第25話 あれ、財団の方?3
「……え」
褒められて当然とでも思ってたのか一道の見せた表情は皮肉にも期待を裏切られたそれだった。
「いいか? 仕事でもなんでも与えられた内容以上のことをやるのは、与えられた内容を卒なくこなせるようになってからなんだよ。当たり前を完璧にできるようになって、余裕を得てから余計なことすんだよ。わかる?」
「し、失礼ね! 私はいつだって余裕よ! 余裕に満ち溢れているわよ!」
前のめりで食ってかかってきた一道のなんと説得力のないことか。俺は構わず続ける。
「どうせ根拠のない余裕だろ? それが根拠のない自信に繋がって最後はぶっころぶんだよ。その傷が若気の至りで済むようなレベルならいいけどな」
「いいえ違うわ。私の歩んできた人生そのものが根拠足り得るのよ。おわかり?」
「じゃあ聞くけど? お前が俺と付き合ってるって言いふらしたことによって生まれた
「把握もなにもおあつらえ向きじゃない。強いてあげれば木塚君が少々こそばゆい思いをするだけでしょ。仮でも私みたいな完璧ヒロインと恋仲になれて、ね」
そのセリフがまさに根拠のない自信をお持ちになっている何よりの証拠だな……そう返そうとしたが止め、かわりに溜息をついた。
「最低な発言に聞こえるかもしれないがな、俺は自分さえよければいいと本気で思ってる人間なんだよ」
「それがなんだというの?」
「速川はお前のことが好きでお近づきになりたいと俺に相談を持ちかけてきた。その俺が今やお前と付き合ってることになっちまってる……これは俺が望んだ展開じゃない」
「自分第一と言い放った割には速川君を思いやってるのね」
「違うそうじゃない。今の状況から自分の立ち位置が危うく足場が脆くなったことが不安で不安で仕方がないんだよ」
「……なるほど。心配してるのは自分てわけね。でも、重ねて言うけど私は条件を破ってはないわ」
「だから質がわりんだよ。『買い物を頼まれたので、指定された物を漏らすことなく買ってきました。それから良かれと思い、超高級ベッドも購入しておきました。後日届くことになっています』……大袈裟だけどやってることは同じだかんな?」
そんな馬鹿な人いる? とでも言いたげに一道は眉根を寄せている。
「あーだからさ、一道の口から「実はさっきの冗談でした~」つって皆の誤解を払拭しといてくれない?」
「……木塚君の言い分はわかった。けど、その必要はないわ。〝カバーストーリー〟一つでどうにでもなるから」
おいなんだ〝カバーストーリー〟って。S○P財団日本支部職員の方?
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