「メンドくせぇ」って言う奴に限ってやるときは一番やる気ある
婚姻届受理。
二人と二人の連れ子達は、綾辻家の家族となった。
「これで僕らは家族となった。僕は仕事柄、いつも近くにいる事は出来ないけれど、僕は君達を護るためなら何でもする。どうか、よろしく頼むね」
「私も家事くらいしか出来ないけれど、みんなの事は頑張って支えるつもりだよ。改めまして、これからよろしくお願いします!」
二人は真摯に向き合ってくれる。
それは彼らの血を引き継いだ子供達も一緒だ。
「父さん。
「私も、気持ちは同じ……フゥ太のために、家族のために、頑張る、から……今後もよろしく、お願いします……っ」
感極まり、涙ぐむ桔梗。
今までも
しかし今は、正真正銘の家族。同情からの慈悲ではなく、家族の愛情で以て助けられ、助け合う関係になれた。
今まで張り詰めていた緊張の糸がほぐれ、溢れる涙は大袈裟なんかじゃない。
ずっと孤軍奮闘に近しい形で続けて来た彼女の戦いは、ようやく一度落ち着きを得られたのであった。
「しかし楓太、桔梗。黒髪同士の婚姻ともあれば、あの方が動くだろう。おそらく、もうこちらに向かって来ているはずだ。あの方相手に、父さんは何の手出しも許されない。二人が自由を勝ち取るか否か。最初の関門だと思いなさい」
狙い澄ましたようなタイミングで、インターホンが鳴る。
ピンポーンなんて間抜けな音とは反比例して、重々しい雰囲気がモニターに映っている。
初めて出遭う。
話だけは噂レベルで聞くものの、実際に出遭った事なんてない。そもそも本当にいるのかさえあやふやで、実在しないのではとさえ思っていた。
が、どうやらいたようだ。
日本という列島小国を裏から牛耳る、権謀術数の戦場を勝ち残った勝者が。
「初めましてだな、綾辻の
「お褒めに預かり、光栄です」
「ウム。そして、そちめが希少にして貴重な黒髪少女か。会いたかったぞ? 妾と同じ混色の黒髪よ」
そう言われて、桔梗はゆっくりと一礼する。
桔梗は一目見て、目の前の存在と自分との規格の違いを感じ取っていた。
桔梗もまた、特異な能力者である事に違いないが、
仕舞えないのか仕舞わないのか。揺らめく九つの尾っぽ、一つ一つから桔梗だけが感じるプレッシャーは、隣にいた楓太の手の温もり無しでは耐えられるものではなかった。
大丈夫、と隣より向けられる微笑みが、桔梗の平静を保たせる。
楓太も全く緊張していない訳ではなかったが、桔梗の隣だからこそ保てる意識があった。
彼女を護らねばならない。そんな、群れを統率するオスのライオンが如き使命感が、そうさせる。
「愛いのぉ。青いのぉ。そんな
尾っぽの右側から出て来たのは痩せぎすの男。
左側から出て来たのは筋骨隆々の大男。
速力か腕力か。
どちらかと戦い、双方に勝てと言う。
が、二人は迷わない。
相手がそう来るのなら、二人の意思は決まっていた。
「「もちろん、両方と!!」」
「良い決断じゃ。では、疾く参れ! 戦域展開、解放よ!」
* * * * *
九の予定では、楓太と桔梗がそれぞれ用意した試練のどちらかと戦う予定だった。
しかし、二人が同時に試練へと挑む事も想定内。想定していたからこそ、今回の二人を連れて来た。他の部下と比べ、コンビネーションを得意とした二人組だ。
髪の色は、痩せぎすの方が赤茶色。大男の方が緑。
ただし、毛先の方になると焦げたように黒く染まっており、能力もその分異色である。
「メンドくせぇ、メンドくせぇ、メンドくせぇなぁ……九様のご命令だからぁ相手するけどよぉ。本当にメンドくせぇなぁ……早く終わってくれねぇかなぁ」
「落ち着けぇ
赤茶髪の痩せぎすの男、
緑髪の大男、
黒髪の能力を交えた二人のコンビの勝率は、九割九分を誇る。
「フゥ太……」
「うん。強いね、あの人達。ただ、ヴィルジーリオと比べると、少し迫力負けしちゃうけど」
「あの人に迫力で勝てる人なんて、そうはいないわ」
綾辻楓太、桔梗兄妹。
今まで戦域には個人個人でしか入った事がないため、コンビでの戦いはこれが初。
しかし、個人成績で見ても楓太の勝率は九割。桔梗は十割。二人が強い事は言うまでもない。
「――“
そして、選び取られたカードは最強の一枚。
楓太は二度戦い、今回初めて隣に並ぶ。
蒼穹、蒼海を転写したような青い頭髪。
十対二〇枚の翼を広げ、黄金の刀剣に真白の炎を纏わせる。
事実上の三対一だが、この状況に黒スーツの二人は全く動じない。今日までの経験値が、二人から怯えを奪っている。
「メンドくせぇなぁ、メンドくせぇなぁ、メンドくせぇなぁ、おい。果てしなくメンドくせぇよぉ。メンドくせぇから……さっさと終わらせるぞぉ、おい」
「わかってる」
両手両足を突き、前傾姿勢になった瞬の体が膨らむ。
それでも痩せぎすの体はあまり変わらず、一つだけボタンが外れて
鋭く伸びた犬歯といい、変形した手、鼻の形といい、その様は赤茶色の体毛をした猿。それも、人間に近しい姿の、妖怪やモンスターと言った類の猿だ。
「メンドくせぇ、メンドくせぇ、メンドくせぇけどやってやるぜ? 徹底的にやってやるぜ。俺の名前は、一瞬の瞬だからなぁっ!!!」
吠えた瞬より先に、大地が動く。
踏み締めた地面から急速に木々が生えて、障害物もない平野に突如として樹海が広がる。
長身細躯の大猿へと変貌を遂げた瞬は木々を飛び移り、一本の枝を取って二人と一体へと迫る。
大地の能力で瞬が満足に戦える環境を作り、猿の膂力を乗算された状態の瞬が速攻で倒す。この二人の王道必勝パターンだ。
さながら斉天大聖を自称する猿の妖怪が如く、取った枝を棍棒のように振り回す。
伸縮自在でこそないものの、枝の両端が成長を続け、どんどんと長く伸びていく。棒高跳びのように地面に突き立て、弓なりに曲げて跳び上がると、大きく振り被って棍棒を振り下ろした。
「メンドくせぇなぁ……今の一撃で、終わっとけよクソガキ共がよぉ」
低く、唸る様に訴える。
舐るように見つめる先で、振り下ろされた棍棒が両断。黄金の剣に焼き斬られていた。
「では、お望みどおりに……致しましょうか」
解放、世界――
剣が、鎧が砕ける。
体そのものが炎と化して、翼も溶けて形を変えていく。
形を得た炎と呼ぶべきか。もはや数を固定化していないため、度々数を変える翼を広げて飛翔する世界は、両手に剣の形をした金色の熱を握っていた。
「
炎が燃える。
赫い瞳の天使は楓太と桔梗に一瞥ずつ配って、斬られた棍棒を長くしながら振り回す瞬へと跳び込んで行った。
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