第17話 『俺たた』だけど…
フラれ動画を上げられないどころか彼女と仲良くやっているということで『こっぴどくフラれてみた』のチャンネル登録数は二万まで減ってしまっていた。
悩んだりしたこともあったが、今はもうそのことに未練はない。
俺はこの『こっぴどくフラれてみた』チャンネルを閉鎖する覚悟を決めていた。
生配信を行うとアクティブメンバーの五百人ほどが集まっていた。
久々にカメラの前に座るのに緊張していた。
「今日は皆さんに報告があります」
『ついに小鳥ちゃんにフラれたか!?』
『待ってました!』
『落ち着け!出来ちゃった系かもしれない』
『うそだろぉおお!俺の小鳥ちゃんは永遠の処女だ!』
今でもこうして集まってくれるメンバーは本当にいい奴ばかりだ。
こいつらともうこうして語り合えないと思うと胸が締め付けられた。
「実はこの『こっぴどくフラれてみた』チャンネルを閉鎖しようと思う」
『ええー!?』
『マジかwww』
『どうしたんだよ!?』
『アンチがウザいから?』
『本当に小鳥ちゃんにフラれて凹んでるのか?』
『TAC大丈夫か?』
「小鳥ちゃんとはまだ付き合っている。別れそうな気配もない」
『わかった!フラれないからチャンネル閉鎖するんだ?』
『安心しろ。俺たちはフラれるのを気長に待ってるから!』
『前フリが長い方が盛り上がるし』
『大丈夫!TACなら必ずフラれると信じてるぞw』
「俺がフラれるの確信してるのかよ。ひでぇな、お前ら。まぁ俺もそう思ってるけど」
『www』
『www』
『TACの自虐はいつ聞いても最高だw』
「こんな風に付き合っている過程をネットでアップするのは小鳥ちゃんに失礼だと思うんだ」
『今さら?w』
『確かに小鳥ちゃんは可哀想かも』
『TACと会えなくなるのは寂しい』
『だから私は何回もいいましたよね?あなたのしていることはモラルが欠落してると』
ウザいアンチは無視するとして、みんなの言葉には悲しみが滲んでいるように見えた。
『本気で小鳥ちゃんを好きになったんだね』
そうコメントしてきたのはブサエルさんだった。
さすがに彼は鋭い。
「ああ。そうだ。僕は本気で小鳥ちゃんに惹かれはじめている。実は僕は女性不信なんだ」
女性が嫌いなのに告白し続けてきた。もちろん付き合う意思もないのに。
それはつまり視聴者も騙してきたということだ。
非難を浴びる覚悟を決めてその事実を伝えた。
『知ってた』
『知ってた』
『知ってたし』
『てかあれだけフラれて女性不信じゃない方が怖い』
『かなり罵られてフラれること多いしな』
『ブサメンはみんな女性不信だ。ソースは俺』
『ぼ、ぼぼくは違うぞ!(震え』
『基本女の子を信じている奴なんていないだろ。え?いないよね?』
「え?」
女性不信なのはそんな理由じゃないのだが、みんな妙に納得してしまっていた。
『ブサイクな自分を愛してくれる女の子なんていないって、小鳥ちゃんを疑ってるんだろ?』
『なんかTACってわざと嫌われようとしてるしな』
「き、気付かれていたんだ?」
『いくら非リアでデートのことをなんにも知らなくても、はじめてのデートでネカフェに行かねーって』
『そもそも同じヲタ趣味あるなら普通にそっち行くだろ?わざと嫌われようとしてるのバレバレだから』
次から次と看過していたというコメントが流れていく。
もちろん本当に分かっていた奴なんてごく一部だろう。
しかし誰も『わざと嫌われている説』を流さなかった。
「それが分かってなんで見てくれてたの? チャンネル登録解除されてもおかしくないのに」
『それはもちろんTACを応援しているからだ』
まっさきに答えたのはブサエルだった。
それに続いてみんなが応援を表明し始める。
『TACだって幸せになる権利はあるんだ』
『頑張れ!小鳥ちゃんを信じて、手放すな!』
『今回の恋で女性不信を克服しろ!』
「みんな……ありがとう……でも僕の女性嫌いはもはやアレルギーレベルだ。二人きりで話すだけで気分がズンと落ち込み、身体に触れられたら目眩がするくらいなんだよ」
『でも小鳥ちゃんは少しだけ受け入れられるんだろ?』
「ブサエルさん、なんでそれを!?」
『そんなの観てたら分かるから』
『小鳥ちゃんとなら恋できる!頑張るんだ!』
『大切にしてやれよ!』
『応援してるんだからチャンネル閉鎖なんてするなよ』
「ありがとう! もちろんチャンネル閉鎖なんてしない。いや、俺が小鳥ちゃんとちゃんと向き合えて本当の意味で付き合えたら、そのときこのチャンネルを閉鎖する!」
『ちょ、ばか!自分でフラれフラグ立てる奴があるかw』
『次回、小鳥ちゃんにこっぴどくフラれたでごさる』
『ひでぇwww』
この日の生配信はまるでお祭りだった。
その後もみんなが小鳥ちゃんとのデートコースやら、女性アレルギー克服についてあれこれアドバイスをしてくれた。
正直そのほとんどは役に立たなさそうなものばっかりだったけど、みんなの声援が嬉しかった。
『こっぴどくフラれてみた』チャンネルはこの日から『TACと小鳥ちゃんの恋愛を応援する』チャンネルへと生まれ変わった。
タイトルも変えようという案も出たが、なんかそれはフラれフラグが立ちそうだということで却下した。
果たして本当に俺は顔も名前も知らない仲間たちに助けられ、女性アレルギーを克服して小鳥ちゃんと幸せになれるのであろうか?
俺たちの戦いはまだまだこれからだ!!
────────────────────
長らくのご愛読ありがとうございました!
TACと琴梨ちゃんの二人の未来に幸あれ!
なんて終わり方はしません。
もうちょっと続くぞい(
とはいえ書き貯めはあとわずかです
次章からはアレルギー克服を健闘するTACの物語です
ついにTACの家庭事情も琴梨ちゃんにバレてしまいます!
そして謎の古参ブサエルの正体は!?
もしよろしければ作品フォローや★評価を頂ければ泣いて喜びます!
これからもよろしくお願い致します!
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