第40話 生徒会を作りました


「生徒会を作るって、どういうこと?」


尋ねると、エルは我が意を得たりと微笑む。


「向こうの目的が何であれ、形式上は学校訪問と交流会でしょ? 

だったら、こっちで代表に立つのは学園長であるメイちゃんだけになる。

でも生徒会を作っておけば、生徒会メンバーという名目で他の人間が同席できる。

相手だって生徒会メンバーで来るんだから、文句も言えないしね。

少なくとも、一対多数で囲まれることは避けられる」


「なるほど……」


私は頷いた。


一対多数と聞いて、庭園で拉致されたときの記憶が蘇る。


さすがに学校訪問という公の場で私を拉致するとは考えにくいけど、オスカーのことだ、何らかの手は打ってくるに違いない。


「俺が生徒会を作って、君を守ってあげるよ」


突然手を取られ、手の甲にキスされてぎょっとした。


「え、ちょ、何!?」


「えへへ。心強いっしょ?」


「いやいや、パリピ特有の急なスキンシップやめて。心臓に悪いから」


いたずらっぽく笑うエルに釘を刺す。


「アキト、どう思う?」


近くで物も言わずに控えているアキトに水を向けると、「よろしいかと存じます」という答えが返ってきた。


「ウェンゼル公立学園の方々のお相手を務めるのに、ティアメイ様が矢面に立たれるのは危険です。ただ、問題は生徒会のメンバーかと」


「そこは大丈夫。俺がちゃんと考えたから」


「え、もう考えたの?!」


びっくりして声が裏返った。


「まあねー、俺天才だから」


と言って、エルは自分を指さした。


「まず、当然俺が生徒会長ね。発案者だし」


うわ~パリピ生徒会長か。


エルって目立ったり人前に立つことに、何の抵抗もなさそうなんだよね。


イケメン眼鏡男子だから当たり前なのかもしれないけど。


でも、アキトはエルの真逆だ。


自分は気配を消して、影になることに徹している。


アキトだって格好いいのに、もったいないような気がするな。


「で、アキト君。君は副生徒会長、兼会計」


びしっと指さされて、アキトは驚いた様子もなく優雅なお辞儀をして言った。


「かしこまりました」


「え、いいの!?アキト。勝手に決められちゃって」


「もともと生徒会には入らせていただくつもりでしたから。役職は何でも構いません」


「ふっふーん。そうでしょ、俺の計画どおり★」


エルはピースマークを裏返しにして、きゃるっとウインクしてみせる。


「あとは書記だね。俺が見たところ、リュシアン君が適任かなって気がするけど」


「では、私のほうからご依頼しておきます」


「ありがと。で、顧問はフィリップ先生ね」


「呼んだか?」


と声がして、後ろからフィリップ先生が現れた。


「うわー、すっげータイミング! ねえねえフィリップ先生、俺ら今度生徒会作るん

だけど、顧問やってくんない?」


白衣眼鏡のフィリップ先生に、赤縁パリピ眼鏡のエルが愛想よく話しかけている。


それを見守る執事黒縁眼鏡のアキト――ああ、何て素晴らしい眺めなんだろう!!


うっとりしていると、フィリップ先生は相変わらずぼさぼさの髪をかきまぜた。


「面倒くせーなあ……」


「まあまあ、そう言わずに。先生だって、メイちゃんのこと守りたいでしょ?プリスタイン家の侍医の家柄だもんね」


「は?」


フィリップ先生が眉を寄せる。


「何でそんなことまで知ってるの?」


不思議に思って聞くと、エルは両手を頭の後ろに回して言った。


「だから言ったでしょ。貴族社会は噂が回るのが早いんだって」


うーん……今までろくな社交してこなかったから知らなかったけど、貴族社会って怖いなあ。


「何だかよく分からんが、後で職員室に来い、エルネスト。相談くらいは乗ってやる」


「ほんと? やったー、ありがとう!」


エルは子犬のように無邪気に笑った。

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