第陸拾肆話 料理長は感動(後編)

 プリンのカラメルソースとプリン液が出来上がり、大きなオーブンがあるので今回は、オーブンでの蒸し焼きで作ることを決めた。


「カラメルソースが入った容器にプリン液を注ぎます。すが立ちにくいので縁ギリギリまで注いでください。」


「アオイ様。すが立つとは何ですか。」


「すとは、卵などを使った蒸し料理で、火加減が強すぎたり、加熱時間が長すぎた場合に表面や内部に細かい穴が開いたものです。

すが立つことで、味も見た目も悪くなります。なめらかさがなくなり、舌触りも悪くなります。」


「そうなのですか。台無しになってしまいますね。」


「そうなんですよ。」

「では、続きをやりましょう。バッドにたっぷりの湯を入れ、湯煎状態でオーブンに入れます。オーブンの温度は140~150℃で、30~40分ゆっくり火を入れます。」

「容器を傾けてみて、中心が少しゆるいぐらいが焼けた目安になります。焼き上がったら粗熱を取り、冷蔵庫で2~3時間冷やせば完成です。」


「なるほど、気をつけなければいけない点もありますが、簡単にできるのですね。」


「そうなんですよ。メモにも書いてありますが、今回はオーブンを使いましたが、お鍋で蒸す方法もあって、こちらは、お鍋に薄い布巾を敷き、プリン容器を並べ、プリン液の半分くらいの高さまで沸騰したお湯を注ぎ、お鍋の蓋に布巾をまきつけ、中火で一分半、弱火に落とし三分蒸し、火を止めて蓋をしたまま十分くらい待って、お鍋から取り出し、粗熱を取ってから冷蔵庫で冷やします。」


「なるほど。今度は、鍋で蒸した方も試してみます。」


「今回オーブンで蒸し焼きにしたプリンは、王妃様やアルカちゃんがこの前食べたお鍋で蒸すより、しっかりとした食感のプリンになるんです。オーブンで蒸し焼きにすることで、お鍋で蒸すより水分がとぶからだと思います。」

「あとこれ食べてみませんか。」


 私は、できたばかりプリンを指差す。

 卵のにおいや甘さがつよかったりするので、好みはわかれるが、私はこれはこれで好きなんだよね。


「冷やしたプリンより卵のにおいや甘さが強いですから好みはわかれますけどね。」


「温かいプリン食べてみたい。」


 アルカちゃんは、興味があるみたいだね。王妃様とマルクさんも何も言わないけど食べたそうだ。

 皆で、容器を一つずつ取りスプーンですくって口に運んだ。


「どうですか。」


「おいしい~」


「確かに冷たいプリンより甘味が強いけど、これはこれでありね。」


「私には、甘味が強くてちょっと苦手ですが、冷やした物はこれよりは甘くないんですよね。楽しみです。」


 王妃様とアルカちゃんは、好きみたいだけど、マルクさんは甘過ぎて苦手みたいだ。

 そして、試食の間に粗熱も取れたので、冷蔵庫に入れた。


「マルク。約束した通り、このレシピは他の人に教えたりしてはダメよ。」


「わかっております。王妃様。」


「プリンを冷やしている間に何かできるかな。」


「アオイちゃん。ふわとろオムライス教えてあげて」


「でも、半熟にするだけだからマルクさんは、普通にできると思うよ。ねえ」


「ふわとろオムライスですか。卵を半熟に焼くのですか。できると思いますが、見せてもらってもいいですか。」



 わかりました。チキンライスはマルクさんが知っているものと同じだと思うので、説明せずちゃちゃっと作っちゃいますね。」


 そう言って私は、チキンライスを手早く作った。


「ではオムレツの説明しますね。」

「割った卵に牛乳を入れ、箸で切るように混ぜます。

 しっかり加熱したフライパンにバターを入れ溶かします。火加減は弱火~中火程度で卵液を一気に流し入れ、箸でかき混ぜ、半熟に固まり始めたら、火からおろします。

フライパンの奥側に向かって卵を包んで行き、卵を奥側にスライドし、奥側の卵を手前に反し、奥からも包み込み、奥側からヘラを入れ、思い切って裏返し、卵と卵の継ぎ目を下にして、少し火を通します。

チキンライスの上に乗せ、包丁で真ん中から表面に切り込みを入れて、左右に開いたら完成です。」


「おお、素晴らしい見た目ですね。」


「マルクさん、食べてみてください。」」


「アオイちゃん、私も食べたい。」


「マルクさんが作る昼食もあるから、マルクさんは躊躇っちゃうかもしれませんが、試食ですし、このオムライスを皆で食べましょう。」


「ああ、やっぱりふわとろオムライス最高。マルク、これからは、オムライスはふわとろにしてね。」


「はい。わかりましたアルカ王女様。」

「本当に素晴らしいですね。感動しました。ふわとろオムライスしってしまいましたので、私もオムライスは ふわとろしかあり得ないと思うようになってしまいました。」

「アオイ様。師匠とお呼びしてもよろしいでしょうか。」


「やめてください。」


 こんなことで、師匠とか呼ばれるのはあり得ないでしょう。


「では、都合がいいときにたまに王城に来ていただき、他のレシピを教えてもらったり、アドバイスをしていただくことはできますか。」


「ダメですよ。最初にマルクだって、レシピは料理人の財産だと言っていたじゃない。」


 王妃様が反対したけど、私が考え出したレシピではないし、皆が喜んでくれれば私も嬉しいから別に構わない。


「それくらいなら構わないですよ。」


 それから、ふわとろオムライスのレシピをメモに書いてマルクさんに渡し、冷やし中のプリンは、食後に出してあげたら国王陛下たち喜ばれるだろうことを伝え、また来る約束をして、王城を後にした。

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