第弐拾漆話 看板娘(後編)

 それから他のテーブルに注文を聞きに行く度に色々聞かれたりした。


「アオイちゃん、ロースカツとヒレカツあがったよ。よろしくね。」


「はい。」


 料理を受け取り、席に向かい、お客さんの前にそれぞれ注文した料理を置いた。


「ロースカツとヒレカツお待ちしました。」


「おお待ってたぜ。あとビールのお代わりくれ、二つな」


「はい。ビールおかわりですね。すぐお持ちします。」


「ビール四つに、ニホンシュ冷やです。唐揚げと漬物盛合せもすぐお持ちします。」


「アオイちゃん、コカットリスの唐揚げ、それから親子丼あがったからよろしく。」


「はい」


 次から次へと注文受けた料理が出来上がって、テーブルまで運んで、新しいお客さんが入ってきてと忙しくなってきた。

 台車使えない私は、一気に運べないから効率悪いな。

 ピーク帯に入ったのか、お客さん増えてきたな。


「アオイちゃん、ご飯時でどんどんお客さん来ているから料理運ぶのは私たちがやるから、アオイちゃんは注文聞きに行くの優先でお願い。


「マーガレットさん、わかりました。」


「三人だけど席空いてる?」


「はい。お好きな席にどうぞ」


「ご注文の料理お持ちしました。」


「二人だけど空いてる?」


「只今、満席でして、お待ちいただくことになりますが、いかがしますか。」


「そっか。じゃあ、また来るよ。」


「またのご来店をお待ちしてます。」


 やっぱり、どこの世界でも飲食店のピーク帯は大忙しである。

 私は新規のお客さんの注文を聞いて回った。


「ピーク過ぎた。」


「おお、客減って落ち着いてきたな。旨いし量多いのに安いから飯時はここは混むからな。」


「まだいらっしゃったんですね。」


「おおよ」

「俺はアイザックで、こいつはボブってんだ。俺たちはここの常連でな。

 カツと漬物で酒を飲み、残ったカツをライスと味噌汁と一緒に食うんだ。」


「そろそろライスと味噌汁持ってきてくれるか。」


「わかりました。待っててくださいね」


 常連ならではの楽しみ方はそれぞれあるんだよな。

 私も行きつけの店では、決まった楽しみ方あったしね。


「ダニエルさん、ライスと味噌汁を二つお願いします。」


「あいよ。ライスと味噌汁、二つお待ち。」

「アオイちゃん、それ運び終わったら、あがっていいよ。」

「賄いどうする何か食べたいものあるかい?」


「少し考えさせてください。先に運んできちゃいます。」


 賄い出るんだありがたいなどと思いながら台車使えないからライスと味噌汁を分けて持っていた。


「お待たせしました。」


「来た来た。」

「アオイはちょこちょこ動きまわったりとかわいいからな、顔もかわいいから定期的に働いてこの店の看板娘になっちゃえよ。」


「は はぁ」


 ライスと味噌汁持っていくとアイザックさんに返答に困るようなことを言われた私は、生返事するしかなかった。

 そして、賄いを頼みに調理場に向かった。


「ダニエルさん、賄いロースカツセットライスでお願いします。」


「あいよ。すぐ持っていくから近くの席に座って待ってな」


 アイザックさんたちの見てたら食べたくなっちゃったんだよね。

 ロースとヒレだとヒレの方がカロリー低いけど、カツは油で揚げるからそうするとロースもヒレもカロリーほとんどかわらなくなっちゃうんだよね。

 それにカツと言えばロースが一般的ですし、私もロースが好きなのです。


「アオイちゃん、お待たせ。」

「サインしちゃうから依頼完了書出してもらえる。」


 依頼完了書を手渡し、サインしてもらった。


「食べながらでいいから聞いてくれるかな。」

「うちで働いてみてどうだった?」


「忙しかった時間帯は大変でしたけど、みんな優しいし、お客さんも美味しそうに楽しそうにご飯食べてて、嬉しくなったし、楽しかったです。」


「アイザック、ボブ、マゼラン、ラディオとかいう毎度、長居する困った常連もいるんだけどな。」

「今日はそいつらじゃなくても長居してくれて、追加注文も多かったし、いつもよりお客も多かったんだよ。」

「かわいい子が接客しているのが見えたからとか行った人に聞いたとかで店に来たお客もいつもより多かったな。」

「アオイちゃん目的で来た客が多かったからアイザックもなっちゃえとかさっき言ってやがったが、アオイちゃんは看板娘だな。」

「そこで相談なんだけど、冒険者だから他の依頼も受けるだろうから、アオイちゃんの都合がいい日に店に来て、手伝ってもらって、事後依頼としてギルドに申請するって感じにしたいと思っているんだけど、どうかな?」


「私は助かりますけどいいんですか。」


「勿論だよ。アオイちゃんが手伝ってくれれば、今日みたいに客が増え、追加注文も増え、うちの売り上げが上がるかもしれないし、あそこにいる客たちも喜ぶだろうからな。あと俺も言っておくが、一応ギルドにこの件、アオイちゃんからも伝えといてくれ」


「じゃあ、よろしくお願いします。」


「やったなダニエル。これでこの店にも看板娘が誕生したな。」


「アイザックさん、看板娘なら私とマーガレットがいるじゃない。」


「いや、カトリーナとマーガレットじゃ、看板娘としては可愛げがない。わっははは」


「「なんでよ。私たちだって看板娘としてやっていけるわよ。ねえ、店長」」


「そ そ そうだな。」


 そんなこと言うから、カトリーナさんとマーガレットさんが怒って、アイザックさんに文句言い始め、ダニエルさんも巻き込まれ、ビビりながら返事してた。

 私としては、いい話もらえたし、ありがたいことだ。看板娘の座は別として……


 常連さんとカトリーナさんとマーガレットさんはまだ言い合ってるし、周りのお客さんもそれを見て笑っている。

 賄いを食べ終わった私は、ダニエルさんに事後依頼の提案してくれたことのお礼をあらためてしてから賄い屋レガールを後にし、依頼完了と今後、事後依頼を受ける事になったことを報告するためにギルドに戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る