103 少年は狙われる
昼休み。
俺は自分の席で一人、のんびりと昼食を摂っていた。
恭弥は部活の連中とどこかへ。
理華も今日はいつもの三人娘で中庭にいるらしい。
となると、俺にはもう友達と呼べる相手は皆無なので、自然と一人になる。
が、もちろんそれでいい。
むしろ、ここ最近の俺は誰かと一緒に行動してばかりだった。
このあたりで少しくらい、休養が必要だろう。
なにせ、もともと一人でいるのが普通だったんだ。
これが本来の姿だと言っても過言ではない。
スマホで適当なサイトを眺めながら、パンをかじる。
クラスの連中の騒ぐ声も、華麗に俺の耳をすり抜けていく。
穏やかだ。
やっぱり人間には、一人でいる時間というものが必要なんだろう。
その時、スマホの画面にメッセージの通知が表示された。
送り主は理華だ。
『今日は放課後に用があるので、一人で帰ってください』
とのことらしい。
とことん一人になる日だな。
帰りくらいは一緒に、と思ったが、まあ仕方ない。
『わかった』
『寂しくないんですか?』
『寂しいよ』
『ふふ。夕飯は一緒に食べましょうね』
『頼む』
最後はみかんの絵文字だけが送られてきて、理華とのやりとりは終わった。
画面に映る会話を見返して、思わずニヤけてしまう。
なんだか俺、見事に浮かれてるなぁ……。
もっとしっかりしなくては。
「楠葉くんっ」
「ん?」
スマホを仕舞って、パンの最後の一口を食べ終えたところで、聞き覚えのない声で名前を呼ばれた。
伏せていた顔を上げると、そこには……。
「やっほー」
「……」
……誰だ?
全然知らない顔だ。
唯一わかるのは、女子だっていうことくらい。
だが向こうは俺の名前を知っているらしい。
ということは、どこかで関わりがあったのか?
「ちょっと! なんで無反応なの!」
「……なんの用でしょう」
「しかも敬語!」
向かいの女子は俺の机に腕を乗せて、一人でケラケラ笑っていた。
改めて見ると、ほんの少しだけ見覚えがないこともないかもしれない。
「同じクラスじゃん!
らしい……。
そうだったかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない。
佐矢野は明るい色の長い髪を横で一括りにした、いわゆるサイドポニーだった。
猫のような目と、少し覗く八重歯が特徴的だ。
俺の高性能センサーによると、たぶん、リア充だろう。
「それで? なんだよ、急に」
「……うん。やっぱり、変わったね、楠葉くん」
「ん?」
変わった?
どういう意味だ?
「前より堂々としてるって言うか、落ち着いたよね」
「……」
「ってことで、連絡先教えて!」
「……なんでだよ」
「保健委員! 一緒でしょ? 今までの仕事、全部私がやってたんだからね」
「そ、そうだっけ……」
言われてみればそうだったような気もする。
委員会なんてやることがなさすぎてすっかり忘れていたが、どうやらこの佐矢野が全てこなしてくれていたらし。
各委員会は男女一人ずつだから、片方がサボれば当然、もう片方に負担が掛かる。
「これからはちゃんと手伝ってもらうから、その時の連絡用に、ね?」
「……わかったよ」
素直にスマホを差し出して、メッセージアプリの連絡先をお互い送信する。
理華とはなかなか交換できなかったのに、こんなにあっさりいくとは。
やっぱりリア充はすごいな。
「あはは! なんでアイコン、レモンなの?」
「……いや、なんとなく」
本当はみかんにしている理華に合わせてこれにしたのだ。
が、そんなことをこいつに話すのはさすがにおかしいだろう。
「いいね。なんか可愛い」
「そうか?」
「うん。なんか楠葉くん、いつも酸っぱそうな顔してるし」
「なんだそりゃ」
「えへへ。でも、最近はちょっと、優しい顔してる」
そう言って、佐矢野は笑顔で俺の顔を見つめてきた。
どことなく、瞳が潤んでいる気がする。
なんだか、妙な空気だ。
「さて、と。じゃあ、またね。連絡したら、ちゃんと反応してよね」
「あ、ああ。たぶん」
「あはは」
佐矢野はまたケラケラと笑いながら、軽い足取りで去って行った。
なんだったんだ、あいつは。
“ブブッ”
「ん?」
通知音の振動。
スマホからだった。
画面には今別れたばかりの佐矢野からのメッセージが表示されている。
『連絡以外でも、反応してね!』
そんな文言と、桃の絵のスタンプ。
それ以降は、もうメッセージは来なかった。
なんだか、不思議な体験をしたような気がする。
相変わらず、リア充は謎の多い生物だな。
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