レガートの森




『両者出揃った所でこの試合のルールを決めさせて頂きマース!この試合のルールはぁ〜〜──』




 コロセウムに備え付けてある巨大なスクリーンにルールである、勝ち抜き戦、ポイント戦、パーティ戦の三つの項目がてけてけと順番に光った。選ばれたのは──




『ポイント戦デース!!』




 ポイント戦…か。その選ばれたルールに開会式でのバルロさんの言葉を思い出す。


──次にポイント戦、コイツは各陣地にある旗を取り合って貰う、戦闘するしないは自由だ。先に三つ旗を取った方の勝ちだ──


 陣取り合戦みたいなものか?四人であるこっちと違い、一人参加のホコラには不利な気もするが……




「あっちゃ〜、ポイント戦かよ…」




「なんだよゼーベック、なんかあんのか?」




「フィールドが違うんですよカナタ。ポイント戦はここで戦うのではなく、空間魔法によって作られた別の場所へ飛ばされるんです。ゼーベックの能力が有利に働く沙漠とかなら助かるのですが……」




 うげぇ、と声を漏らすゼーベックに俺が尋ねると、ロスが補足も加えて説明してくれた。


 なるほど、熱属性なら砂漠や氷雪帯は相性が良いだろう。


 そんな願いも虚しく、この試合のフィールドが実況のピピさんによって告げられた。




『場所は──〝レガートの森!〟英雄達によって魔物の脅威から開放された深い森デス!生命力の高いこちらの森で存分に戦って頂きまショウ!!』




「げっ……最悪だ。こうなりゃいっそ──」




「ゼーベック、山火事にしたらダメだどぉ?オラ達まで巻き込もうとしないでくれだよ」




「チッ…わーってるよダグ。やれやれ、焼き払った所ですぐに生え変わる植物が生息する〝レガートの森〟か、賢者レガートも大層な魔法を使ったもんだな」




 不敵な笑いを浮かべるゼーベックにダグが注意をすると、嫌そうな顔でぼそりと愚痴のように溢した。




───〝レガートの森〟、【聖戦】にて荒地から緑豊かな森によみがえった、賢者レガートによって復活した森───


───賢者レガートによって蘇ったこの森は、それ以上成長する事は無くとも、切られようが燃やされようが一定の状態に再生するという凄まじい生命力を持ち、今もなお此処で暮らす数多の生命を守っています───




 というケスルタ先生による詳しい情報。


 なるほどな、切られようが燃やされようがって凄まじいな…キャンプには苦労しそうだ。


 と、気楽な事を考えていると足元に魔法陣が浮かび、光り出す。




『転移魔法陣、起動!』




「おっ」




 魔法陣の光と共に身体に感じる浮遊感、足元からスプレーを吹きかけられたように徐々に変わりゆく景色。


 気付けば俺達は鬱蒼うっそうと緑を彩る森の中に居た。


 ここが──戦いのフィールドレガートの森か。




『無事到着したようなので改めてポイント戦のルールを確認させて頂きマース!このレガートの森に散らばった旗を取り合って頂きマス!お互いが出会っても戦う、戦わないは自由!先に三つ入手したパーティが勝者となりマス!!』




「散らばった旗を先に三つって…結構な深さに見えるぞこの森……いったいどれだけの旗がばら撒かれたんだ?」




 周りを見渡しても高い木々に囲まれた景色ばかり、助かったのは生垣のように視界を完全に覆うような植物ではないという事ぐらいか。




『レガートの森は広大な為、結界によって円形に仕切られておりマス!旗はいにしえより伝えられし三人の巫女にあやかった赤、青、緑の三色が何処かにありマース!!あ、旗はある程度分かりやすいように白い枠線で囲われておりますのでご安心ヲ!』




 どうやら完全に保護色になって見つからないって事はなさそうだ。


 しかし、それでもこの森で三本というのは大分難問だというのは変わりない、まぁ……




「やるようにやるだけだな」




 バシン、と左手の掌に右拳を打ち付け、笑みが溢れる。


 探す物が分かってるだけマシだ。さぁ──




『二つのパーティの様子は各地に散らばった魔道具にて中継放送されておりマース!…おっ!お互い準備は良さそうなのでそれでは早速始めて行きまショウ!!スタナー・テラポス対ホコラ!試合開始デス!!!』




「ハハッ!いっちょやろうじゃねぇかカナタ!ロス!ダグ!!」




「「「おう!!」」」




──かかってきやがれ、剣閣けんかくハクロ!!







「よし、まずは現状を把握しましょう。カナタ、上から周りの様子を見てきてくれますか?」




「おう、任せろ。ベッセルで通信を入れる」




 ロスの言葉にカナタが深く沈み込んだと思うと、高く跳躍した。身体を翻し、軽やかにその高い木の頂上へとカエル脚で着地をする。


 その軽い動きにゼーベックは流石身体系、偵察には助かるぜ、と感嘆の声を上げていた。


 カナタがその木の上で見た物、それはこの森を包む半透明状の膜のような物。恐らくこれが結界なのだろう。




「はぁーん?あれが結界か…広ぇ広ぇ、こりゃあ見事な森だ。中央に川が流れてあっちと区切られてる。端の方には崖から滝も流れてるぜ。動物の鳴き声も聞こえる、猛獣も至る所に居そうだ」




『了解。相手の姿は見えそうか?』




「んー、今ん所は見えねぇ…ん」




 カナタは目に魔力を送り、視力を強化した。ロスが試合でやってみせた物を自身の能力なりに真似た物だ。


 右端、崖の下の滝壺の中に何かが見えるのが分かる。




「相手は見えねぇが滝壺ん中に何かあるな。まずは右端の滝を目指すのが良さそうだ」




『了解、なら早速──』




「いや待て!向こうの木々が〝四方向〟に倒されてやがる!!もう相手は動きだしてるぞ!!!」





 カナタ達が辺りの捜索をしている同時刻、ホコラはふところから何かを取り出していた。


 人型に切り取られた、白い紙が三つを扇子のように広げる、




「さて……人数差をカバーしないとねぇ…」




 目の前に飛ばし、ぼわん、と煙と共に現れたそれは──式神と呼ばれた物だった。


 半透明の丸い不定形の生物、菅笠すげがさを被った和服姿の少年、ガタイの良い、むさ苦しい毛むくじゃらの男。


 ホコラはその式神を見て僅かな笑みを口元に浮かべたまま、片目をゆっくり瞑って腰元の刀に手をかけた。




──ッ。




 一閃。四方向の木々が一気に倒れ、道が出来る。


 その主の行動に驚く事も無く、彼らは指示を待つ。




「さぁ、競争だお前達。お相手さんより先に旗を三つ手に入れに行くぞ!!戦闘するしねぇは任せた!!」




── 【再】一方観客席のシラタマとルギくん──




ルギ


「向こうにシラタマの仲間っぽいの出てきた」




シラタマ


「にゅ?」




ノン


「いやそれにしてはデカい気が。シラタマちゃんとは違って半透明だし」




タマ


「なんだかタマちゃんゼーベックが悲惨な目に合いそうなよかーん。お髭レーダーがひくひくするわ」

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