第6話(1)極悪お姉さん

「修理は認められているんだな、良かった……」


 大洋はホッと胸を撫で下ろす。現在、彼らは宿舎の横にある格納庫の一つに来ていた。


「大会運営の監視の下だけどね。申請していない武装の追加とかしたらルール違反だし」


 閃がマイクで的確な指示を出しながら、大洋の呟きに答える。閃の視線の先には大松ら二辺工業のスタッフたちが忙しく動き回っている。


「しかし、首を取ってもヘッドバルカンを遠隔操作で発射出来たのは驚いたで……あれはどういうこっちゃ?」


「やってみたら出来たな。やってみて良かった」


「そういう感想やなくて、仕組みを聞いてんねん!」


「……元々電や石火との合体を前提に設計されているみたいだから、各々のパーツが外しやすくなっているようだね。そういう一環でああいう離れ業も出来るようにしておいたのかも。設計者もまさか本当にそんなことする奴が出てくるとは思わなかっただろうけど」


 隼子の疑問に閃が答える。大洋が鼻の頭をこする。


「……なんだか照れ臭いな」


「誰も褒めとらんぞ」


「とにかく修理は間に合いそうだな」


「まあ問題は無いね~」


「じゃあ、そろそろ明日の準決勝に向けてミーティングをしようや」


「お、ジュンジュン、やる気満々だね~」


 閃のからかいを隼子は受け流す。


「そりゃ当然やろ……明日勝てば全国大会出場決定なんやから。そうなったら我が社にとっては何十年振りかの快挙やで?」


「そうなのか⁉」


「ああ、そうや」


「決勝はどうした? やらないのか?」


「勿論それはそれで行うけどな、ロボチャン全国大会の九州の出場枠は3やからな。つまりは実質明日勝てば全国への切符をゲット! っちゅうわけや」


 隼子が上を指差して得意気に説明する。


「そうだったのか……」


「後の作業は大松さんたちに任せても平気だから、宿舎に戻ろうか」


 閃の言葉を受け、大洋たちは宿舎の部屋に移動した。閃が司会でミーティングが始まる。


「じゃあミーティングを始めようか、明日の対戦相手は……熊本県第一代表の一八いちはちテクノ(株)だね~」


「よく聞く名前やな、ロボチャン全国大会の常連さんや」


 隼子の言葉に閃は頷く。


「そうだね~熊本のみならず、九州を代表するチームと言っても過言ではないね」


「強豪ってことか」


「押しも押されもしないね」


「どんな機体に乗っているんだ?」


「熊本県予選の映像があるから見てみよう」


 モニターに赤白の機体と青白の機体が映し出される。


「二体か……」


「機体名は『エテルネル=インフィニ』だってさ」


「どういう意味や?」


「意訳になるけど、フランス語で『永遠の無限』ってところかな~。あ、ちなみに赤白の方の正式名称が、『エテルネル=インフィニ=ニュメロ・アン』、青白の方が『エテルネル=インフィニ=ニュメロ・ドゥ』だって」


「……一号機、二号機ってことか?」


「おお~ジュンジュン賢いね~」


「からかうなや、それくらい大体の見当つくわ……」


 そう言って隼子が頬杖を突く。しばらく映像をじっと見ていた大洋が閃に尋ねる。


「さっきから一体ずつ映っているんだが……?」


「ああ、予選では一体ずつで戦っていたんだよ」


「武装もこれだけなのか?」


「あえてライフルしか使わなかったみたいだね~」


「おいおい、舐めプやないか」


「いや、このパイロットたち……」


大洋が腕を組んで感心したように呟く。


「相当強いぞ。最小限の弾数で着実に相手のウィークポイントを射抜いている……」


「エテルネル=インフィニ…ああ! 面倒だからインフィニって呼ぶね、インフィニ一号機のパイロットが海江田啓子かいえだけいこ、二号機のパイロットが水狩田聡美みかりたさとみだってさ」


「両方とも女か」


「強豪チームやのに聞いたことない名前やな?」


「コンビでフリーのパイロットとして活動していた所を最近好待遇で雇ったんだってさ」


「フリー?」


「傭兵かいな、叩き上げのプロやんけ。しかし、こう言っちゃなんやけど、強豪とは言え、よく九州の企業がこんな凄腕コンビ雇えたな?」


「まあ、これは風の噂なんだけどね……」


 閃が声を潜める。


「結構なトラブルメーカーらしいよ。各所で問題起こして、一か所になかなか定着出来ないとかなんとか……」


「成程、傭兵あるあるやな……」


「それで付いたあだ名は……えっと、何だっけかな?」


 首を捻る閃に対し、大洋は話題を変える。


「九州大会も一機ずつなのか?」


「いや、流石に二機で試合に臨んでいるね。勿論明日も二機でエントリーしている」


「と、いうことは……?」


 大洋の問いに閃がニヤりと笑う。


「そう、ルール上こっちは三機で出ても良い。だから明日は三機でエントリーしているよ」


「よっしゃー! 腕が鳴るで!」


 歓喜する隼子を横目で見ながら大洋が尋ねる。


「作戦は決まっているのか?」


「う~ん、作戦は……無いね!」


「無いんかい⁉」


「まさか武装がライフルだけってことも無いだろうけど分からないし、どういう連携をとってくるかも予想がつかないしね……正直対策の立てようが無いよ」


「た、例えば余所で戦っていた時のデータとかは無いんか?」


「そう思って探してみたら無くはなかったけど、搭乗していた機体も今とは別だし、戦い方の詳細までは分からなかったよ……」


「さ、さよか……」


「ただ一つ言えることは……」


「言えることは?」


「相当腕が立つってことかな~」


「な、なんやねんそれ……」


 隼子がずっこける。


「とにかく油断せずいこうってことだね。以上、ミーティング終了!」


「終わりかいな⁉」


 大洋が立ち上がる。


「よし、風呂に入ってくる」


「ほんま、好きやな~」


「今日は露天風呂だ!」


「へいへい、楽しそうなこって……」


 大洋はウキウキした足取りで露天風呂に向かった。


「う~ん?」


「どないしてん、オーセン?」


「いや……」


 大洋は露天風呂に着き、すぐさま服を脱ぎ、体を洗って入浴した。


「~~~! 良い湯だ!」


 大洋は心から叫ぶ。すると、入り口の方から声が聞こえてきた。


「うん……海江田、先客がいるよ……?」


「そうだね、まあ、構わないさ」


 大洋が振り返ると、裸の女性二人がそこには立っていた。


「⁉」


 大洋は狼狽し、慌てて視線を逸らした。


「ここは男湯ですよ⁉」


「知っているよ……」


「し、知っているって……」


「別に男湯に女が入っても良いだろ?」


 いつの間にか海江田と呼ばれた女性が大洋の背後に来ていた。


「い、いや決まりというものが……」


「決まりごととか、はっきり言ってクソ喰らえだね」


「そ、そんな……」


 大洋は戸惑った。一方部屋に残っていた閃が叫ぶ。


「あ、思い出した!」


「急になんやねん……」


「相手のあだ名だよ」


「あだ名?」


「そう、その非道な戦いぶりから付いたあだ名は……『極悪お姉さん』」

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