第13話(3)絆……?

 驚きながらも、大洋はなんとか平静さを取り戻し、伊織に問おうとする。


「あ、あの……」


「お話は後で! 今はあの竜の大群をどうするかです!」


 伊織の言うように、数十頭の竜が、突如として戦場の真ん中に現れた桜色の航空戦艦、『桜島』を標的に飛んできているのは明らかだった。


「対空迎撃が可能な機体はウチらとあの異世界コンビだけや!」


「ジュンジュンにしては冷静な状況判断が出来ているね~」


「からかうなや!」


 隼子は手を伸ばし、閃のぼさぼさな頭をさらにクシャクシャにする。


「あの大群をウチらとあの黒い……テネブライでどう抑えんねんって話や!」


「ご心配には及びません」


 伊織の声が電光石火のコックピットにも聴こえてくる。


「ええっ、心配するなって言うても……」


「各砲門、撃ち方用意!」


 伊織が凛とした声で指示を飛ばす。桜島の両舷に備えられている数多の砲口が一斉に斜め前、竜の大群へと向けられる。


「各砲門、照準修正完了!」


 ブリッジクルーの青年の報告に頷くと、一呼吸置いて、伊織が叫ぶ。


「一斉射撃、撃てえ――‼」


 桜島の両舷から放たれた砲撃が竜の大群に襲い掛かり、数十頭いた竜たちは瞬く間にその姿を消し飛ばされる。隼子が感嘆の声を上げる。


「な、なんちゅう火力や……」


「戦局を一変しちゃったね~」


 閃が両手で双眼鏡を作るようにして、戦場を覗き込む。大洋が改めて問う。


「その戦艦は?」


「我が社が極秘裏に建造を進めていたものです。本日の壮行試合の後で、サプライズとして、皆様にお披露目するつもりでした。予想外の形とはなりましたが……」


「いやいや、十分驚きました。船体が全部桜色って……」


 隼子が艦を指差しながら呟く。


「軍服もピンクとは派手ですね~」


 閃がからかうように声を掛ける。伊織は片手で軍服を軽くつまみ、もう片方の手でかぶっている帽子を直しながら、照れ臭そうに話す。


「オシャレは軍服からと言いますから……」


「いや、そんな格言初耳ですけど」


「オノレ……!」


「! 女の声だ!」


「あれを見て!」


 閃が指を差した先に女が空中に浮いている姿があった。


「人が宙に浮いとる⁉ しかもあれは……」


「真賀さんか⁉」


 大洋の言葉通り、その女は二辺工業の勤務医、真賀琴美であった。閃が呟く。


「もしかしたらって思っていたけどやはり……」


「知っとんたんか⁉ オーセン!」


「……この間の双頭犬と戦った現場近くに落ちていたんだよ……」


「何がだ⁉」


「彼女ご愛用のシガレットキャンディーがさ……」


「「⁉」」


「ワレノタマツィイハイクドトナクテンツェイヲカツァネ……イマコノヅゥダイニナッテ、ヨウヤクチカラヲエタ……」


「ど、どういうことや⁉」


 隼子が閃に問う。


「彼女の……真賀さんの中にもう一つの人格が存在していたってことかな……」


「貴様の目的はなんだ⁉」


「ヌヤコクノフッカツ……」


「ヌヤコク⁉」


「奴邪国……古代、九州を中心に西日本に広い領土を持っていたとされる大国……僅かに伝わる伝承によれば、巨大な獣を意のままに操ることが出来たといいます……」


 伊織が呟く。閃が問う。


「史学は専門外なんだけどさ! 邪馬台国とは違うの?」


「ヤマト……!」


 女の眼がカッと見開かれる。


「イマコソカエツィテモラオウ……! ヤマトニウバワレツィ、ワレラノチヲ……!」


 女が叫ぶと、またも、桜島が噴火活動を始めた。立ち上る噴煙の中から、数十頭の竜が翼をはためかせ、電光石火たちへと向かってくる。大洋が叫ぶ。


「第二波か⁉」


「要は邪馬台国への八つ当たりかいな! んなもん知らんっちゅうねん!」


 隼子が機体を操作し、迎撃に当たろうとする。伊織が制する。


「大丈夫! こちらで対処します! 各砲門、撃ち方用意! ……撃てえ――‼」


 再度、戦艦の両舷から放たれた砲撃が竜の大群に襲い掛かる。


「カワセ!」


 女の叫びに呼応するかのように数十頭いた竜たちは射撃を躱そうとする。躱しきれなかった竜もいたものの、半数近くが回避に成功し、戦艦に向かって襲い掛かってくる。それを見て隼子が悲鳴に近い声を上げる。


