07

 わたしの誕生日パーティー、ということで、朝から屋敷の中はバタバタしているが、お母様は優雅にお茶。

 常々、準備がいい人なので、既にお母様自体は当日の支度を終えて、ゆっくりする時間を取れているようだ。


「おはようございます、お母様」


 わたしは挨拶と共に、軽くお辞儀をする。お母様との会話は気軽いものではない。常にマナー教師がいるようなものだ。

 ただ、緊張こそすれど、お母様が嫌いなわけではない。お母様は自分にも厳しい方。そのストイックな性格には尊敬しているくらいだ。何度も繰り返すこの人生の中で、常に目標にしているくらい。


「おはよう、サネア」


 お母様はゆったりと挨拶を返してくれる。その表情は穏やかで、固くない。挨拶は問題なくこなせたようだ。


「お母様、いきなり本題で申し訳ありません。今日の誕生日パーティーで――」


 ――カチャン。

 お母様がティーカップを置く音で、ハッとなる。お母様がティーカップを置く際に、音を出すわけがない。わざとだ。


 いきなり要件を済まそうとするのは令嬢としてあまり誉められたことではないが、先に断りを入れているし、内容が内容なので、この場合は大丈夫だ。お母様だって、呑気に世間話から入る話題ではないことくらい、承知しているだろうから。


 でも、お母様はティーカップを持ったままで、着席の許可すら出していない。いくらなんでも急ぎすぎた。アウトである。

 何度も繰り返した転生の中で、訳のわからないイレギュラーが起きて、早く詳細を聞きたいと先走りすぎた。


「どうしたの、サネア。用事があるんでしょう?」


 お母様はやはり笑顔を浮かべているが、わたしには分かる。これはやり直しだ。

 そんな場合じゃない――と言いたいが、常におしとやかであれ、というのがお母様。この程度で狼狽えてしまっては駄目なのだ。


 そうして、わたしの中では久々の再会ではあったが、それを喜ぶ余裕もなく、入室から三度ほどやり直して、ようやく本題に入れるのだった。


「お母様、本日のわたくしの誕生日パーティーにセルニオッド様がいらっしゃると聞きましたわ。このサネアの挨拶を確認していただいてもよろしいでしょうか」


 本当は、一番に、どうして王子が来るのかを聞きたかったが、多分、それを初めに聞くのは悪手だ。さくっと挨拶の練習を済ませ、時間があったら聞くくらいにしたほうがいい。

 お母様はゆったりとほほ笑み、「ええ、殿下に失礼のないよう、練習いたしましょう」と言う。


 その笑みに、嫌な予感を感じたのは、わたしだけだった。

 今日もお母様の指導はスパルタで激しかったのは、言うまでもない。

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