祝い品、後に観戦




「いえ違うんです…バルム店長、これには訳がありまして」




「なぁに?言ってみなさい」




「久しぶりに会ったルギきゅんが可愛すぎてつい暴走を」




「ルギきゅんの反応も相まって可愛いすぎたから仕方ないと思うんです」




「ルギくんに近付く度に姿がおっさんに見えるまじない掛けるわよ」




「「すみませんでしたごめんなさいそれだけはッ!!」」




 声色こそ優しいオカマ口調の顎髭あごひげ似合う色男、バルちゃんに向けて二人の女性が両膝を付いて問答をするが、その恐ろしいまじないの内容に素早く頭を地に着け──いわゆる土下座をした。


 その一方では同じく両膝を着き、あまり変わらない顔でシュンと小さくなる赤黒い髪、白黒長身の女性ことアンヴィさん。


 目の前にはアルカイックスマイルよろしく、静かな怒気を発したルーインさんの美しくも怖いお顔が黒いヴェールの向こうに薄っすらと見えた。




「アンヴィ?どうして此処にいるの?」




「カナタを待ち構えてた」




「貴女自分の立場分かっているわよね?」




「そんなことよりこの脳髄にびりびり走る感覚が、衝動が、カナタを求めて抑えられ──」




「立場分かっているわよね?」




「……すまない」




 トーンの変わらないルーインさんの繰り返された言葉にぶった斬られ、一度燃えそうな勢いのアンヴィさんを文字通り鎮火した。


 この状態見たことあるぞ。外出中にやらかした犬が飼い主を見てしゅんとするヤツだ。


 状態としては高身長であるアンヴィさんだが、一般的な女性の身長であるルーインさんの下ではああも小さく見えるとは……とりあえずお二人の関係性がよく分かった。俺の思考?ばかやろー考えらせるな鎮火させろ。




「さて改めて初戦勝利おめでとうカナタ。ついアタシも感化されて恥ずかしい事をしてしまったが…コレを届けに来た」




「…アッハイありがとござ……筒?」




 顔を少し赤らめさせたれーちゃんが俺に渡した物はヘアライン加工してある銀色の筒…いやこれは……〝水筒〟だ。


 大体…缶ジュース一本ぐらいの液体なら入りそうなそれは俺でも知っている水筒だ。開けて見てもそれは確かに水筒だ。しかしよく見ると底部分に赤と青の魔跡玉オーブらしきものが陰陽紋いんようもんのように飾られていた。


