第27話 約束の依頼

 アリエルから話を聞いて概ね理解はしたものの、ギフトを所持してる人間にどう戦うかの問題は残ってる。


 「ところでソウタちゃん、なんでそんなこと知りたかったんだ?」


 「え? ああ……実はグラヴェールの勇者達がギフトを盗んだ仲間にやられるのを見てしまったんだ。それで気になってな」


 アリエルに色々教えてもらったし、このくらいのことは教えても構わないだろう。


 「ほお、それはスゴいな。ギフトを盗めるような奴等だから、勇者数人じゃどうしようもなかったろう」


 「なんかえらく強くてさ。もし戦うことなったらどうすりゃいいのかなって」


 「もう少し大人しくしておくかと思ったが、やはり事件が片付くまで家にいた方がいいかもしれんな」


 「そうなんだけど、またちょっと出かけるかもしれなくてさ。あれだったらもうちょっと強めのギフトを安く譲ってもらおうかなって思ってたんだけど、話を聞く限りあまり意味はなさそうだな」


 「Aランクのものは販売が許されてないからな。それに高ランクのギフトを使うのにデメリットがないわけじゃないんだ。鍛練してもないのに筋肉が異常についたり、強力すぎる魔法を使えば身体に負担が掛かり過ぎて廃人になることもある。だからいきなり強くなろうなんてことは考えない方がいい」


 「便利だけど強力になればなるほど危険度も増すのか。使うにもそれなりの資格が要るってことなんだな」


 「ギフトというのは数ある力の総称だからな。アイテム系のギフト、つまり武器ならば使い手に左右されるが強くはなれるだろう」


 最初にセレーナに買ってもらった冒険者用のブロードソードだから、少しグレードアップしてもいいかもしれないな。


 「ティントにある武器屋にはこれと似たようなものしかなかったから、他の町でも探してみるよ」


 「今持ってるものより多少は使える武器はあるだろうが、かなわぬ敵に遭遇したら逃げるのが一番だぞ。というかそんなに急ぎで必要なのか?」


 「いや、一応万が一に備えておこうかなと思って。アリエルの言うように逃げるのがいいんだろうけど、俺自身ちょっと強くなりたいと思ったんだ。勇者程じゃなくても、誰かを守りたい時にはやっぱり多少の力がないと後で後悔することになるし」


 「わずか一週間足らずで随分と成長したものだな。分かった、何があったかなど余計な詮索はすまい」


 「すまない、いずれ話すよ。あっ、そうだった! アリエルから頼まれてた依頼をやらせてもらおうと思って来たんだ。まだ間に合うか?」


 「そうだったな。すぐに引き受けてもらってもいいのか?」


 「待っててもらってたし、すぐ取りかかるよ」


 アリエルは前に見せてくれた素材とランクが書かれた名簿を取り出し、パラパラとめくって一つのアイテムを指に差す。


 「今回依頼したい物はこれだな。スパイラルゴートホーンといってな。名前の通り螺旋状の角を持った山羊なんだが、非常に狂暴で攻撃的な性格をしている」 


 「へえ、角がクルクル巻いててカッコいいな。薬とか武器としても使えるみたいだから、欲しがる人が多そうだな」


 「ただ、大きいうえ狂暴だから捕らえるのもなかなか難しいらしくてな。強くなるにはちょうどいいかもしれん。どうだやってみるか?」


 「ランクはBで危険度も結構高いわけだ。こういうのでちょっとずつ強くなるのが結局一番の近道だもんな。よし、やってみるよ」


 「それがいい。一歩ずつではあるが確実に実力は付いていくだろう。今回は私も同伴して生息してる場所に案内しよう」


 「一緒に来たら危険なんじゃないか? その山羊狂暴みたいだし」

 

 「私を誰だと思ってるんだ? 天才ギフトクリエイターの私がその辺の山羊ごときに遅れはとるまいよ。以前からどのくらいの狂暴なのか見てみたかったし、ついでに採集したいものもあるしな。ちょうどいい機会だから一緒行こう」


