激励の拳
祝!200話!
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…
「…ッしゃあー!勝ったどー!!」
「これで僕達のパーティも大会上位残留決定ですね。…ッ痛…」
「ロス大丈夫だが?」
「ぬー」
「いや待てダグ、何でおめーそいつと仲良くなってんだ。しかもなんか小さくね?」
歓声に応えるように両の拳を突き上げていると、能力が切れて応急処置をしていたロスが小さく悲痛の声を上げた。
それを心配するダグだが、右肩の上にぷるんとしたあの黒いスライムがいるのをゼーベックが指摘する。
あれ、あのスライムってホコラのパーティの奴じゃ?あと確かに小さい。よくよく見てみればダグと一緒に
まるでシラタマのようだ。サイズはシラタマよりひと回り程小さいようだが。20㎝くらい?
「一緒にトラップに囚われてるうちに仲良くなっただよ」
「ぬー!」
まん丸艶々の身体をぷるんと伸ばし、その黒いスライムは元気に応えた。なにあれかわいい。
と、その黒いスライムに和んでいると、ボサボサの空色の髪をした審判の男が声を掛けて来た。レバリーさんだっけか。
「えーと、そろそろそちらもステージから降りてくれると助りまーす」
「早くこっちこいよあんちゃん達ー!おめぇらも医務室行くんだろがー」
「おっと、こりゃすまねぇ。行こうぜみんな」
レバリーさんの言葉に続くように、既にステージを降りていたホコラが遠くから声を張り上げていた。
ひとまず治療を受けにホコラと一緒に医務室へと向かう。
と言っても怪我という怪我をしたのはロスと
黒いスライムの正体はアシッドスライム、つまり酸性の力を持つスライムであの試合でのやりとりでダグが好かれたらしく、分裂した一部はそのままで構わない、こき使ってやってくれとの事。
スライム独自の弾性と、酸性の力はダグの低めの攻撃力を強化してくれるだろう……シラタマがライバル視しそうではあるが。
俺とゼーベックとダグはトレーニングルームで次の試合の為に、今回のルールで起きた事を踏まえての会議と手合わせ。
両手の怪我も踏まえて、ロスはルギくんと一緒に次の試合を見て来てくれると言ってくれた。ロスなら俺たちの提案もすぐに合わせてくれるだろうし有り難い。
「おう、カナタ。前の試合みてぇな時に備えてお前もオレのナイフ持っとけ。一時間程度なら寒いとこや暑いとこなら耐えれる筈だ」
「おう、さんきゅ。それを真似してこっちも俺の馬鹿力と耐久力を出せる腕輪作ってみた。数秒だけだろうが軽い疲労低度で使える筈だ。得に今回みてぇに逃走とかに役立つだろ。ダグも受け取ってくれ、後でロスにも渡す」
「助かるだぁ。コレならオラもゼーベックももっと楽になるだよ。オラもこの子と能力合わせた即席落とし穴玉作ってみただよ。使って見てほしいだ」
「ぬー!」
「早えな作るの。俺なんか一日かかったってのに──ふがふが」
「にゅー!」
目の前に突然のふかふか目隠し。その正体は言わずもがな顔面に張り付いたシラタマ大先生である。
ノンさんから後で聞いた話しだがこのシラタマ、やきもちも妬いていたっぽい。
「おーおー、シラタマはかわいいなーよしよーし──…ありゃ?」
「お、居たな。感心感心」
ぺとりと張り付いたシラタマを剥がして
ふと誰かの視線に気付いてトレーニングルームの入り口を見てみると、そこには数名の鎧を来た兵士と、銀色の甲冑、群青色のマントを来た、暗めの灰色の髪を後ろで纏めた、王都の護衛隊長──ラデンさんが居た。
「ラデンさん!お久しぶりです!どうしてここに!?」
「そりゃあ王の護衛さ。まぁ、その本人は私が〝不必要なくらい〟の実力者達の所にいるし、〝不自然なくらい〟王都は平和でね……活躍は道中出会ったルギくんや道ゆく人達から聞いたよ。準決勝進出おめでとう」
「ありがとうございます。〝不自然なくらい〟ですか?」
「ああ、この時期は祭りに乗じて起きてた事件がぱったりと無くなって──まぁ、それは良い、ここに来た理由は顔を見に来たのともう一つ、私の部下達と手合わせをしないか?お互い良い練習になると思う。こちらなりの
なんと、ラデンさんは俺達と練習がてら手合わせをしに来てくれた言うのだ。
休息を取る時間にしても良かろうに…ありがたい。
「夜に知人と呑む約束があるんで…それまでなら是非──と思うけど、どうよお前ら」
「かまやしねぇよ。身内だけの手合わせってのも限界があったしな」
「オラも問題はねぇども…大丈夫だべか?怪我でもしたら仕事に支障が出るんでねぇべか…」
ゼーベックの意見もダグの意見も最もだ。
兵士といえど大会に出ていた俺たちを相手取るのは…と、そんな事を思っているとラデンさんがす、と手を上げて質問に答えた。
「そこは心配しなくても良い。優秀な医療班の人材も一人呼んである……そして彼らは〝元大会出場者〟だ。遠慮はいらない」
「ちなみにラデン隊長はギルドマスター、ファウストさんの一番弟子だぜ」
「部下達もその手解きは受けているがね」
兵士の一人であるおっちゃんががはは、と笑うとラデンさんもいつもの柔和な笑顔で答えた。
なんと、なんと。強いだろうと思っては居たが……ファウストさんの一番弟子とは。
「へぇ、あの人のねぇ。…面白ぇ、オカマのせいで不完全燃焼だった所だ」
「だそうなので早速やりましょう。えーと?…皆さん無手なんですか?」
「武器はあるが無くても構わない。〝そういう武術〟を私達は使える──十人十色の拳打術である〝フュジアーツ〟、我が国の兵の実力の一旦をお見せしよう…!!」
…
時刻は日も暮れて来た黄昏時、大会中である外には美味しそうな匂いと、人々の心を支える一つであるアルコールの匂いが漂い、笑顔の花が咲いては散る。
そんな時刻、賑やかな出店やらの場所とは裏腹に、ひとつの静かな店の中にかちゃりとドアの開く音が響く。
店のバーテンダーである銀髪の男性は綺麗なグラスの水滴を拭き取りながら、お客である人物に声をかけた。
「いらっしゃいませカナタ様。先におかけ下さい、まだ予約の時間には早いですから」
「すいませんタロンさん。心配性なもんで少し早く着いちゃいました」
なはは、と苦笑しながらカナタは後頭部を軽く掻いてはカウンターの席へと腰をかけた。
そっとバーテンダーであるタロンはカナタの目の前にナッツが入った小皿を出す。
「サービスです」
「おお、ありがとうございます。ん〜香ばしい、歯ごたえもカリッカリでたまらないなこりゃ…お?」
ナッツの美味しさに舌鼓を打っていると、ドアの開く心地良い音が響く。
どうやら約束の時間になったようだ。
「いらっしゃいませ」
「おう、来たな〝ホコラ〟。ちゃんと来れたみたいで良かった」
「ほう…これはこれは、良い店だ。招き頂き感謝するぜぇ?あんちゃん」
…
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