第36話 寝込みを襲われました



目が覚めたら、部屋の中は既に薄暗かった。


黄昏ていく西の空の端を、最後の残照が茜色に染めている。


私……寝てたんだ。


下腹部のじくじくするような疼きも、頭の痛みも、随分とましになっている。


先生が座っていたはずの椅子は空っぽで、部屋には私以外おらず、しんと静まり返っていた。


「ありがとう……先生」


私は呟いた。


フィリップ先生と、彼に似ていた保健室の先生に向けて。


ほんの少しだけど、涙で頬が濡れている。


拭っていると、コンコンとノックの音がした。


「お嬢様」


アキトの声だ。


気恥ずかしくなって、私は布団をかぶって寝たふりをした。


「お嬢様、入室してよろしいでしょうか」


返事をしないでいると、しばらくして遠慮がちにドアが開く音がした。


ひたひたと足音を忍ばせてアキトが近づいてくる。


心臓が壊れそうに鳴り響いた。


うう……気まずい。会わせる顔がないよ。


私のせいでお見合いが延期になって、アキトは怒られたんだもん。


「よく眠ってらっしゃる」


アキトは優しく呟くと、私が雑にかぶっていた布団をかけ直してくれた。


ふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。


「専属執事でありながら、ティアメイ様の体調の変化に気づくことができず、申し訳ありませんでした。これはせめてものお詫びです」


多分、花瓶に花を飾ってくれているのだろう。


アキト……。何て気遣い屋さんなの、あなたは。私のこと甘やかしすぎでしょ。


嬉しさと罪悪感で胸がいっぱいになる。


「少しでも早く、お体の具合がよくなりますように」


そう言うと、アキトの温かい手がそっと私の手を取った。


思わず、体がびくっと反応してしまう。


やばい! たぬき寝入りなのバレた……?


アキトは気づいていないのか、そのまま黙っている。


多分、フィリップ先生が座っていた椅子に腰かけているのだろう。


やめて~至近距離で顔ガン見しないで~今日はお化粧もしてないし、顔色も悪いし、生理だし、いろいろと調子悪いんだよ~。


恥ずかしすぎて手汗がやばい。


ばれたらいけないから寝返りも打てないし目も開けられないし、ああ~早く終わって、この謎な時間!!


私の心からの祈りが通じたのか、アキトはそっと手を離してくれた。


よし、ナイス! 


このままもうひと眠りしよう。


そして明日元気になって、アキトにちゃんと謝ろう。


そう思っていると、ふわりと気配がして、頬に温かい感触があった。


……え? 


今の、何?


柔らかくて、むにっとしてて、しっとりした物体。


それが頬に……私の頬に……。


キ……キスじゃない? もしかしなくてもキスじゃない?


え、アキトが、え? 私に、えっ? 唇を、ええ?! 


キキキキキ、キスを、えっ?! ほっほっほっ、ほっぺにチューを?!


ええええええええええええええあqswでrftgyhじゅきおlp;@:くぁwせdrftgyふじこlp\(^o^)/

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