第49話 何でもしますから!
目を覚ますとガタガタと揺れていて、天井を見るとここが馬車の中だということが分かる。
しかしなぜ自分が馬車に乗っているのかも、乗る前に何をしてたのかも思い出すことが出来ない。
とりあえず起き上がろうとするが、身体中が痛すぎて横になったままにする。
えーと。何だっけ? 俺は何をしてたんだ?
そんなことを考えていたら、フィオが俺の顔を覗いて大きな声を上げる。
「みんな! ソウタ君が目を覚ましたよ! 」
それを聞いたサーシャとリネットが俺の視界に入ってきて、二人は喜びつつもホッとした顔をする。
「本当に良かったです……。どこか痛むところはありますか?」
「ああ、身体のあちこちが痛くて起き上がるのがキツそうだけど」
俺はもう一度体に力を入れて起き上がる。
何かが重くのし掛かるようなダルさを感じつつもなんとか椅子に腰を下ろす。
「まだ起きたらダメよ。傷口が開くかもしれないから大人しく寝てなさい!」
起きた早々リネットに怒られる。
しかし、反論する力も無いので弱々しく笑う。
「ははっ。まあそんなに言うなよ。ところで俺はなんでこんな風になってるんだ?」
「スゴい力でフレッドを追い返したの覚えてないの?」
ああ! そうだ! 記憶が少しずつ甦ってくる。
確か俺はサーシャを連れ去ろうとするフレッドと戦って……。それで俺は魔法を使うけど……結局刺されて……。
ダメだ! その後の記憶を思い出そうとするが何も思い出せない。
リネットが、天井を見上げて必死に思い出そうとしてる俺を見て毛布を掛けてくれる。
「無理に思い出さなくていいわ。とにかく今は休んで。……ごめんなさい。謝って済むものではないけど、これだけはちゃんと伝えておきたかったの」
「なに言ってんだよ。前にも言ったけど、勝手に付いていって死にかけたのは俺なんだからリネット達が謝る必要はないよ」
「ううん。今回は奇跡的に助かったけど、次は無いかもしれないわ。だから……ソウタは次の町で降りて」
リネットは目を閉じて吐き出すように言う。
よく見ればリネットの手や顔にも傷やアザがあり、それがあの戦闘の激しさを物語っている。
突然のことに言葉が出ずにいるとサーシャがリネットの後に続く。
「私が生きてる限り彼等はまた来るはずです。そうなったら次はどうなるか分かりません。彼等の目的を知った今ソウタさんの命を危険にさらすわけにはいきません」
「ちょっと待ってくれよ! じゃあまた奴等が襲ってきたらみんなはどうするんだ? ただでさえ仲間も居るのにあのフレッド相手にどう立ち向かうんだよ」
「それは心配しないで。とにかく最初の時とは状況が変わったの。残念だけどあなたを勇者にする約束は果たせそうにないから、次の町で解散しましょう」
そういえば以前エイドと死闘を繰り広げた後もこんな会話をしたっけか。
あの時も今と同じように二人を心配させたけど、その後は一緒に旅を続けたんだよな……。
頃合いか。
本音を言うとここまで来たからには最後まで一緒に行きたかったな。しかし、二人の気持ちを考えるとそうもいかないだろう。
俺があのピンチを救ったらしいけど、俺自身なにも覚えてないし、もう一度そんなに都合良くその力が出せるとは思えない。
あいつ等相手に俺が居ると足手まといになるだろうし、なによりこれ以上二人を悲しませるわけにはいかない。
一人で色々考えていたらスッと何かが俺の視界を塞ぎ、目の前が暗くなる。
何事かと思い、慌てて目の前のものを手で払ってみたら、なにやら柔らかい感触が手に伝わる。
顔を少し後ろに下げてそれを確認すると、黄色いペンギンのお腹が俺の顔に押し当てられていたようだ。
「えへへっ! 驚いた?」
フィオが無邪気に笑いペンギンを俺の膝に乗せる。
「可愛いでしょ?! ポムリンって名前なんだよ」
ポムリンはちょこんと俺の膝に座り、手? ヒレ? 羽? だかをパタパタとさせている。
うっ! 確かに可愛い。これは思わず愛でたくなるのも解る気がするな。
「ちょっとフィオ。ソウタは怪我人なんだから休ませてあげなくちゃダメじゃない」
リネットに注意されたフィオは、膝の上に乗ったペンギンをブレスレットの中に戻す。
あっ! まだ良かったのに……。
「うぅ、そんなに怒らないでよ。だってまた喧嘩してたでしょ?」
「喧嘩なんてしてないわ。今後どうするかの話をしてたの」
「本当に? みんな仲良くなしなきゃダメだよ? あっ!」
フィオは話をしてる最中突然何かを思い出して俺の手を取る。
「そうだ! そろそろ次の町に着くよ。この間はご飯出来なかったからこれで一緒に食べれるね!」
「そうだった! あいつ等が襲ってきたせいで結局食べられなかったんだよな。よし! 難しいことは後にして飯でも食ってリフレッシュするか!」
フィオは「うん!」と大きく頷いて楽しそうに鼻歌を始める。
その後何事もなく町に着たので、泊まる宿屋を探しにいく。
各々が荷物を下ろす中、俺も馬車から降りようとしたら頭がフラついてよろめいてしまう。
足元がおぼつかず誰かの胸に当たり慌てて謝罪するが、その主がマリィだと気付く。
嘘でしょ! これは謝っても無理なやつだろ。下手したら今度こそ殺されるかも……。
「肩を貸そう……」それ以上何も言わず俺の腕を取り自分の肩にかける。
え? そんなことある? 実はやっぱり死んでて夢を見てるとか?
黙って肩を貸してくれるマリィに疑問を抱きながらも歩きだす。
「助かった……。お前が居なければ全滅してかもしれない。話を聞く限りあの男には四人で戦っても勝てなかっただろう」
「え? いや、何も覚えてないからなんとも言えないけど、とにかくみんなが無事で良かったよ」
「サーシャを守ってくれてありがとう。それとだな……。あの……ほら、あれだ」
マリィがそっぽを向いて何かを言いたそうにモジモジしている。心なしか顔も少し赤くなってるような……。
「その……最初私が不意討ちされたとき庇ってくれただろ? あれをまともに食らってたら危なかったと思うんだ。だから……その……それを含めてのありがとうだ」
後半は正直何を言ってるのか聞こえなかったが、どうやら俺に感謝をしてくれてるみたいだ。
あれ? これが噂のツンデレってやつ? あのマリィが? ……ええ!?
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