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どんな反応をされるのかと、内心びくびくしながらディルミックを待っていたのだが、やってきた彼が放った言葉は「似合ってるんじゃないか」というあっさりとしたものだった。
なんだったら、今はこんなのが流行ってるのか、くらいの軽さである。
拍子抜けと言うか、空回りというか、何を言われるのかと身構えていたのが恥ずかしくなるくらいだった。えっ、意識してたの、わたしだけ?
もしかして、この世界には概念コーデという言葉や考えはないのだろうか。
ああ、でも、あったらそもそもわたしが紫色を提案した時点で義叔母様が止めていたかもしれない。
美醜に厳しく、醜いとされるディルミックに寄り添うのがどこまで許されるのかは分からないが、義叔母様のことだから、他の貴族に付け入られそうな要素は排除しようとしてくれるはず。幼少期のディルミックは仮面を付けていなかったっぽいし、彼女だって、ディルミックの瞳の色が紫なことくらいは知っているだろう。
なんだ……と思うと同時に、過剰な言葉を期待していた自分に、少しびっくりする。
そんなにもわたした、ディルミックに褒めてもらいたいかったんだろうか。誉め言葉なんて、一円にもならないのに。
いやまあ、確かに言われたら言われたで嬉しいけども。今までだったら、言われなかったら言われなかったで、そこまで気にならなかったのに。
普段、ディルミックが面白いくらい、分かりやすい反応をしてくれるから、いつもと違うのに、ちょっと驚いただけだって。うん、きっとそう。
「……ロディナ?」
ディルミックに名前を呼ばれてハッとなる。いつのまにか、ディルミックが手のひらを差し出していた。
やばい、話聞いてなかった。なんだろう、これ。何か渡すのかな。
分からなくて固まっていると、義叔母様から、「ロディナさん、手を差し出しなさい」と助言が飛んでくる。ああ、手か。
わたしは深く考えず、スッと両手でディルミックの指先を掴んだ。
「ロディナさん」
戒めるような声音で義叔母様がわたしの名前を呼ぶ。はあ、と、何度も聞いた呆れの溜息まで聞こえてきた。やばい、何かやらかしたわ。
「貴女、それでどう歩くおつもりなの?」
「え? ……あっ」
そういうことか。成程。
わたしはようやく理解して、向き合ったディルミックの傍らに移動し、左手を差し出す。するとディルミックは、するりと、慣れた手つきでわたしと腕を組むように、腕を動かした。
「基本的にはこの形で移動する。君は平民出身だし、嫁ぎ先がここだからな。一人になったらいい餌食になるだろう。極力、離れないように」
「分かりました、それについては大丈夫です」
わたしだって一人で放り出されたくない。ディルミックがちょっと挨拶してくる、とか言ってどこかへ行こうとしたら、全力でついていく姿勢だ。
当日についての流れの確認をしたし、エスコートされながらの歩き方についてのダメ出しをくらったりと、あれこれ教えて貰っている内に、もっと褒められたかったな、などという思いは、どこかへと消えていた。
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