は首を捻る。


「あ、こんなとこにいたのね、三人とも」


 ユエがタイヤンと共に姿を現す。隼子が呆れ気味に応える。


「こんなとこって、この宿舎で待機しとけって言われていたやろ……」


「言いつけを律儀に守るなんて真面目ね~」


「……その両手一杯にぶら下げている紙袋はなんやねん?」


「え、博多土産よ。ちょっと街中に繰り出してきたの」


「なっ⁉ いつの間に! 島を抜け出してたんか⁉」


「全く気が付かなかったな……」


「気が付かれないようにしたからな……」


 大洋に対しタイヤンが答える。


「なるほどな」


「なるほどな、ちゃうねん! 勝手な行動をとってもらっては困るで! これはもうアレやな! ペナルティもんや!」


「え~ペナルティ?」


「せや!」


「それは嫌だわ……明太子弁当で見逃してもらえない?」


「いただきます!」


「あっさり掌を返したな……」


 隼子の即答にタイヤンは戸惑う。閃が笑う。


「まあ、博多の近くに来て、明太子食べないのは勿体無いよね~」


「なんだか賑やかね」


 今度はアレクサンドラがセバスティアンを伴って姿を現す。


「あ、オーナーの分も買ってきたわ。はい、どうぞ」


 ユエが弁当を手渡す。


「これは……?」


「この地域名産の明太子よ」


「ほう、名産……後でゆっくり頂くとするわ」


 アレクサンドラは弁当を側に控えるセバスティアンに渡す。


「アレクサンドラ、いつまで待機していれば良いんだ?」


「嫌だわ、サーニャって呼んで下さいませ、ご主人様♡」


「え?」


「もう……二人は他人ではないのですから」


 アレクサンドラが両手で恥ずかしそうに頬を押さえる。周囲からどことなく冷たい視線が大洋に集中する。


「ご、誤解を招くような発言は止せ! 君と俺とはあくまでもオーナーと社員という関係だ! それ以上でもそれ以下でもない! そうだろう、サーニャ!」


「いや、サーニャって言うてもうてるやんけ!」


「お~やるね、大洋。玉の輿じゃないの」


 ユエがニヤニヤしながら大洋を見る。


「と、とにかく! なにか言うことがあってきたんじゃないのか⁉」


「ああ、そうね。皆、お待たせしたわね、今日中に全ての作業が終わるから、明日にはここを出港することができるわ」


「作業ってなんだったの?」


「まあまあ、それは明日までのお楽しみよ♪」


「そう言うと思ったよ……」


 閃は首をすくめる。


「それより、紹介したい人たちがいるのよ。入ってきて頂戴」


 アレクサンドラが声を掛けると、軍服姿の三人の女性と一人の男性が入ってきた。


「誰だ……?」


「自己紹介よろしく」


「は、はい……ぼ、ぼく、い、いえ、じ、自分はGofE、極東地区第十三特戦隊隊長の赤目太郎あかのめたろう少尉であります……」


 四人の中で一番小柄な男が前に出て、ボソボソと喋る。一応折り目正しく軍服は着ているが、何故かフードを被っている。ユエが怪訝な顔をしながらタイヤンに囁く。


(GofE、Guardians of the Earth……地球圏連合傘下の治安維持部隊……それは分かるけど、第十三特戦隊なんてあったかしら?)


(分からん。今は黙っているしかないだろう……)


「太郎! ビッとしろや!」


「ひ、ひゃい!」


 茶色の髪をした女性が太郎と名乗った男の背中をバシッと叩く。


「こういうのは最初が肝心なんだよ! ナメられたら負けだぜ!」


「い、いや、負けって……」


「手本を見せてやる……オレは第十三特戦隊特攻隊長、檜玲央奈ひのきれおなだ! 階級は伍長。ガンガン派手にぶっ飛ばしていくんで、そこんとこヨロシク!」


 玲央奈と名乗った女性は軍服を着崩し、髪の毛は良く言えば無造作、悪く言えばボサボサである。呆気に取られている大洋たちを見て、玲央奈は太郎に得意気な顔を見せる。


「どうよ! 奴ら度肝抜かれてんぜ!」


「いや、呆れているんだと思いますよ……」


「太郎、残念なアホは放っておけ……自分は第十三特戦隊遊撃隊長、山牙やまがウルリケ。階級は軍曹。よろしく……」


 ウルリケと名乗った細身の女性は軍服をきちんと着てはいるが、何故かニット帽を被っている。白髪交じりの前髪を垂らし、左眼を隠している。


「最後はミーか! ミーは第十三特戦隊親衛隊長、波江なみえベアトリクスだ! 階級は曹長だ、よろしくな! ワッハッハッ!」


 ベアトリクスと名乗った一際大柄な女性は軍服の上着を腰に巻いており、黒のタンクトップ姿である。こちらも何故か麦わら帽子を被っている。短い金髪がわずかにのぞく。


「えっと、サーシャ……これはどういうことだ?」


 大洋が戸惑いながら、アレクサンドラに問う。


「タエン帝国に狙われないように手を打ってみたのよ、こちらも地球圏連合政府のツテを辿ってね。政府傘下の治安維持部隊から出向してもらったの」


「そ、そうなのか……なんというか、個性的な面子だな……」


「腕は確かなはずよ、だって聞いたでしょ? 全員隊長なのよ、そんな部隊ある?」


「不安しかないんですが……」


 隼子がこめかみを抱える。


「大丈夫よ、二つ名だってあるんだから!」


「へえ、二つ名持ち? それは強そうだね」


「そうよ、オーセン、彼らの二つ名は『奇異兵隊きいへいたい』よ! 由来は知らないけど」


「恐らく戦いぶりより、その出で立ちが由来でしょうね……」


 ユエが目を細めながら呟く。

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