第弐拾参話 今日は帰ろうかと……しかし

 ギルド酒場で、牛丼(バイソン丼)を堪能し、ソレイユさんから助言やなぜ魔獣の肉ばかりなのかを教えてもらった私は、食器を返却口に持っていったあと、そのままクエストボードに依頼書を見に行った。


「また、いい依頼あるなかな~♪」


 E~Hの冒険者用の依頼書をクエストボードでチェックしたがよさげな依頼がなかった。


「いい依頼ないな。やっぱり一つ依頼こなしたあとだと時間帯的にいい依頼が残っているわけないよね。只でさえ、私、子供過ぎるからやれる依頼が限られちゃうからな。」

「今日はこれで帰ろうかな。」


 そんなことを考えていると、ギルドが騒がしくなって来た。

 酒場で冒険者が酒を飲んで騒いでいるわけではない。

 怪我で頭や腕などから血を流してギルドに入って来た冒険者が慌てた様子で、ギルド職員に報告し、それを聞いた私以外の冒険者やギルド職員が慌ただしく動いたりしているので騒がしくなっていたのだ。

 私は、一人の冒険者に近づき話を聞くことにした。


「あの~、話し聞かせてもらってもいいですか? 私、アオイっていいます。さっき血塗れの冒険者さんが入って来てから慌ただしくなってきましたが、何かあったのですか?」


「ああ、俺はボンズだ。詳しくはわからねえが、どうやらクランで討伐依頼受けてた冒険者が、予想外の魔獣と遭遇して、その魔獣と依頼対象の魔獣は何とか討伐できたみたいだし、今のところは死人は出てないみたいだが、ほとんどのクランメンバーが怪我が酷く、その場から動けない状態で、血の匂いで魔獣よってくるかもしれねえから一番動けそうなやつがギルドに報告に来たからみたいだぞ。」

「現場はそう遠くないからそれほど強い魔獣は出ねえが、予想外の魔獣が出ての事だし、たくさんの負傷者がいるから血の匂いで魔獣がどんだけ集まってくるわからねえから二次被害を避けるためCランク以上の冒険者とあっちで応急処置の為に治癒魔法使える冒険者の臨時パーティーを複数派遣することが決まって、今は現地に向かったとこらしい。」

 今、ギルド職員が出ていったから、医療ギルドに要請に行ったんだろうさ。怪我人が戻ってきたら医療ギルドと合同で治療にあたることになるだろうな。」


 たくさんの怪我人か。ソレイユさんの言っていたことはこういうことなんだろうな。


「依頼どころじゃなくなっちゃったな。」


「アオイ、人がたくさん必要になるかもしれねえから、仮登録やランクの低い冒険者のやつにも緊急依頼出るかもしれねえぞ。」

「被害あったクランの奴らには、悪いが緊急依頼はクエストボードに貼り出されている通常の依頼より報酬いいから、もし依頼探してたんならここで待機しているのもありだぞ。」


「ここにも怪我人が運ばれてくる可能性があるから、アオイみたいな子供にはキツいかもしれんけどよ。」


「大丈夫です。それなら私、ここで待機していることにします。」


「おお、でも無理はすんなよ。」


「心配してくれて、ありがとうございます。」


 今の私は四歳児だが、転生前は看護師をしていたのだ、普通の人より命に関わる大怪我をし、搬送されてくる患者もいたし、血にも慣れている。

 もし、仮登録の私にも出来ることがあるならやりたいと思い、ギルドにとどまることした。

 ボンズさんは、私がまだ小さい子供だから怪我人を見て、辛い思いをしないように言ってくれたんだろうな。

 顔や腕に大きな傷や小さな傷があったりして子供が泣き出すくらい見た目は怖いけど、優しい人だなと思った。


「仮登録者とランクの低い冒険者にも緊急依頼を出す。怪我人の数が多く、医療ギルドのベッドだけでは足りないので、こちらにも怪我人が運ばれてくるなので、手伝ってくれる者を募集する。定員は治癒魔法の使える冒険者五人、それ以外のランクの低い冒険者と仮登録者十五人の計二十人だ。報酬は小金貨二枚となる。」

「ただし、仮登録者は邪魔になってしまう可能性があるし、これは仮登録者だけではないが全く戦力になっていないとこちらで判断した者にはペナルティがあるので報酬がいいからと簡単に受けず、よく考えてからにしてもらいたい。」


 ギルドから説明を聞いて、その通りだと思った。

 人が足りないから募ったのに、報酬がいいからといたうだけで、受けて、怪我人が血を流しているを見て、顔を青くして、その場にいるだけで動けないのならいないのもの同じなので無駄でしかない。

 まあ、そう言っても理由があったりしてどうしても受けたいって人も出てしまうのだろうけど、何か理由があって受けた人は、最初の方は動けなくてもその後は切りかえてちゃんと動けるようになる人もいたりする。

 しかし、言われたにも関わらず、ちゃんと考えずに報酬の金額だけで決めた人は、最初から最後までずっと動けないままだろう。


 ギルド説明が終わると私は、真っ先にセシルさんのところに向かった。


「セシルさん、私さっき説明してた緊急依頼受けたいです。」


「アオイちゃん。大丈夫なの? 動けないって事は怪我もかなり酷いだろうから辛い光景をみることになる可能性もあるのよ。それでも受ける。」


「はい。大丈夫です。受けます。」


 セシルさんにも当然だが心配されてしまった。でも受けずにはいられなかったのだ。


「わかったわ。受理するわ。アオイちゃんよろしくね。」

「怪我人が来るまで、まだ時間あるけど、定員に達したら細かい説明とかするからギルド内で待機していて、怪我人が到着したら大忙しになるけど、受けたからには頑張るのよ。」


「はい。」


 そして、私はギルド酒場のさっき座っていた席に戻り、怪我人が到着するのを待つことにした。

 立っているだけでも疲れは溜まるのだ。怪我人が到着したら大忙しで体力勝負になる。

 子供なので体力がないのだから今のうちに無駄に体力を消費しないようにしっかり休んでおくべきなのである。

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