第19話


「せんせー!」

 職人たちが仲間に加わったところで、丁度フィーナが魔物たちを倒して戻って来た。

今日もたくさん暴れまわってきたようだが、彼女の身体は汚れていない。


「おう、フィーナお帰り。今日も素材は集められたか?」

「うん! 先生が貸してくれたマジックバッグのおかげでたくさん持って帰ってこられたよ……で、これはなんの騒ぎなの?」

 屋敷に戻ってきてみれば、たくさんの人が屋敷の前に集まっている光景に出くわし、そんな彼らの士気が高いことにフィーナはきょとんと首を傾げていた。


「あー、彼らはな……」

 いなかったフィーナのために改めてレオンが説明をしていく。

 話が進んでいくうちに、フィーナの表情は笑顔に変化していき、彼らを歓迎する気持ちでいっぱいになる。


「みんなー! 私は冒険者のフィーナです、よろしくね!」

 ガインたちの元へ駆け出していって元気に挨拶をするフィーナを見て、職人たちは戸惑いならがもいい印象を持ち始めている。


「か、可愛い……」

「素材を集めて来たって言ってたけど、薬草かなにかかな?」

「師匠たち、あんな可愛い子と一緒にいたのかよおお!」

 人懐っこくかわいらしい見た目をしているフィーナに心奪われた職人たちがそれぞれの感想を漏らしていく。

 武器もマジックバッグの中にしまっており、年若い少女が手伝いでなにかを集めて戻って来た、という風に彼らの目には映っている。


「おう、お前たち。あの嬢ちゃんには手を出すなよ。可愛い見た目をしてるが、ああ見えてSランク冒険者だ」

「はははっ、また御冗談を」

 ダインが職人たちに注意すると、言われた側は冗談だと思って笑い話にしようとする。

 他の者たちもあんな若くて細い身体の少女とも言えるような彼女がそんなわけがないと笑っている。


「んしょっと、剣は出しておくね」

 そういわれて思い出したように次の瞬間、ぬるんと身の丈を越えんばかりの大剣をマジックバッグから軽々と取り出したことで、冗談ではないとわかり彼らは口をあんぐりと開けている。

 しかも使った形跡の見られるその剣を軽々と扱っている様子にさらに言葉を失う。


「あぁ、ご苦労だったな。そうだ、その剣の刃は大丈夫なのか? 手入れをしてもらうんだったら、ダインたちに頼んでみるのもいいと思うぞ」

 かなりの人数の職人がいるため、一人くらい手を空けて彼女の剣に時間をさけるかもしれない。

 彼らの腕を信じているレオンは手入れをしてはどうかと提案する。


「……んー、どうしようかなあ。知らない人に見てもらうのもちょっと不安だし、ダインさんは忙しそうだし……」

 レオンの言葉に少し悩んだ様子を見せたフィーナだが、渋い顔で呟く。

 とりあえずは使えているため、彼女は特に緊急性を感じておらず、時間がかかるなら他にやることに時間を使ってほしいと思っていたため、避けておきたいと考えている。


「フィーナ嬢ちゃん、遠慮すんなよ。俺で良ければ見てやるからさ。今からこいつらに工房の使い方を教えるところだから、それと一緒に手入れをしよう。みんなに見せることになるが構わんよな?」

 一応持ち主の許可なく手入れするところを見せるわけにもいかないと、ダインが確認をとる。


「もっちろん! ちゃんと手入れしてくれるなら、それくらい問題なしだよ!」

 迷惑にならないならお願いしたいと笑顔のフィーナは大剣をダインに手渡そうとして、かなりの重量であることを思い出して一瞬止まる。


「……かなり重いけど、大丈夫?」

 ダインが小柄なだけにフィーナは心配になってしまった。


「はっはっは、嬢ちゃん。こう見えても俺はドワーフだぜ? ドワーフってのは、小柄で怪力、それで女子供には優しいときたもんだ! ほれ、貸しな」

 ガハハと大きな声で笑いながらフィーナの不安の払しょくして、大剣を受け取ろうと手を前に出す。


「それじゃ……」

 それでも、まだ心配そうな表情のまま剣をゆっくりと離して彼に渡す。


「うおっぷ!」

 だがそれはダインが予想していた数倍の重量であり、ずしんと手にのしかかる大剣を落としてしまわぬように必死になったダインから焦りと驚きと気合いの三つが入り混じった声が自然と出てしまう。


「じょ、嬢ちゃん、これは本当に重いな……よくこんなもんを軽々と振り回してる……いやあ、やっぱりSランク冒険者の名はだてじゃないな」

 悔しそうに笑って額に汗を浮かべながらも、ダインは大剣をしっかりとかつぎあげた。


「す、すごいね……」

 自分でもかなり重量級の武器を使っているという認識があるため、フィーナは彼の力強さに感心している。


「うむ、なんとか持てるといったところだがな……おい、ガイン! 嬢ちゃんの剣を運ぶから手伝ってくれ!」

「わ、わかった! うわっ……」

 今度は兄弟二人で運ぶことになるが、背の高いガインもあまりの重さに声を出してしまった。


「ふふっ、やっぱり重いよね。でも、それくらいじゃないと私の力に耐えられないんだよねえ……小さくて軽くて、すっごく丈夫な武器があるといいんだけど。なかなか見つからなくて」

 フィーナは仕方なく大剣を使っているようで、今の武器に納得いっておらず、唇を尖らせて不満そうな顔をしている。


「なるほど……強いというのもそういう問題にぶつかることもあるのか……解決できるかわからんが少し俺の方でも考えてみる。とりあえず、この剣の手入れは任せてくれ。よし、ガイン行くぞ。あーあと誰かユルルを連れてきてくれ」

 ダインが言うと、弟子たちの何人かで胴上げするようにユルルを抱えあげて運んでいく。


「早速色々動きがみられていいことだな。まずはみんなにここに慣れてもらって、生活基盤を作れたら次か」

 ふっと笑ったレオンはフィーナの武器に関してダインが考えてくれたり、職人たちが彼のもとで色々と動いていくのを楽しみに見ていた。


「先生、よかったね」

 そんなレオンに近づいてきたフィーナが少し上目遣いで見上げるように笑顔で声をかける。

 彼が嬉しそうにしているのは、彼女にとっても嬉しいことだった。


「あぁ、本当によかった。みんなが出かけている間に人手が足らないことを心配していたんだけど、一気に解決したよ。職人も色々な専門分野があるみたいで、領内の整備なんかにも力を貸してもらえるかもしれない」

 彼らの力が色々な作業に割り当てられるようになっていくことで、家や道や店など、様々な方面に広がっていくことが期待できた。


「おうちを建てたり、改装したりするなら木が必要になってくるのかな?」

 家を壊して木材を回収するにしても限度があり、やはり木をどこから調達する必要が出てくることをフィーナは気にしている。


「そうだな……ただどれくらい必要なのかとかわからないから、夕飯の時にダインと相談だな。なかなか面白くなってきた」


 最初に帰って来た時には、とんでもない場所になっていて、何をどうすればいいのかわからなくなっていた。


 それがわずか数日で光明どころか、改善の兆しが見えつつあることに少々の驚きと、大きな興奮を覚えていた。


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