24.5

 今日は気持ち悪いから嫌。


 そう言われたとき、心臓をぎゅっと握りつぶされたような感覚が、僕を襲った。

 今日のロディナは、すでにベッドへと入っていた。しかも半分以上、眠っているような様子だった。

 連日相手をさせていたし、流石に休みを入れた方がいいか、と頭ではわかっていたのだが、それでもなんだか惜しくて、彼女の方に手を伸ばせば、ぱし、と手を振り払われた。そのあと、一瞬指が動く。もしかしたら手を握ろうとしたのだろうか。


 眠いから嫌、と言われるとは思っていた。僕はこんな状況で起きて貰えるほどの人間じゃない。

 でも、まさか気持ち悪いと言われるなんて。


 まさか?


 冗談じゃない。いつも言われてきたことだろう。僕の顔が気持ち悪いのは今に始まったことじゃない。

 彼女も、本当は僕なんかと一緒に寝たくないのだろう。

 ベッドに上がるのをやめる。自分の部屋へと戻ろう。僕の部屋にベッドはないが、ソファはある。一晩くらい、ソファでもどうってことはない。


 彼女を叩き起こして、僕がベッドを独占する勇気はなかった。僕と寝るのが嫌なら、自分の部屋で寝ろだなんて。彼女の部屋にはベッドがなければソファすらない。

 彼女に、僕と一緒にベッドで寝るか、床で寝るか、なんて選択を迫りたくなかった。

 彼女はきっと、床で寝るくらいなら一緒に寝てくれるだろう。でも、そういうことをさせるのは、なんだか嫌だった。


 金で彼女を買ったくせに。


 激しい自己嫌悪に襲われながら、立ち去ろうとすると、彼女の方から声が聞こえてきた。


「たべすぎなんて……こども……」


「え?」


 もごもごと彼女の口が動く。


「た、食べすぎ?」


 思わず聞き返していた。


「たべすぎで、きもちわるい……」


 普段では想像がつかないほど、舌ったらずな口調で、彼女は言った。

 そのまま寝入ってしまったのか、寝息が聞こえる。完全に寝てしまったようだ。


「食べすぎ……」


 まさかの言葉に、僕の思考は止まる。そう言えば、今日の午前中に、厨房へ立ち入る許可を求めていたっけ。ベルトーニたちが常にいるし、変なことはできないだろう、と適当に許可を出していたが、もしかしたら何か作って食べたのかもしれない。

 けれど、昼と夜はいつも通りに食べていた。


「食べすぎ、か……」


 布団をまくれば、しっかり僕の分のスペースが確保されていた。もともと、大きいベッドなので広さはあるが、確実に僕と一緒に寝ることを想定している位置に、彼女は眠っている。

 食べ過ぎで気持ち悪いのなら、今日もここで寝ていいかな。

 彼女を起こさないように、そっとベッドに潜る。

 布団をかぶると、ふんわりと、甘い砂糖の匂いがした気がした。

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