第3話 忍び寄る影

 翌日。

 俺たちは聖令都市オルセートを出発した。

 冒険者ギルドに共同墓地、宿屋と色々世話になったこの都市は、重要拠点なだけあって活気に溢れていた。


 それに比べて、今歩いている間道は。

 両側に切り立った崖がそびえ立つ。道を下れば下るほど、その壁は高くなっていく。


 二人で並んで歩く分には問題ない広さだが。

『戦力も増えたことなので、ちょっと足を伸ばそうと思います!』

 クレアが提案した目的地は、オルセートの南東に位置する歓楽都市カディノだった。


 この道からしてすでに危険な香りが漂う、怪しい街だ。


「次のターゲットはこの人です」

 クレアがシスター服のそでつかみながら、冒険者ギルドの名簿を指差す。

 黒メガネの大男。名は、《大剣使いのジャルメラ》。いかにも悪そうな男である。


「パーティを組まず、単独行動を好むそうです。

 死と隣り合わせの冒険者なのに、正気の沙汰ではありません。とりあえず守護聖徒の権力を利用してギルドに掛け合いましょう」


 デュランと俺を組ませたのはお前のしわざか。


「ところでターゲットはどうやって選んでいるんだ?」

 俺も元々狙われていたみたいだし、一応聞いておこう。


「地下都市に住んでいそうな人です」

「地下都市……?」

「地下都市は教会の目が行き届かず、不届き者が生まれやすいのです。

 なので、優先的に狙おうというわけです」


「俺は地下都市の出身じゃないんだが……」

「大司教様がおっしゃるには、『地下都市は暗いから髪も黒いに違いない!』とのことでしたので、黒髪を目印にしていました」


 大司教が黒髪に嫉妬しているだけとかいうオチはないだろうな。


 ──下らないことを考えていたその時、ふと気付いた。新天地を目指そうと言うのに、気が緩んでいたようだ。


 道の脇にそびえ立つ壁。

 切り立った崖。


 上に、▪︎いる……!


「ど、どうかしました?」

「……気配を感じなかったか?」

「いえ、妙に静かだとは思いますが……」


 気のせいか? なら良いが。

 と、再び歩き始めたその時。


 ズシン。


 前方、遠くのほうから鈍い音が聞こえた。

「行ってみましょう!」

 俺とクレアが急いで角を曲がると──


「ちょっと! はなしなさいよ!」

 嫌がる黒髪の女の子。彼女の腕を掴んでいるのは。


「今言ったなぁ? ちょっとだけなら良いんだなぁ?」


 黒いメガネに、彼女の二倍はあろうかという巨体。大剣の突き刺さった地面は大きくひび割れている。


「おい、まさかこいつは」

「大剣使いのジャルメラ、時の人です!」


 ターゲットにいきなり出くわすとは。しかもこいつは、すでに▪︎じゃない。

 となると、まずは俺の出番か。


「封印は……任せたぞ」

 クレアの肩を叩くと、俺は大男に近づいた。


「ん? 何だお前はぁ?」

「《サーワル・ドレイン》」


「うおおおお⁉︎ ぉぉ……」


 魔力を吸い取られた大男は、ドシンと倒れ込む。


「《メル・トジコ》

 ──の者を、封印せよ」


 強烈な光が大男を包み込む。

 いくら強靭きょうじんな肉体を持っていても、一人なら俺たちの敵ではない。

 あっけなく消えたな。




 ボシュッ。


 ──大男は、消えた。


「う、嘘……どうして……?」

 封印できなかったことに戸惑うクレア。


 そうか、崖の上の気配……!

 しかしこれは──


「良いなぁ、驚く顔は」

 後ろから一人。

「もっと見せてくれよぉ」

 反対側からもう一人。


 同じ姿、同じ顔……。


「オレが一人だと油断したんだろぉ?」

「まんまとハマったなぁ」

「なぁ、なぁ、オレには絶望の声を聞かせてくれよぉ」


 四人、五人。くそ、こいつは──


「──《蛇腹じゃばら式》強欲ごうよく分身──」


▪︎増えるは無限のオレ……!」

二兎にとを追うへびはぁ」

一兎いっとたりとも逃がさねぇ!」

「今日からオレがお前たちのぉ」

「水・平・線」「だぁぁぁ!」


 最悪の相手だ……!

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