 何か仕組みがあるのだろう……と、思う俺の横で俺と同じくもみくちゃにされたルギくんが来た。




「シラタマ、ちょっとの間もふらせて」




「にゅ?」




 ぽふん、とルギくんが抱きしめたシラタマに顔を埋めて椅子に腰掛けていた。とうとい。


 なおシラタマは抱きしめられた理由が分からずにぽかんとしたままルギくんにもふられていた。とうとい。


 ゼーベック含む他の人らは俺たちそっちのけで談笑中である。許さん。特にゼーベック。てめーぬぅわに美人と腹立つ顔でくっちゃべってやがる。




「ところでれーちゃんコレは一体」




「〝いつでも冷却、加熱できる水筒〟だよ。レオルに渡してくれと頼まれた。『出来たばかりの試作品ですがお役に立てれば』とな」




「おおっ!そいつぁ便利な!」




 シンプルな見た目に普段は見えない所に飾られたワンポイント、そして〝いつでも冷却、加熱できる〟という便利なロマン。


 試作品と言いながら多少ある面取りで角は無く滑らかに仕上げられており、不快な持ち心地を全くさせない。


 流石我が後輩レオル、素晴らしい物を作ってくれた。




「底にある青い魔跡玉オーブに魔力を流す事で冷却、赤い魔跡玉オーブで加熱が出来るらしい。


 大量の魔力が入ると壊れてしまうらしいが…魔力コントロールが上手いと聞いたカナタなら大丈夫だろう」




「あざす!」




「それではアタシはこれで失礼させてもらうよ。名残惜しいが…この後予定が詰まっていてね。束の間だがゆっくりするといい」




「わざわざありがとうございまし──え?」




 忙しい合間を縫って此処へ来てくれたであろうれーちゃんにそう言って頭を下げようとしたその刹那、何か柔らかい物が顔に当たった。




「礼は良い…ああ、ちなみにさっきやりとりは〝冗談では無い〟から」




「──ッ!?」




 右耳へと吐息と共にささやかれるその言葉、ふわりと漂う果実のような甘い香り、柔らかい物に俺の顔の体温はまたしても上昇した。


 そして顔に当たった柔らかい物がれーちゃんの胸だと言うことに。




「じゃっ、大会頑張って。またねシラタマちゃん」




「……めっちゃもてあそばれたな俺ェっふっ!?」




「にょっ!?」




 ルギくんにもふられたままシラタマがおててをふりふり。


 悪戯な笑みを浮かべながら手を振って去るれーちゃんに再び顔を紅潮させていると、俺の背後に誰かが抱き着いてくる。


 完全に気が抜けていたこともあり、びっくりするシラタマと同じく思わず声が裏返ってしまった。抱き着いて来た主の艶っぽい声が左耳へと溢れる。




「…やはり良い匂いだ……滲み出る苦難のみねを幾つも超えた感情のせせらぎ…落ち着く」




「ちょッ!チョットォ!?アンヴィさぁん!?」




「そうよアンヴィ、やるなら私の目の前でしなさい。楽しめないじゃない」




「まさかのアンタが元凶かよルーインさッアッちょッまッッッ!」




「ん〜何が起きてるのシャク。目を塞がれちゃ見えないよ」




「見なくて良いよルギ坊。もうちょっとシラタマを堪能しておき」




 俺の身体がアンヴィさんに堪能されている所を顔を赤らめたルギくんが見ようとしていたが、頭の上に乗ったシャクが両手で塞いで見えなくしていた。


 ある意味ナイスではあるが助けろてめぇ!!!!




「…嫌だったか?」




「いやあのそのですねそういう事をしてくる人は今まで居なくて決してアンヴィさんが嫌いという訳では無くてその……ッ俺には急すぎる行動なんですがッ!!!!」




「嫌いでは無い…では生涯消えぬ誓いを──」




 顔を真っ赤に両手でガードする俺に対しずいずいとお構い無しにアンヴィさんが近付いてくる。


 待って!待って!!本当に待って!!!




「だからッ!その距離感なんなんスか!?ちょっと!むむむむむ胸がッ!!」




「はーい、その辺にしときましょうアンヴィ。そろそろ戻るわよ」




「む、もうそんなに時が経ったか。さすれば仕方ない、堪能はしたし先程連絡先の交換もしたしな」




「いつの間にィ!?」




 お構い無しに身体をくっ付けようとするアンヴィさんだが、ルーインさんのその言葉で身体を離した…が、いつの間にそんな事をケスルタに確認してみるとそのには確かにアンヴィさんのフルネームであろうアンヴィ・ブルートの文字が有った。


 先程ということは…あの身体をまさぐられてる間にやったのか……




「改めて伝えておくがあたしはお前をつがいに迎えたい。何かあった時は助けになろう。〝連絡先は祝い品〟とでも思ってくれ。大会、応援している。では行こうルーイン」




「はー、面白かった。それじゃあねカナタ。…こんな面白いのは〝スライ〟以来ね」




 そう言って先程のべったりの好意から反して表情があまり変わらないが心なしか満足気なアンヴィさんと、上品に口元に手を当てながら黒い事を言うルーインさんが控え室を後にした。


 完全に楽しんでたなルーインさん…〝連絡先は祝い品〟?〝スライ〟って誰だ…あー!もう!




「疲れた…」




 考えを流すようにデカいため息を一つ。同時にあっちでもバルちゃんのお説教も終わったようなので…切り替えて腹ごしらえをしながら大会の観戦としよう。







「ほれ食えカナタ、この串肉はうめぇぞ。あんなんされて疲れたろ?えはははっ!こっちにとっちゃ良い酒のツマミになったがな!」




「さんきゅーアイゼン。そりゃ何よりで…今戦ってるのは?」




「座長、とんがりマスク率いるファードラゴンとドワーフの兄弟からなる巨獣兄弟だな…!」




────────────

ルギ


「…シラタマやっぱもう少しもふらせて」



シラタマ


「ふにゅ〜」




カナタ


「…身体から良い匂いしてすっげぇ落ち着かねぇ……」



シャク


「やれやれウブな男たちだこと」

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