「いやあ! 大勢こっちに来るで!」


「叫んでいる暇があったら迎撃だ!」


 美馬の声が入る。大洋が問う。


「美馬! 良いのか⁉ あの……紫色の機体の追撃は⁉」


「今はこちらの方が重要だ!」


 そう叫ぶと、美馬はテネブライを襲いくる竜の群れに突っ込ませ、サーベルを駆使し、竜を何匹か切り捨てる。大洋が叫ぶ。


「隼子! 俺たちも続くぞ!」


「わ、分かった! 行くで! ってええっ⁉」


 電光石火がバランスを崩し、戦艦桜島の甲板に緊急着陸する。


「ど、どうした⁉」


「い、いや、オーセン⁉」


「さっきの紫色……アルカヌムにやられたダメージがここにきて響いてきたね……」


「どうする⁉」


「とにかく甲板で迎撃するしかないね、ジュンジュン、代わるよ!」


「わ、分かった!」


 電光石火は射撃モードに変更し、向かってくる竜を狙い撃つ。しかし、数が多く、撃ち漏らした竜が四頭、爪を立てて、電光石火に襲い掛かってくる。閃が舌打ちする。


「チッ! 四方向から⁉ 防御が間に合わな……えっ⁉」


 次の瞬間、電光石火を襲った四頭の竜の体が爆発し、消し飛んだ。


「な、なんだ……?」


 戸惑う大洋たちに語り掛けてくる声があった。


「苦戦しているようじゃなあ! 電光石火!」


「その声は増子さん! 卓越か!」


「大洋さん、僕らもいますよ!」


「多田野くん! ダークホースか! キックさんもいるんですね!」


「菊じゃ! 小さい〝っ〝を付けんな!」


「佐賀の守り神、サガンティス参上!」


「サガンティスまで来てくれたのか!」


「いや、ちょっと待てや!」


「北九州の暴れん坊、リベンジオブコジロー推参!」


「リ、リベンジオブなんちゃらまで!」


「いや、なんちゃらって!」


 大洋が目頭を抑え、鼻をすする。


「鎬を削った皆が助けてくれるとは……まさしく昨日の敵はなんとやらだな!」


「削った覚えの無い奴らも混ざってるけどな!」


 騒ぐ隼子を余所に閃が冷静に伊織に尋ねる。


「……この愉快な方たちは?」


「ロボチャン九州大会を見て、スカウトさせて頂きました。正確に言うと、出向してもらっている形ですね。この戦艦、戦力がまだまだ乏しいもので」


「成程ね……」


「よし、反撃だ! 閃!」


「了解~」


 閃が砲撃を再開して、艦に向かってくる竜を吹っ飛ばしていく。テネブライも空中で竜を次々と斬り落としていく。ついに竜は一頭もいなくなった。大洋が力強く叫ぶ。


「見たか! これが俺たちの絆の力だ!」


「そうだ! 絶対に貴様らには負けないぞ!」


「良いこと言うな! えっと……知らない人!」


「いや、俺っすよ! 曽我部っすよ! 覚えてないんすか⁉」


「……生憎!」


「絆は⁉」


 卓越のサブパイロット、曽我部の叫びが虚しく響く。


「コレデカッタトオモウナ……!」


 女が叫ぶと、またもや桜島が噴火した。この日一番の規模の噴火であった。


「第三波かいな⁉」


「いや……あれは!」


 もくもくと立ち上る噴煙の中から、四つの頭を持った竜がその巨大な姿を現す。


「デ、デカっ! さっきの双頭竜の倍はあるで⁉」


「親玉登場ってところかな!」


「ふん、腕が鳴っな!」


 幸村が叫び、鬼・極が甲板に上がってきた。大洋が問う。


「鬼・極! 大丈夫なのか⁉」


「エネルギーの補充は完了! 派手に暴れてやっ!」


「頼もしいな!」


「ただ、まだ心細いかな……」


 閃が呟く。そこに戦場に一際大きな声が響く。


「待たせたな! ヒヨッコども‼」


「そのダミ声は⁉」


 大洋たちが空を見上げると、五色のド派手なカラーリングをしたロボットがポーズを取っていた。タイミングがよく揃った声が戦場に響き渡る。


「フュージョントゥヴィクトリー、見参‼」

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