 「いつ出立する? 準備するものとかあれば言っておいてくれ」


 「では明日の昼過ぎにでもサルブレムを出るとしよう。もろもろの準備はこっちでしておくので安心してくれ。後これを渡しておこう」


 アリエルは店のショーケースから一枚のギフトを取り出す。


 「これは対獣魔捕縛用のギフトで、別名を『投げ縄名人』と言う。これを付ければどんな人間でも捕縛が出来るようになるという優れものだ」


 「色んなギフトがあるんだな。この世界には凶悪なモンスターもいるってことか」


 「強いモンスターを討伐したり、素材を売って生計を立ててる者もいるくらいだからな。これは新参冒険者用のやつだが、狂暴とはいえ山羊くらいならこれで大丈夫だろう」


 「この世界のことはまだまだ知らないことばかりだから、ゆっくり見物してみたいな。それでこれはどう使うんだ?」


 アリエルは「ちょっと待ってろ」と言い残し、カウンターの奥に引っ込むと輪っかのついたロープを持ってくる。


 あの奥ってどうなってるんだ? 部屋でもあるんだろうけど何でも出てくるな。


 アリエルが使い方を教えてくれるそうで、以前魔法の練習をした場所に移動する。


 練習場には的やら剣を打ち込むための木人やらがいっぱい置いてある。


 アリエルが「あそこを見ろ!」と言った方向に目をやると、近所の公園とかにありそうな動物の乗り物が置いてある。


 なんの動物か判らんが全然可愛くないうえになんか憎たらしい顔をしているな……。

 

 「いいか! あれを私が今から動かすから首にロープをかけてみろ」


 俺はギフトを貼ってロープを握りしめる。


 それを確認したアリエルは、ラジコンの操作機みたいなもので乗り物を動かし始める。


 俺は動く乗り物にロープを投げようとしたそのとき、体が自然と投げるフォームになって驚く。


 おっ、ギフトってこういうことか。体が勝手に投げやすいように誘導してくれてる感じがするな。


 めちゃくちゃに動く乗り物に向かってロープを投げるが、なかなか捕まえることが出来ない。


 「はっはっはっ! ソウタちゃんではこの早さに付いてこれまいよ!」


 くそっ! あの動物の顔とアリエルの言葉に翻弄されてる場合じゃない。冷静になれ。


 がむしゃらに投げるのを止め、一旦心を落ち着かせて集中する。


 焦るな。動きに規則正は無いけど次にどの方向に進むか予測するんだ。


 ……ここだ!


 投げたロープは真っ直ぐ予測した方向に飛んでいき、動物の首に輪っかがキレイに入る。


 「おお! やったなソウタちゃん」


 「ようやく捕らえたぜ。しかし、初めて投げたのに投げ方がなんなとなく解るなんてスゴいな」


 その後、何度も練習をしていくうちにかなり命中するようになってくる。


 そろそろ体力の限界を感じ始めたころアリエルが終了の合図を出す。


 「うむ、この辺にしておくか。久しぶりに操作したがやはり楽しいな」


 「はぁ、はぁ……。アリエルは楽しかっただろうけど俺はヘトヘトだ」 


 「ソウタちゃんも頑張ったな。これだけやれば山羊の一匹や二匹余裕だろう」


 「そう願うよ。ギフトがなければしばらくは練習しないと無理だっただろうしな」


 「私の作った経験促進のギフトも付けてるから、かなり早く習得できたはずだ。ちなみ体力的に明日でもいけそうか?」


 「ああ、寝て起きたら体力も回復するだろうから明日で大丈夫だ」


 「では明日昼くらいにお店に来てくれ、必要なものは揃えておくから何も持ってこなくてもいい」


 地獄の特訓を終えてアリエルと明日の約束をする。


 その後、疲れて帰りたい欲求を抑えながらセレーナに会いに行くことにする。


 

 

 


 


 

 


 


 


 


 


 


 


 

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