あれから10年

 もう10年。されど10年。

 今も津波に巻き込まれた見つからない人もいると聞いた。それを聞いて胸の奥が潰されそうな気持ちになった。

 あの日の映像が311が近づく日にはテレビで流れる。

 そんな10年だったと、あーちゃんが顔を歪めた。


 僕らは、あの地震の日も一緒にいた。

 いっしょの日に休みを取るのは昔からで、なるべく僕らはいっしょに休みの日を過ごす。

 それでも休みの日は、各自、好きなように過ごす。それは今も変わらない。


 あの時、僕は接骨院に行くからと着替えをすませ、玄関にいつものリュックとマフラーを置いた。あーちゃんは何故かその日に限って浮かない顔で僕を見ていた。


「どうしたの?」

 僕のその言葉に、少し寂しげに何度か首を横に振った。僕は、いつもと違うあーちゃんをほっとけなかったんだ。


「病院三時からだし。まだ時間あるし、横浜で買い物でもしよっか?」

 その言葉にも乗り気ではないようで、あーちゃんはソファーから動こうとしなかった。本当は一人で横浜まで行こうかとも考えたんだ。でも、どうしてか僕もやめて、おもむろにゲームに誘ってみた。


「三國無双やろっか! 孫尚香のレベル上げしたいし。付き合ってよ」

 僕はコントローラーをふたつに手に笑ってみた。あーちゃんは眉間に皺を寄せながらも僕からコントローラーをひとつ手に取ると「夏侯惇は自らの片目食らったんでしょ?カッコイイよね」なんて笑ってくれた。


 なのに、その後にあんな大きな出来事がくるなんて思わなかった。


 僕は関西出身で阪神・淡路大震災を経験している。まだ若かった僕は一人暮らしで朝方に大きな揺れがくる数分前に何故か起きて、天井をボーッと見上げていた。すると、大きな地響きのような音が聞こえて、生まれて初めての大きな地震を経験する。幸い新しいマンションで荷物も沢山持っていなかった僕は、怪我することもなく、揺れが落ち着いたから安心してまた眠りについた。

 朝になって電話が鳴り響いて起こされ不機嫌に電話に出た。

 電話の相手は父親だった。

「大丈夫か?」その第一声に僕はキョトンとした。


「え? 何が?」

 僕は素っ頓狂な声で何が大丈夫なのかを確認すると、父親がテレビを付けろと言う。意味がさっぱり分からずにテレビを付けて僕は事の大きさに初めての恐怖を感じた。


 道路の崩れ落ちた高架下。火の手の上がった神戸の街。アナウンサーの必死に訴える声。まだ夢を見ているのかと勘違いをするくらいだった。


 津波がなかっただけマシだった。とか。死者の数が違う。とか。比べる人もいるみたいだけど、そういうのは違うと思った。怖い思いをしたことには違いないと思う。


 僕は、いくらでも我慢はする。

 その先に明るい未来があるならば。

 大丈夫。まだまだ行けるぜ!



 グダグダ必死になってもいいのよ?

 みんな違うんだもん。ね。

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