第23話 勇者の実力

 突然の報告にその場が静まり返るも、兵士達の隊長各と思われる男が空気を打ち破り状況を問う。


 「こんな町中で敵だと!? どんな連中だ? 敵の数は?」


 「それが……信じがたいことにゾンビのようです。数は不明ですが相当数いるかと思われます。現在異変気づいた兵士達が個々の判断で交戦中です」


 「ゾンビが現れたなど自分の目で確認しても信じられんだろうが……。よし! すぐに私達も向かうぞ! お前達は町の住民の安全と避難を優先しろ! 勇者殿はご同行をお願いします!」


 隊長各と思われる男がそう命令して、店内に居た兵士達と勇者達を連れて町に出ていく。


 シブサワは傭兵の男に「命拾いをしたな」といい放った後、武器を持って追いかける。


 残された傭兵達も支度をすませ終えると、俺達を庇ってくれた男に指示を仰ぐ。

 

 「俺達はどうする? ストレイング」


 「町の住民は兵士に任せて俺達は敵をやる。まあ報告によるとゾンビらしいがな」


 ストレイングは準備をしながら俺達に声を投げ掛ける。


 「お前達も早く家に帰るんだ。今ならまだ間に合うだろう」


 「はい、すぐ帰ります。それと助けてくれてありがとうございました」


 傭兵の男は「気にするな」と言い残し、仲間達と共に外へ出ていく。


 俺達も外へ出て、建物の壁に隠れながら勇者達の様子を窺うことにする。


 「もう何なの。あの小太りのおっさん達って本当に勇者なのかしら。とてもじゃないけど、あんなやつらを影で助けてやろうと思わないわ」


 リネットが怒りながら勇者達を探していたら、兵士達がなにかと戦っている姿が目に飛び込んでくる。


 パッと見た感じだと鎧を着た人間に見えるが、よく見ると土色の肌で目に精気がなく、刺されても表情一つ変えないゾンビの姿がそこにあった。


 「あんなのが一杯町にいるってこと? とりあえず状況を調べないと。おいでノルデ!」


 そう言うとリネットのブレスレットから一羽の青い鳥が現れる。


 「んー! やっぱり外の空気が気持ちいいですね。ところで最近私を外に出してくれる頻度が少なすぎませんか? たまには飛び回らないと翼筋が固くなっちゃって、いざって時困るんですよね」

 

 「そんなことはいいから、町がどうなってるか見てきてちょうだい。私が呼び出さないのはこの世界でも青い鳥なんて珍しくて目立つからよ。見つかると焼き鳥にされかもしれないから、誰にも見られないようにね」


 「まったくリネット様は相変わらず無理難題ばかり言うんですから。私が焼き鳥になっても知りませんからね!」 


 ノルデはぶつぶつと不平不満を口にしながら空へと消えていく。


 「二人ともあれ! さっきの勇者だわ」


 サーシャが指を差した方向を目を向けると、勇者達と傭兵達がゾンビと戦闘をしている。  


 「おい傭兵! どっちが多く仕留められるか競争といこうじゃねえか」


 「なにを馬鹿なことを。今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ。ここはお前達に任せた。俺達は向こうをやる」


 シブサワは巨大な金色のハンマーを片手で担ぎ、ゾンビの群れに突っ込む。


 「そらよ! 【堅褌殴打きんこんおうだ】!」


 巨大なハンマーでゾンビの頭を叩き割り、その勢いで地面に叩きつける。

 

 すると、そこから衝撃波が起こってゾンビ達が吹き飛ばしていく。


 「はっはっは。このゴールドハンマーと力帯、それに身体強化された俺に敵はねえ。お前達もこいつらに俺達の力を見せてやれよ」


 「突いても斬っても倒しづらいみたいだし。ここはシブサワさんとナオに任せるわ」


 ハノウラとハセガワは気だるそうに言って、やや後ろに下がって傍観をする。


 「あんた達。他の兵士だって戦ってるんだから、戦ってるふりだけでもしなさいよ。クビにでもされたらどうすんの?」


 ナオは杖を掲げ《グランドアップスラスト》と唱える。


 すると、ゾンビ達が立っている地面が盛り上がり、下から尖った土の塊が飛び出してゾンビ達の体を突き刺す。


 数十体のゾンビの群れは突き刺さったまま砂のように崩れ落ちていく。

 

 あんな巨大なハンマーを軽々しく振り回したり、数十体のゾンビを一気に仕留める広範囲の魔法が使えるなんてすごいな。


 「なるほど……ギフトを手にした人間ってあんな感じなのね。とりあえずここは彼等を見守りましょう」


 「多分召喚されたタイミングは俺とそう変わらないはずなのに、いきなりあれだけの攻撃が出来るんだなんてさすがAランクのギフトだな」


 「確かにいきなりあんなことが出来るようになれば勘違いもしちゃうでしょうね。でもあれは所詮子供に銃を持たせるようなもんで、扱いこなしてるとは到底言えないわ」


 勇者達の戦いを観戦していたら、ノルデが偵察から戻ってくる。


 「どうやらゾンビ達はこちらに集まってるようですよ。それから何人か普通の兵士がいるようなので、そいつらがゾンビを操ってるのかもしれないです」


 「ゾンビ達じゃないってことね。だったら、狙いは多分勇者達でしょうからそろそろ来るはずよ。町の被害は?」


 「被害はほとんどないみたいで、ゾンビは住民じゃなくて兵士達を襲ってましたね」


 「ちゃんと分別がついてるってことは、やっぱり誰かが操ってるってことね」


 ゾンビ達を操作するギフトがあったとしてもかなりランクが高いだろうから、限られた人間しか使えないはず。それともギフト以外の別の力があるのか……。


 「これでラストだ! どうしたもう終わりか? ゾンビども?!」


 シブサワ達があらかたゾンビを片付け終わる。


 その矢先、突如どこからかパチパチと拍手をする音が聞こえてくる。


 音のする方に目を向けると、ヘビのような目付きの男が不敵な笑みを浮かべ手を叩いている。


 あいつがゾンビを操ってるやつか? ゾンビがほとんどやられてるのに、余裕があるように見えるがなにか策でもあるのか?


 



 

 



 


 

 



 


  


  


 

 

 

 




 


 


 

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