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マルルセーヌ時代を懐かしんでいると、チェシカが「マルルセーヌって本当にお茶が好ぎなんですね」と言ってきた。
「そうよ。そのうち、貴女にも淹れてあげる」
「奥様が使用人のおらにですか!?」
「別に珍しくないわよ、マルルセーヌじゃ。まあ、ここはグラベインだけど……」
マルルセーヌは王様ですら自分でお茶を淹れるのだ。というか、お茶は雑事で使用人に淹れさせるもの、という認識がない……らしい。マルルセーヌの王族貴族には会ったことがないので、詳しくは知らないが。
でも、マルルセーヌに住んでいた頃、明らかに富豪と言うか、買い物を代わりにしてくれる使用人を持っていそうな人が、わざわざ茶葉を買いに来ているところを何度か見たことがある。多分、王族貴族も似たり寄ったりだろう。
「ミルリはお堅いというか、公私混同しないタイプだから、誘ってもあっさり断られちゃうのよね。ディルミックをお茶会に誘ってからになるから、だいぶ先になるし、無理にとは言わないけれど」
わたしはお茶をふるまいたいし、わたし自身、自分のことをいまだに平民だと思っている節があるから、チェシカを下の人間だと思ったことはない。そりゃあ、仕事だから、と、メイドの仕事はしてもらうけど、立場的にはそう、上下関係があるとは思っていない。
「…………」
とはいえ、チェシカにとってはわたしは雇い主の妻。気安い相手ではないだろう。すっかり黙り込んでしまった。
困らせてしまったかな、と思い、慌てて「なんて、冗談よ」と言おうとしたのだが。
「奥様は……旦那様のことが好きなんですか?」
至極不思議そうに聞かれてしまった。義叔母様に続いて、二度目である。
そんなにわたし、ディルミックが好きなように見えるのかな。
というかまずいな。この状況、あんまり良くないんじゃないだろうか。義叔母様だから見なかったこと、聞かなかったことにしてくれたけど。
どう誤魔化そうか……と考えていたら、きらきらした目でチェシカがわたしを見てきた。
「旦那様のお顔、実はイケメンだったりするんですか!?」
……おっと? 流れが変わったぞ?
わたしは混乱したまま、彼女の話をさえぎらず、続きを聞く。
「旦那様のお顔が、ええと……その、アレなのは領内でも有名なんですけど、でも、仮面をして誰にも見せていないなら、もしかして他人に見せたらファンが一杯で大事になるくらい、すっごいイケメンなのかもって、おら……じゃない、わだし思ってて! あ、思ってまして!」
アレ、と彼女は誤魔化したけれど、まあ、醜いとか、そういう話だろうな……。
確かにわたしからしたら凄いイケメンではあるけれど……。
「奥様はお顔、見だことあるんですよね?」
なにか期待されているが、下手な返答は出来ない。
わたしは適当に、「うーん、まあ、どうかなあ……」と言葉を濁すことしか出来なかった。
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