第21話 メーデーメーデー!
「しつこいようだがお前は土曜に体調悪くなって帰ったって設定になってるからな?」
「口裏合わせろ、でしょ? ここに来るまで散々聞かされてきたからもう耳タコよ。どれだけ心配性なのあなたは」
昇降口で履き替えてる間にも俺は一道に念を押すが、彼女はうっとうしそうな顔して吐き捨て一人先に行ってしまう。
「――そりゃ心配にもなんだろ。バレたら『じゃあなんで二人は帰ったの?』って疑問が浮上してくんだから」
俺は彼女の後を急いで追って隣に並んだ。
「私が不手際をやらかすと危惧しているからマイナス思考になるのよ。絶対の信頼を置きなさい、そうすればビクビクせずに済むわ」
「大した自信だよホントに」
「違うわ、あなたが病的なまでに慎重なだけ」
教室に着く直前で一道は足を止めて俺を一瞥し、
「どのみち木塚君は私を信じることしかできないのだから、おとなしく見守ってなさい」
そう言って彼女は室内へと足を踏み入れていった。
「お、真琴! もう平気なん?」
二渡と速川が一道に気付いて近づいてきた。
「ええ、問題ないわ。心配かけてごめんなさい――速川君も、ごめんなさい」
「いいっていいって! こればっかりはしょーがねーし」
「そうそう! 真琴が謝る必要なし! ……ところでさ~」
と、二渡がにやけ顔して俺に視線を移してきた。
「どうして二人一緒にいるのかな~ん~?」
「た、たまたま昇降口で会ったから」
「え~ほんとに~? おてて繋いで仲良く登校してきたんじゃないの~?」
「なんでそうなるのッ⁉ マジでなんもないから! 一道さんとはなんもないから!」
「とか言ってぇ、あの日もホントは弱ってる真琴につけ込む為に付き添ったんじゃないの~? んで成功した……みたいな?」
「ま、じ、で――違うからッ! だいたい一道さんが俺みたいなしょーもないヤツ相手にするわけないだろ? ねぇ、一道さん?」
「…………」
俺はこの状況を打破するべく一道に振ったが、何故か、どうしてか、彼女は無言のままで俺と目を合わせようとしない。
ちょっと、一道さん? ここで黙られたら余計に怪しまれるんですけど? メーデーメーデー!
「え、ちょ、マジなの?」
冗談のつもりだったのか、一道の様子を見て二渡も動揺。
「んなわけないって聞こえてなかっただけだって!」
「いえ、ちゃんと届いていたわ。木塚君の声……そして、木塚君の想いも」
ふざけ散らかしてんじゃねえええええええええええッ!
「おちょくらないでよ一道さ――」
「――伊代伊代伊代伊代伊代てめえッ!」
血相変えた速川に胸倉を掴まれ、歌舞伎役者みたいな掛け声を上げながら前に後ろに揺さぶられる。
「ガガガガガガガガガガガガガガガガガチで一道とそういう関係になったってのか伊代ッ!」
「お――ち――つ――け――」
「どっからどう見ても落ち着き倒してんだろうがボケエエエエエエエエエエッ!」
やめてやめて吐いちゃう吐いちゃう吐いちゃう――いっそ吐き散らかしてやんぞゴラアアアアアアアアアアッ!
「乱暴はよしなさい速川君」
「…………」
一道の制止の声に速川は苦い表情をしつつも俺から手を離した。
「はぁ……はぁ……ふぅ」
解放された俺は呼吸を整えがら辺りを見渡す。
騒ぎすぎたせいで注目されちまってるな……どうにかしてこの場をおさめなくちゃ――。
「勘繰られるのも面倒だからハッキリ言うわ――私、一道真琴はそこにいる彼、木塚伊代君と正式にお付き合いさせてもらっているの!」
……………………は?
突然だった。あまりにも突然すぎたせいで開いた口が塞がってくれない。
そんな俺を指差したまま一道は挑戦的に笑う。
「そうよね? 伊代君」
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