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 ミルリに案内された雑貨屋は、こじんまりとして可愛らしい店だった。こじんまりは事実だが、可愛らしいは決して嫌味などではなく。

 わたしが来るのにはちょっと可愛すぎる気もしたけれど、ミルリが進めてくれたのだからここでなにか買おう。あまりにもファンシーなのはちょっとアレだけど。


「ボードゲームはこちらです」


 ミルリがよく行く店なのか、店員の様に案内してくれる。

 案内された場所にはいくつかボードゲームが並んでいたが、あまりピンとくるものがない。国が違えばゲームも変わる、ということか。

 まあ、わたしの村のボードゲームなんて、酒場でおじさんたちが賭けをしながらやるすごろくみたいなものしかなかったけれど。


「ミルリ、一人か二人で出来るものはある? あ、暇な時にでもミルリに相手してもらいたいんだけど、大丈夫? 仕事忙しいなら無理しないでいいから」


「わたくしはメイドですから、奥様と対等に遊ぶわけにはまいりません」


 ですよねえ。じゃあ、ディルミックが暇なときを狙うしかないか。


「……こちらのチェランジは、グラベインで最も遊ばれているものになりますので、大抵の方はルールが分かるかと」


 わたしがすでにディルミックを相手に考えているのを見抜いたのか、ミルリは一つのボードゲームを勧めてくれた。

 チェスに似た駒のボードゲームだ。盤も似ている。

 ルールもチェスに近いが、同じ階級かもしくは下の階級の敵駒しか打ち取ることが出来ず、上の階級を取ろうとしたら、同階級で挟み撃ちにするように駒を動かさないといけないらしい。

 その挟み撃ちの仕方にもいろいろ決まりがあるようで、普通のチェスよりかは複雑そうだ。


「ちなみに、こちらはグラベインで最も遊ばれているカードゲームです」


 そういって教えてもらったのはトランプに似たカードゲーム。ただしトランプと違って記号は五種類。よく遊ばれるルールは仲間外れ(ババ抜き)らしい。ちなみに、地方によっては醜男回し、という言い方をすることもあるそうだ。材質はトランプと同じだし、タワーづくりで一人遊びもできるだろう。本来の用途とは違う遊びではあるが。

 こんな遊びにまでそういう差別感が浸透しているの、闇深いな……。


「とりあえずこの二つ、買おうかな。ミルリ、お金足りる?」


「問題ありません」


 あんまりあれこれ買いすぎても、ディルミックが頻繁に相手をしてくれるとも限らないし、なによりルールを覚えられない。

 後は……。


「そうだ、文房具、売ってない? 教本はディルミックに頼んだんだけど、勉強道具頼むの忘れちゃって」


 店の規模に反して、いろいろと幅広く雑貨を売っている店のようなので、試しに聞いてみると、やはり売っているという。

 ミルリに案内され、わたしは文房具が並ぶ棚の前に立った。文房具好き、というほどではないが、新しい文房具を選んだりおろしたりするときはやはりわくわくするものだ。

 ペンとノートがあればいいかな、と物色していると、ふと、便箋が目に入った。

 花がワンポイントに入っている、落ち着いた紫のシックな便箋だ。凄い好み。普通に欲しい。

 でも、便箋なんて使い道――あるわ。


 ディルミックに手紙を書こう。同じ家にいるのだから、直接話せばいいかもしれないが、これは文字に慣れるための練習である。多少変でも、笑いこそすれ無下に捨てるような男ではないはずだ。

 教本の文章を写すだけでは実用性がないし、なにより楽しくない。

 わたしはそっと、便箋をノートと一緒に重ねた。

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