第46話『リベンジといきますか』
セドナとの決闘から2日経った。
魔法契約というのは実に効果覿面のようで、俺の関係者だらけになっているこの町に滞在するだけで過呼吸を起こすらしく、セドナは転がるように逃げていった。
仲間も居なくなり、英雄云々が口にできなくなってこの先どうすんだろうなアイツ。
まぁ、俺にとってはもうどうでも良いことだけど。
盾がガルアの剣を防ぎ、俺の剣がガルアの服を切った。
また消えるぞ。
予感は当たり、ガルアがスキルを使って姿を消した。
いや、一秒先の未来へとんだ。
ガルアのスキル、《一拍飛び》は、一秒間だけ空間を止めて行動することができるチートスキルだ。
セドナのスキルは相手の動体視力や身体能力が優れていれば充分に対応できるが、ガルアのは防ぎようがない、
しかもその対象は、ガルアが身に付けているものにも有効らしく、戦時はスキルで槍を投げていたらしい。
そりゃ、突然至近距離に現れる槍を、いくら飛竜でも避けようがないだろう。
とっさに振り回した盾にガルアの剣が接触して弾いた。
とはいえ一秒は一秒だ。
スキルを知っていれば運が良ければなんとかできたりする。
ガルアが現れた箇所へ猛攻撃を仕掛けた。
突いて弾かれて回り込まれて回避する。
剣からも盾からも火花が散り、流れが決まっていく。
「うお!?」
後ろに回避しようとして後退するガルアを追い詰め、剣を弾いて喉元に切っ先を突きつける。
「はぁ、はぁ、」
「…はは。降参だトキ」
ガルアが負けたと両手を上げた。
俺はついに手加減なしのガルアに勝利した。
「これならもう大丈夫だろう」
それは師弟関係の解消の言葉だった。
ガルアからお墨付きを貰った。
剣を下ろし、ガルアへと頭を下げた。
「ありがとうございます」
これで、次に進める。
食べ慣れたシチューを口に運ぶ。
「ん、美味い。上手になったな、ターリャ」
「えへへー!ジョコーさんのおかげだよ」
このシチューはターリャが作ったものだ。
すごい。
言われなかったらもうジョコーさんなのかターリャなのか分からないぞ。
スプーンを静かにおいてジョコーさんが呟いた。
「もう明日行っちゃうのね。寂しくなるわ」
「…うん」
何だかんだと一月ちょっと居たからな。
ターリャにとっては初めての“家”だ。
「いつでも帰ってきなさい」
「うん、ありがとうジョコーさん」
ちなみに今まで言わなかったがガルア家には娘が一人居る。
その娘さんは今冒険者で、西側で活動しているらしい。
良いのかね?勝手に姉妹が増えているが。
あれ?その場合俺はどういうポジションになるんだ?
「その場合は滑り込みで特別に息子にしてやろう」
「さすがに無理があります。というか、俺は口に出してましたか?」
精々親戚の人で収まる気がする。
和気あいあいと夕飯を終え、明日の準備をする。
この作業も二度目だ。
「楽しかったね、トキ」
「そうだな」
「ターリャもとっても勉強できて楽しかった」
「だいぶ水を操るのが上手くなったよな。そういえば初級の回復魔法みたいなのもできるようになったんだってか?」
「うん」
ポコポコとターリャが部屋の中に小さい水玉を作って、踊らせた。
ターリャは水属性の魔法の適正が凄まじく、詠唱無しで生成、操作、性質変化に加え消滅までできる。
ジョコー曰く「ここまでできるのはそう居ない」とのこと。
誉れだな。
「もっともっと強くなって、ターリャもトキのお手伝いできるようになるから!」
「楽しみにしてるな」
机に装備するものを確認する。
立て掛けている盾は更に色が濃くなって、明るいところで見ると黒よりも紺色が目立つ。
深い海のような色だ。
なんでこんなにも色が変わったのか分からないけど。
目をつぶれば鮮やかに思い出すドラゴンの姿。
「楽しみだな」
「頑張れー!負けるんじゃないよー!」
「目にもの見せてやれー!」
町の入口でガルアとジョコーさんに見送られ、俺達は再び山を登った。
今日は良い天気だ。
森を抜けて山道に入る際にルシーは少し嫌がっていたけど、宥めながら登らせる。
ルシーもあのドラコンを覚えているのか。
「今回も咆哮を耐えてくれよ」
前回は耐えたのに、今回ので逃げられたらとても困るんだ。
「ルシー、がんばってー」
ルシーの綱を引いて登っていく。
すると途中で討伐隊が逃げ帰ったらしき跡があった。
ここで軽く一悶着があったのか、地面が焦げてる。
「噂で聞いていたけど、本当に派遣されてたんだな」
実はガルアにも要請が来ていたけど、俺の修行の為断っていたのだ。
それを知ったのはつい最近だったけど。
本当に、ガルアには頭が下がるばかりだ。
「双眼鏡落ちてるね」
「貰っていこうか」
草むらに転がった、まだ真新しい双眼鏡を拾い上げてバッグの中に入れた。
どうせもう探しには来ないだろうしな。
そうして登ること二時間、ついに最初にドラゴンとやりあった場所に到達した。
「……」
雨風で風化してきているけど、あのときの戦いの跡が生々しく残っていて手が震える。
けど、今回はあのときのようにはならないだろう。
「…いるな」
見えなくたって分かる。
気配がする。
ルシーとターリャを岩影に隠れさせた。
「ターリャはここで待ってて」
「わかった、気を付けてね」
ターリャは薄い水の幕を作ると、それでルシーごと体を覆った。
水面に反射する光で認識しにくくするのと、水の盾で攻撃の流れ弾を防ぐためだ。
「よし」
盾を構えて深呼吸した。
今度こそは、勝つ。
一歩踏み出せば、岩場の影から巨大な影が起き上がった。
灰色で、まだら模様のドラゴン。
俺を追い詰め、瀕死に追いやった相手。
ドラゴンがこちらを向いて翼を広げた。
「さぁ、リベンジといきますか」
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