第10話 招かれざる者達

 「まずは自己紹介からしようかしら。私の名前はリネットでこっちが姉のサーシャよ」

 

 こっちの世界の衣装に着替え、リネットは面倒臭そうに名乗ると、横にいるメガネをかけて同じピンク色の髪をしたサーシャが軽く会釈をする。


 「俺の名前はソウタで、一応異世界から勇者候補として召喚された人間だ。それで二人はこの世界の人間か?」


 肩より少し長い髪を手で払い、少し考えこみサーシャの方に目配せをする。


 サーシャが頷くとリネットは、やれやれといった感じで口を開く。


 「服装みたらわかる通り、私たちはこの世界の人間じゃないわ。ある目的のためにこの世界に転移してきたの」


 転移!? そんなことできるのか? 俺は驚きを隠し質問を続ける。


 「目的とはなんだ? 今この世界は危機的状況にあるんだぞ。それになにか関係はあるのか?」


 「その前にあなたが異世界の人間ってのは本当なの? それと勇者候補ってのは何をするの?」

 

 なるほど、素直には答えないみたいだな。こういう場合どっちが先に答えるかで、どちらが精神的優位に立つか決まってくる。


 よかろう、この勝負受けてたつ。


 「いやその前にそちらが質問に答えてくれ」


 「私は最初に答えたんだから次はあなたの番よ」


 「俺は最初に異世界からきたと言っている。だから目的を言え」


 「それはあなたが勝手に答えただけでしょ。私はなんの質問にも答えてもらってないんだから次はあなたの番よ」


 「それを言うなら目的があるって言ったのも、俺が聞いたんじゃなくてお前が勝手に答えたんだろ!」


 「いや、それを抜きにしても私は一回あなたの質問に答えたわ!」


 「そもそも異世界から来たことしか言ってないだろ。そんなのこと一目瞭然なんだから答えたうちにならないぞ!」

 

 なんて気が強くて強情な女だ。屁理屈ばかり言いやがって。こんなやつ今まで会ったことないぞ。


 お互い顔を突きだしフグゥー! といがみ合う。


 この双方一歩も譲らぬ攻防のやり取りを黙って観ていたサーシャが、まぁまぁとなだめてくる。

 

 「そんなに子供みたいなケンカしないの。目的はさっき言った『危機的状況』打開のためなんです」


 「そうなのか。俺たちもそのために召喚されたわけだし、同じ目的なら他の勇者候補もいるし大丈夫なんじゃないか?」


 「そうだといいんですが、一応念のためにってことですね。こちらでもある程度のことは分かってるんで、目的を共有出来れば話しは早そうです」


 「それだったらこの国の王にでも相談してみるか? 面識はあるから話をつけてもいい」


 腕を組んで聞いていたリネットがこの話を聞いて嘲笑する。


 「バカね! 異世界から許可もなく勝手にきたのよ? そんな人間の話しなんて聞くわけないじゃない。私たちの世界のことも喋らないといけないし、下手をしたら殺されるか一生拘束されるわ」


 「そうか? 異世界から召喚したりするくらいだから異世界に対する抵抗も少ないし、協力ってことなら向こうも無下にはしないと思うが」


 「仮にそうだとしても『危機状況』ってのがあなたたちと違う可能性もあるわけ。勇者候補なんて聞いてないし、まずはそれらを確認しなくちゃいけないのよ」


 「簡単言うとこっちは、ある人間が強力な兵器みたいものを盗んだから取り返してねって話しだぞ。お前達は違うのか?」


 「まだ何ともは言えないけど、このままだと多分その人間が兵器を使うのを阻止できないの。だから私達が影から協力してそれを止めるのよ」

 

 それを言うとリネットはなにか思い悩んだ様子でうつむく。


 これ以上聞いても真偽を確かめる方法はないし、色々聞きたいこともあるけど答えてはくれないだろう。


 しかし、わざわざ危険をおかしてまでこの世界を助ける必要はあるのか?


 「分かった。何も悪さをしないんであれば通報はしないでおくし、目的が同じなら協力もするよ」


 「助かります。こちらにも色々と事情がありまして言えないこともありますが、何かを企てるということはありません」


 「とりあえず俺も用事を済まさないいけないから森を出ようか?」


 リネットは「そうね」と荷物を持って後ろから付いてくる。


 俺が先頭になり、来た道を戻る。


 ……おかしいなこんなに歩いたのか? なかなかさっきの林道が見えてこない。


 「もしかして迷ったの?」


 リネットがニヤニヤしながら聞いてくる。


 「迷ってねぇよ。お前のせいで日が暮れて、風景が変わったからちょっと道がずれてるだけだ」


 「なに! 私のせいって言うの? あなたが方向音痴で迷ってるだけでしょ!」


 「そういや、あの変な鳥が『出口わかりましたぁ』とか言ってたじゃないか。あの変な鳥どこに行ったんだ?」


 「変な鳥じゃないわよ! ちゃんと名前もあってあなたより賢いんだから」


 それにしても辺りが暗く感じるな。あいつらと話してとはいえ、まだ昼過ぎくらいだろう。


 いくら森の中とはいえ木々の間から光が差し込んでも良さそうなもんだが。


 なにか様子がおかしい……。静かすぎる。


 リネットも異変に気付いたのか立ち止まり辺りを見回してる。


 突然木の隙間を掻い潜って、何かがリネットとサーシャを目掛けて攻撃をする。


 異変を察知していたリネットは間一髪のところで回避するが、サーシャは吹き飛ばされまま動かない。


 サーシャの元に駆け寄ろうとするリネットに、何かがまた攻撃を仕掛ける。


 俺はそれがなんなのか逃すまいと意識を集中させる。


 木の触手だと!?


 触手が伸びてきた方向に目を向けると人影がらしきものが見える。


 目をよく凝らしてみると、木の形をした人間なのか、人間の形をした木なのかよくわからない物体が立っている。


 ええ、気持ち悪っ! 目と口がしっかりあるじゃないか。


 木人はこっちに歩み寄りながらも追撃の手は緩めない。


 リネットもなんとかナイフで捌いているが、反撃は出来ないようで防戦一方だ。


 狙いはあの二人のようだが助けないわけにいかないだろう。


 しかし、サーシャを連れて逃げ切れるとも思えない。ここでなんとか迎撃するしかないか。


 腰の剣を抜こうとするが、ここだと回りの木が邪魔で振り回せそうにないことに気付く。


 「おい! 一旦広いところに出るぞ!」


 「分かったわ」


 でもどうやって? 足りない頭を使って自問自答する。


 リネットは懐から数枚の青い羽根を取り出すと木人に投げる。


 カカカッっと軽快な音で刺さるがダメージを与えた感じはしない。


 リネットは不適に笑うと、「目を瞑って!」と言ってくる。   


 「エクラ!」


 リネットがそう叫ぶとまぶた越しでも一瞬強烈な光が発したのがわかる。


 目を開けると木人が触手で顔を覆って動きが止まっている。


 「どうやら効いたようね、今のうちに行きましょう」


 俺達はサーシャを抱えあげ広い場所を探す。


 


 

 

  


 

 

 

 


 


 

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