第30話


 そんな話をしているところにガインがやってきた。


「し、失礼します」

 自由に出入りしていいとレオンに言われているが、来客中であるためガインは気を遣って恐る恐る部屋へと入ってくる。


「ん、ガインか。どうしたんだ?」

「い、今って少し大丈夫ですか? 兄さんに確認してこいって言われたので……」

 背中を丸めることで身体を小さく見せようとするが、フレイアもグレッグも長身のガインを思わず見上げてしまう。


「あぁ、構わない。ここにいるのはお前たちと同じ俺の生徒だ……グレッグさんは除くが、とにかく気にしないで話してくれ」

 これにはフレイアも同意しており、どうぞ、とジェスチャーして見せている。


「あ、あの、外のたくさんの荷物なんですけど……あれって先生のところに来たもの、なんですよね?」

 ガインはチラチラとフレイアを見ながら質問してくる。


「ええっと、そういうことらしい。きっと断ると、体面的に困るだろうから受け取るつもりではある」

 これを聞いたフレイアは満足そうに笑っている。

 あれらは少しでもレオンのためになればと持ってきたものであり、受け取ってもらえると聞いて安心していた。


「それで、あれを全部いつもの倉庫にいれるのは難しいかなって……あっちは売り物をいれる場所にしているので……」

「あー、確かにそうだな。どこか空いてる家にでも置いておくか……それとも倉庫でも作ってもらうか?」

 レオンがそう呟きながら考えていると、今度はガインが嬉しそうにキラキラと目を輝かせている。


「よかったです。いやあ実はもう倉庫建てはじめちゃってて……屋敷の敷地内にデカいのを建てて、あとで空間魔法を使える人に中を拡張してもらおうかって」

 嬉しそうなガインにそう言われて耳をすましてみると……すまさなくても、何かを作っている音が聞こえてきている。


「よっし、それじゃ私も手伝って来るね! 材木運びなら任せて!」

「フィーナさんが手伝ってくれるなら百人力です! いきましょう!」

 細かいことを話すよりも身体を動かしているほうが楽しいフィーナも話に飽きたのか倉庫作りに行ってしまう。


「……ははっ、頼もしいよな。俺一人だったらこの領地は既に潰れているところだよ」

 フィーナがいたから魔物を倒して素材が用意できた。

 三兄弟がいたから装備品を作って売れている。

 その三兄弟に憧れた職人たちがいたからこそ、今の賑わいがうまれている。


 貴族に絡まれた先ほども、フレイアが来てくれたからこそ乗り越えることができていた。


 自分一人では成し遂げられないことも、生徒たちや領民たちの助力を得てここまでこれたとレオンは心から思っている。


「ふふっ、やっぱり先生は今も変わらずにレオン先生ですね。謙虚で、真面目で、勤勉で……自覚をしていないだけですごい方ですよ。先生のあの教師時代があったからこそ、僕もフィーナ先輩も、さっきのドワーフの先輩も、みんながレオン先生に助力したいと自然に思うことができているんです」

 荒れていた学生時代を思い出すとフレイアは胸が痛くなる。

 しかし、次の瞬間にはレオンと話したことが次々に浮かんできて、その辛い思いを塗りつぶしてくれた。


 そうやって、彼は過去を乗り切ることができていた。

 レオンと出会えたからこそ、今の王としてのフレイアがあると思っている。


「まあみんながそう評価してくれるのはありがたいよ。とりあえず、こうやってみんなが会いに来てくれるのは嬉しいし、俺は本当に恵まれているよ」

 ふっと優しい笑顔を見せるレオンを見て、恵まれているのは生徒のほうですと言おうとして、フレイアは言葉を呑みこんだ。


「それはそうと、外のみんなにも状況を説明しないと……あと、グレッグはしばらく置いていきますね」

「「えっ!?」」

 レオンとグレッグの声が揃った。


 レオンからすれば、グレッグは騎士団の第一隊隊長という責任ある立場であり、今も信頼されているからこそ、この部屋まで同行させている――そう判断していた。


 そんな彼をおいていくという事実に驚きを隠せない。


 グレッグからすれば、今回は護衛の責任者としてここまでついて来ており、再び城まで送り届けるのが彼の使命だと思っていた。


「ははっ、やっぱり二人とも驚いた。まだまだここの治安って不安があると思うんですよ。だから、しばらくはグレッグたちを使って、安定させて下さい。ご自分の部下だと思っていただいて大丈夫です」

 グレッグたち――つまり配下の騎士たちもおいていくつもりである。


「フ、フレイア様! それでは護衛が……それに、私はそのような話聞いておりません! 団長の許可を……」

 そこまで言ったところで、グレッグはフレイアがニコニコしていることに気づく。


「あー、もうみんな了承済みということですか。もしかして……護衛用の人員も別に用意されていますね」

「正解!」

 そういわれることも先んじてわかっていたフレイアは全て滞りなく手を回しており、グレッグがここにいても問題ないようにしていた。


「あっ、うちの副長が来ていないのもフレイア様が指示しましたね……」

 頭を押さえるグレッグのこの問いかけには頷きながらニコリと笑うフレイア。


「なかなかしたたかに成長したなあ。でも、王様になるくらいだからそれくらいはできないと、他国のお偉いさんと話すのに腹芸で負けそうだから、ちょうどいいな。うんうん、面白い成長だ」

 グレッグを手のひらで転がしているのを見て、レオンは頼もしいとすら思っていた。


「一応言っておきますけど、ただグレッグを騙してここにいてもらうわけじゃないですからね。彼は騎士団の中でも一番の働き頭なんです。ただ、働きすぎを心配されていて、城にいるとすぐに仕事をしてしまうので少し環境を変えてあげたいと考えていたのです。先生のお世話になることになってしまいますが……」

 フレイアはネタ晴らしをして、申し訳なさそうな表情になっている。


「それくらい構わないさ。むしろ、こちらがグレッグさんたちにお世話になる可能性が高いぞ? なにせ、人手はどれだけいても足りないくらいだからな」

 レオンは冗談めかしてそう笑いながら言う。


「ふうっ、わかりました。レオン様のお世話になります……あと私のことはグレッグと呼び捨てにして下さい。王竜勲章を授与された方が私などをさん付けで呼ぶなどもっての他ですから。部下の騎士たちにも説明しておかないとですね――では行ってきます」

 そう言って一礼するとグレッグは部屋を出て騎士たちへと説明に向かって行った。


「――さて、やっと二人になったな。フレイアも色々と大変みたいだな……」

「やはりわかりますか……グレッグは騎士団の中でも有能で家柄も良く、しかもどこの派閥にも属していない貴重な人材なのです。そんな彼をしがらみから離して安全な場所に置いておきたいのです」

 王であるフレイアは近衛兵もおり、守ってくれる騎士もいるが、一隊長となるとそうもいかない。

 フレイアは彼に期待しているからこそ、遠くてもあえて信頼のおけるレオンの元で過ごしてもらいたかったのだ。


「わかった……だが、ここにいてもらうからにはこき使うからな?」

「お願いします!」

 そうして、グレッグ以下第一隊の騎士たちは一時的にシルベリアの所属となった。



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